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ベンジャミンさんの手伝い

 ネバーランド子爵領の領都ネバーランドシティに着いて、一か月余りが経った。

 おらは冒険者登録を無事に終えて新人冒険者Gランカーのミッキーとして、ソロでこつこつ地味なクエストをこなして行った。

 おらはウォルナッツ村ではゴデバさんについて狩人の暮らしを学んだし、アレックさんについて冒険者の必要な基礎を身に着けた。

 だからこそなんでも新しいことを始めるのには『背伸び』は良くないってことを心得ている積りだ。

 下積みというのは上に積み重ねる為の土台だって、教えられた。

 商人は情報と信用だというけれど、それは冒険者も同じだと思う。

 だからおらはまず都市内の雑役を専門にこなした。

 それも『塩漬けのクエスト』を中心に頑張ってこなして行った。

 どぶ掃除、路上清掃やゴミ処理、下枝うち、雑草刈り、土起こし、薪拾いなどの比較的汚れ仕事中心に引き受けてきちんと仕事をした。

 それでギルドの受付嬢の信頼を得たようだ。


 専門に相手をしてくれる受付嬢はナンシーさんだ。

 派手な顔ではないけれど、穏やかな癒し系の美人さんで、年齢は十八才らしい。

 そのナンシーさんにおらは頃合いを見計らって聞いてみた。

「ナンシーさん、おらは薬師さんの手伝いとか、解体の手伝いとかしてみたいのだけれど、そういうクエストってないだろうか」

「あるよ。ここ暫く領都内の雑役をしてくれて、仕事ぶりも真面目で丁寧だって評価されているから、ミッキーさんに任せられるかもね。

 とりあえず、ベンジャミンさんの所に行って薬師の手伝いをしてみますか?

 でもあんまり気に入られて、そのまま店の店員にされちゃ駄目だよ。

 ミッキーさんは薬草採取は一度もやってないけれど、薬草のことは少しはわかるかな?」

「簡単なものなら村でも採取したことがあるから分かると思うよ」

「それなら大丈夫。今、紹介状を書くからそれを持ってベンジャミン薬師店に行ってごらん。

 仕事内容は薬品の整理で、期間は一週間。

 それ以上深入りしちゃ駄目だよ。

 ミッキーさんは冒険者としてこれからも頑張ってもらいたいから」


 どうやらおらは使い勝手が良いから、ギルドで手放したくないみたいだ。

 理由がどうであれ、ナンシーさんに気に入られているのは嬉しい気がする。

 あなたは役に立ってる。手放したくないって言われているってことだから悪い気はしないんだ。

 


 ベンジャミンさんはお爺さんで気難しそうな人だった。

 おらをジロジロ見て、こんなのは頼りないって思ってることが顔に出ていた。

 紹介状を見せると、おらのことを良い風に書いていたらしく、少し顔の表情が穏やかになった。

「ふぅん、薬草の採取したことがあるんだな。

 ここに来て一か月になるけれど、さっぱり領都の外に出ていないから、経験がないと思ってたぞ」

「おらのことどうして知ってるんですか?」

「領都内の雑役をして廻っている新人冒険者ってお前のことだろう?

大抵の新人はすぐ外に出たがるけれど、なぜお前は雑役ばかりしてるんだ?

 ここに傷薬を買いに来た坊主たちは、お前のことを臆病者だって言ってたぞ」

「坊主たちって、新人冒険者の子たちですか?」

「ああ、ホーンラビットに突き刺されて怪我をしたって、薬を買いに来てた坊主たちだ。

 Fランカーだって言うから、まだ半人前らしいが、一人は安物の剣を持っていたし、弓を持ってた女もいたな。それとナイフを棒にくくりつけた手製の槍を持ってた坊主もいた」

「ああ、それは『闇の殺戮者』という三人パーティですよ。

 ホーンラビットやゴブリンを狩っている人たちです。

 おらの顔を見るとすぐに腰抜けとかドブさらいとか言って来るんです。

 もう慣れましたけど。

 ああ、どうして領都内の雑役ばかりするのかって話ですよね。

 それは冒険者に必要な下積みの仕事だからです。

 村にいたとき元冒険者の人に言われたんです。

 下積みの仕事をきちんとしておくとさらにその上の仕事をするとき役に立つって。

 それに冬になって冒険者の仕事が少なくなった時にも、市内の雑役は必ずあるし、その仕事を優先的に貰えるから食いっぱぐれることはないって」

「ほう、よく分かってるな。

 たしかにお前の評判はかなり良いらしいな。

 どんな仕事も嫌がらずにきちんとするって話だ。

 まあ、うまく領都の馬鹿な者たちの機嫌をとって取り入ることに成功したことまではよく分かる。

 だけど、うちの仕事はドブさらいとは違うぞ。

 頭を使うんだ。

 任せたいのは薬品の整理だ。

 紹介状には簡単な薬草くらいなら見分けられると書いてあるが、何百種類もある薬品とその倍以上もある薬草などの素材を見分けることが必要だ。

 自信がなかったら、今すぐ帰って貰っても構わない。

 下手にいじられて高価な薬を駄目にしたくないんでな」

「薬草や薬素材のことを詳しく書いたものがありますか?」

「ふん、やる積りか。だが途中で投げ出したら一モルグも支払わないぞ。

 これが薬草図鑑だ。まだ生の状態の図と名前、そして効能などが書いてある。

 こっちはその他の薬素材図鑑だ。

 骨や角、鉱物、蜜など薬草以外の薬素材が書いてある。

 だが薬草は乾燥したものしかない。図鑑で見ても見わけるのは難しいぞ」

 乾燥したものを見分けるのか。

 これは確かに難しい。

 おらは正直言って、狩人のゴデバさんからも冒険者のアレックさんからもそれぞれに必要な薬草や薬素材のことは習っていた。

 そのほかによく森を歩くので、ドーリー婆さんから頼まれて薬草採取をしたものだ。

 ドーリー婆さんは村で一番薬草に詳しい人で、頼まれてポーション作りの手伝いもしたことがある。

 だから簡単な薬草どころか百種類くらいは知っている。

 それでも乾燥すると葉の形とか茎や根の色や形が分かりづらい。

 おらは横でねちねち言うベンジャミンさんに喋らせておいて、薬草図鑑と薬素材図鑑をパラパラとページをめくって行った。

 殆ど見たことがある薬草だった。

 特に毒草まで書いてあるが、それは絶対見間違えることはない。

 間違えたら命に係わるから幼いころからしっかり頭に入れてある。

 薬素材については知らないものが殆どだったが、これは図鑑の絵と同じ感じなので、間違えることはないと思う。

 おらはベンジャミンさんの顔を見て言った。

「やってみます。整理する物を見せて下さい」

「付いて来い」

 ベンジャミンさんは店の裏の薬品素材庫を見せた。

 物置みたいなところで棚には出鱈目に素材が突っ込まれている。

「薬草には採取年月日が書いてある。

 同時に使用期限も書いてあるからそれが過ぎた薬草は廃棄してくれ。

 だが間違えると困るから、廃棄するものはこっちのテーブルに並べてくれ。

 儂が後でチェックして合格したら廃棄してもらう。

 それから……」

 おらは薬草や薬素材の並べ方も聞いてから、山のように積んであるブツを猛スピードで仕分けした。

 仕分けするときは何も考えない。

 ただ使用期限の年月日を見て、まだの物と過ぎた物を分けるのだ。

 そして全然関係ないものもあったので、それは別の場所に置く。

 薬草でなくても蜜のように鮮度がある程度問題なものは使用期限が書いてあるので、それらも仕分ける。

 途中で仕分けるものが空中に浮かんでゆっくり落ちるようになった。

 おらはそれを下に落ちる前に日付を見て廃棄する物か残す物か判断しそれぞれの場所に置く。

 きっとおらの動きが高速になっているのだと思う。

 テーブルに廃棄する物が山積みになり、それでも置ききれずに裏庭の地面に敷物を敷いてそこに並べるようにした。

 それから今度は整理棚に残っているものをすべて床に下して、図鑑に書かれた順に並べて行った。

 本当はよく使う薬素材や薬草は手の届く所に、そうでないものは高い所か逆に低すぎる所に並べると良いのだろうが、図鑑の順番でと言う指示だったので、その通りに端から並べて行った。

 その結果薬草だけで棚が四つ分、薬素材だけで四つ分になった。

 というか一週間も必要なかった。



 全部終わったので、ベンジャミンさんの所に行くと、しかめっ面して店番をしてたが、お客さんはゼロだった。

「終わりました」

「何をふざけている? あの部屋のもの全部だと言ったろうっ」

「はい、だから全部仕分けしましたよ」

「馬鹿も休み休み言えっ。あれだけのものがこんな時間で終わる訳がない」

 頭から湯気を出してベンジャミンさんはドタドタと足音を強く立てながら薬品素材庫に向かって先に中に入って行った。

「ひゃあああ、な……なんだこれはっ?

 ブラウニーでもやって来たのか。

 というかミッキー、お前の正体はブラウニーなのか」

 ブラウニーというのは妖精の名前で、夜中に人が寝静まっている間に代わりに仕事をしてくれるそうだ。

 もちろんおとぎ話に出て来る妖精だ。

「廃棄物はテーブルに載りきらなかったので、裏庭の敷物の上にも並べてあります。

どうぞ確かめて下さい」

「ひゃぁぁぁぁ、一週間かけてやってもらう積りだったから、少しずつチェックしようと思ってたんだ」

 ベンジャミンさんは最初は手に取って順番に見ていたが、そのうちアトランダムに取り上げて、手抜きチェックを行った。

 もっともおらは間違えずに仕分けしたからどっちでも良いけれど。

「驚いたな。言ったとおりに廃棄している」

 なにを当たり前のこと言ってるんだろう、この人は。

 言ったとおりにするのが仕事だろうに。

 それから薬草図鑑を手に持って薬草の整理棚を見て回った。

「これも……これもっ……全部あってる。

 驚いた。正確に並べている」

 いや、それも当たり前でしょう。

 何故驚くんですか?

 言われた通りに並べただけです。

 枯れた薬草をどうやって見分けたら良いのか悩んでましたが、日付と一緒に薬草の名前も書いていたから分かったんです。

 字さえ読めれば誰でもできるんですっ。

 だから全然難しくないぞ。

「いや、それにしても早い。

 でも一週間分の報酬は払おう。

 速いのはミッキー君が有能だからだ。

 ところで追加料金を払うから、ちょっと頼まれてくれないか?」

「えっ……ああ、良いですよ。

 まだ今日の終了予定時間より早いですから」

 おらはそうやって薬を作る仕事まで手伝うことになった。 


続きます。

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