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狩人のゴデバさん

「来たか、ミッキー。今日は鳥を撃ってもらうぞ」


 ゴデバさんの狩人小屋に行くと,戸の外で待っていてくれた。


 砥石で鏃を研いでそれを矢柄やがらにつけている。


 そして小さな器に入ったトロリとした痺れ薬の中身を確認している。


 痺れ薬は使う直前につけて使うのでフラエチアという瓜から作った器に入れて持ち歩く。


「行くぞ」


 ゴデバさんは先にどんどん歩いて行った。


 この森はずっと奥に進むと大きな山脈にぶつかるそうだ。


 そこから先は魔獣の生息地なので、決して足を踏み入れてはいけないと言われている。


「魔獣は普通の獣を狩る儂らには通用しない力がある。


 矢で射ても刺さらない皮だったり、獣のように人を恐れて避けることはせずにいきなり攻撃して来る」


 ゴデバさんは魔獣に一度だけ出会ったことがあるという。


「ハーピーと言ってな、人間の女の体をしているんだ。


 腕の代わりに鳥の翼を持っていて下半身も鳥だ。


 ただ人間の女と同じように裸の胸には乳房がついている。


 一見美しい顔をしているが騙されちゃいけない。


 人を見ると恐ろしい顔になるんだ。


 鼻や眉間に深い皺が寄って、口が耳まで裂けて目が血走って吊り上がる。


 そして女の悲鳴のような鳴き声を出すんだ。


 その泣き叫ぶ声を聞くと、体が金縛りになったように動けなくなる。


 儂はナイフで太ももを刺してから金縛りを解いて奴を矢で射たよ。


 それでも翼をバサバサさせて儂に何度も襲い掛かって来た。


 儂は死に物狂いで山刀を振り回して、近づかないようにしてたが、そのうち諦めたのかどこかに飛んで行った。


 痺れ薬が効く前に行ってしまったから止めを刺せなかったが、あんな恐ろしい思いをしたのは初めてだ」 


 そう言えば、村の護衛をしている元冒険者のアレックさんは魔獣や魔物と戦ったことが何度もあるって言ってた。


 アレックさんはおらのもう一人の師匠だ。


 暇なときは村人や子供たちに剣の使い方を教えてくれる。


 そのアレックさんが魔獣に効く薬を教えてくれた。


 タングベイカーという実の粉を風上からぶつけてやると、鼻がおかしくなって苦しみもだえるというんだ。


 その隙に近づいて殺すのだが、アレックさんは狙う場所は三か所のどれかだという。


『どんな魔獣でも目玉と肛門そして口の中は柔らかい。


 そこを狙えば錆びた剣でも突き刺さる』


 だからおらはタングベーカーの粉を常に持ち歩いている。


 猟師は使わないものだ。


 でもおらはお守り代わりに持っていた。








「今日は胸騒ぎがする。嫌な感じだ」


 ゴドバさんは急にそんなことを言い出した。


 そう言えば、鳥の鳴き声とかが聞こえない。


「魔物や魔獣は魔気が濃い場所に現れるという。


 そして魔気の流れは時々変わることがあって、普段流れない所に流れてくる場合がある。


 駄目だ。あの時の感じに似ている。


 今日は引き上げよう」





 でもおらは震えながら指さしたんだ、ゴドバさんの背後の景色に見えたものをっ。


 振り返ったゴドバさんは慌ててフラエチアの口をあけて鏃に痺れ薬を浸した。


 そしておらにも器を渡した。


「落ち着け。薬は雫を落としてから使え。そうしないと射るときに余分な薬が顔にかかる」


 オラは頷きながら矢に薬を塗ると構えた。


 前の方から物凄い勢いで突進してくるのは馬車くらい大きい怪物だ。


 熊に似ているが頭に角が三本生えている。


 そして目玉が倍以上大きくて真っ赤な色だ。


 体毛も黒や灰色ではなく、赤と緑の縞模様で気違いじみた配色で……。


「駄目だ。ミッキー、お前は逃げろ。矢が刺さらないっ」


 そう言いながらゴドバさんの何本目かの矢が魔獣の右目に刺さった。


 でももう間に合わない。


 次の矢は間に合わないのだ。


 おらの矢も簡単に弾かれてしまったし、もう二人とも一秒後には熊魔獣に殺されるのは確実だ。


 近くに迫ると魔獣はとても大きい。


 途端に辺りの空気がどろっと重たくなった。


 そして魔獣の動きが遅くなる。


 一秒後じゃなく十秒後にここに辿り着く感じだ。


 おらはフラエチアの中の薬に矢を浸してそれを手に持って前に走った。


 ところが空気がやたらに重い。


 まるでゼリーにの中を歩いているような感じで空気抵抗が半端ではないのだ。


 魔獣の全身は空気の波に包まれて周囲の森が歪んで見える。


 魔獣の口は大きく開けられておらたちをかみ砕こうとしていた。


 ナイフのような歯がびっしり並んでいる。


 おらはタングベイカーの粉を魔獣の鼻面と口にぶつけた。


 さらに口の中にフラエチアの入れ物を中の薬ごと放り込んだ。


 おらは魔獣の左目を見た。


 真っ赤な目玉は怒りに燃えているようだった。


 おらは体を左側に逸らすと同時に左目に矢を突き刺した。


 ズブズブと矢羽根近くまで突き刺さったのを見て体を横に飛ばして転がった。


 急に辺りの空気が元に戻って魔獣の苦痛を訴える咆哮が響き渡る。


 目が見えない。鼻も利かない。口の中が辛い。それでパニックになって滅茶苦茶に暴れまわっている。


 オラはゴドバさんと一緒にその場からできるだけ遠くに離れた。


 巻き込まれたら大変だから。


「ミッキー、お前何かしたのか?」


「左目を矢で……」


「そうか、お前のお陰で助かった。少しでも遠くに行こう。


 また違う魔獣が現れたら、今度こそ助からない」


「あのう、フラエチアを使い果たしてしまいました」


「そんなのは良い。命あってのものだねだ」



続きます。

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