狼と干し肉の作り方
まだ日が高かったので森に向かった。
いつもの小屋に行くとすでにゴデバさんはいなかった。
その代わり地面を引っかいて『さきにいってる』と書き置きがしてあった。
おらは森の中を急いでゴデバさんの後をつけた。
ところどころ木の枝を折って目印をつけて行ってくれたので、道に迷わずに追跡できた。
そして漸くゴドバさんの背中が見えたのでほっとした。
だが様子が変だ。
ゴデバさんの足元には仕留めて解体途中の鹿の死体があった。
だがその前方十五メートルくらいの所に狼が十数頭いた。
「ミッキーか」
ゴドバさんは振り返らずに言った。
「奴らに獲物を譲れば助かるかもしれん。
だが、お前が来たのでもしかするとお前を狙うことも考えられる。
どうする?」
おらは返事の代わりに地面に矢の束を突き刺すと次々に矢を射た。
普通なら矢が届いても浅くしか刺さらない矢が矢羽根まで深く突き刺さる。
薬を塗らなくてもそれで三匹倒した。
死んでなくても矢が貫通したから動けないだろう。
ゴドバさんも矢をおらと同時に射て、すでに残り十匹になった。
けれどももう目の前に狼は迫っているっ。
おらは走った。
いつの間にか狼たちの動きは目で追えるほどのスピードになっていた。
おらは手にダガーを持って、群れの中に飛び込むと、体を低くして構えた。
囲まれていたけれど不思議に空気の流れで連中の動きは見えた。
背後の空気が動くので振り向きざまにダガーで飛び掛かって来た奴の喉を掻き切った。
そして前の方から飛び掛かって来た奴の顎を蹴り上げた。
バクンと音がして狼の首が変な方向に曲がってしまう。
噛みつこうと飛び掛かって来る奴の口を軽く避けて目玉にダガーを突き刺す。
さらにそいつの胸から腹にかけて縦に斬り裂く。
それがいとも簡単に斬り裂けてしまうから不思議だ。
きっと物凄いスピードで斬っているのだと思う。
斬られた狼も斬られたことに気が付かないくらいに。
おらは空気の層の中を割と平気で動き回った。
前回とは違う。前回よりも体が動くのだ。
気が付いたら残り十匹のうちゴデバさんが二匹矢で仕留めたけれど、八匹はおらが倒してしまった。
「驚いたな。また火事場の馬鹿力が出たみたいだ」
ゴドバさんが生きている狼のとどめを刺しながら言った。
「折角だからかわはぎの仕方を教えてやろう」
おらはまず狼の体でかわはぎを練習させられた。
そして鹿の解体もさせてもらった。
いつもはウサギくらいしかさせて貰えないのに、今日は大判振る舞いだ。
狼も鹿も四つ足動物だから処理の仕方は似ている。
内臓の取り方、肉の部位の切り分けなど、狼で練習してからやると鹿でも面白いほど簡単に覚えられる。
狼は皮は売れるが、肉はさほどおいしくない。
それでもゴデバさんはとっておきの方法を教えてくれた。
「狼の肉でも水分を取れば結構食べられる味になるんだ」
ゴデバさんはこの森の土がある程度掘ると火山灰の地層が出て来ることを知っていた。
「火山灰は水分を吸う。
だからここに埋めるんだ」
そしてその上にできるだけ大きな石を沢山乗せて、獣に掘り返されないようにする。
獣がいやがる匂いのきつい植物の葉を集めて上から被せる。
「こうやっておけば数日後に肉の臭みがすっかり抜けて身が締まる。
それを持ち帰って干せば、塩を塗らなくてもうまい干し肉ができる。
そうだったのか。
ゴデバさんの干し肉は塩辛くないから、いつも不思議に思っていたんだ。
「これも秘密だぞ。家族にも言うんじゃない」
おらは頷いた。
続きます。