魔法契約
小屋に戻るとゴドバさんは黙って銅貨を二十枚おらにくれた。
「獲物をひとつもとってないのに」
「良いからとっておけ。お前が来年ここを出るときの為に金を貯めているのを知っている」
「あ……ありがとうございます」
「ひとつだけ教えてくれ。
儂の目から見てもお前の動きは速すぎて見えなかった。
まるで飛んで行く矢のように魔獣に向かって飛んで行ったように見えた。
気が付いた時は暴れまわる奴から離れて地面に転がっていて、それから普通に走って儂の所に来た。
あれはどういうことだ?」
「おらにもわからない。
もう駄目だと思ったら急に怪物の動きが遅く見えて、それで」
おらはやったことをタングベイカーのこと以外は正直にゴドバさんに話した。
「そうか、それはきっと火事場の馬鹿力という奴だな。
人は死ぬほどの目に遭うと信じられない力が湧くって話だ。
お前の場合は馬鹿力の代わりに物凄いスピードが出たんだと思う。
だがそのお陰で儂は助かった。
だから明日からはお前に儂の持ってる技をすべて伝えようと思う。
それでこれからお前と契約をする」
ゴドバさんは小屋の床にある隠し戸のような蓋を持ち上げてなにやら羊皮紙のようなものを取り出した。
「これは昔の師匠から貰ったものだ。
もし師匠から習ったすべての技を伝えたい弟子ができたら、この契約をしてから伝えるようにと渡された。
この羊皮紙は余分はないから、もし将来自分の弟子ができたときは自分で用意しなきゃならない。
けれども契約の羊皮紙はインク代も含めて金貨数枚もするものだ。
それは弟子に用意させる方が良いだろう」
おらは冒険者になったときクエストが自分でも読めるようにアレックさんから字を習った。
それでもところどころ読めない字もある。
「要するに儂がこれから伝える技の中で痺れ薬の秘薬などの機密事項については誰にも教えてはいけないと書いてある。
もし破ったらその代償として命を失う。
但し魔法契約をした弟子に関しては伝承を許すと書いてあるんだ。」
おらが師匠と一緒に自分の名前をサインし指をナイフで切って血を垂らすと、羊皮紙が光って空中に消えた。
そして温かいものが胸に入って来た。
「契約がお前の胸に入った。約束を破れば契約の力でお前の心臓を止める」
おらは初めて魔法の力を知った。
でもこれがなくてもおらはゴドバさんとの約束を守る自信がある。
続きます。