旅立ちの日と傭兵のグランツさん
やがておらが旅立つ日が来た。
ウォルナッツ村から領都ネバーランドまでは馬車で三日かかる。
母さんが家を出るときにお守りだと言って、小さな布の袋を首に下げてくれた。
村の外れから領都行きの馬車が出ていて、銅貨二十枚を払って乗り込んだ。
いよいよおらは冒険者として独り立ちすることになる。
馬車には護衛の傭兵が一人乗っていて、その人は護衛なので無料で乗っている。
左頬に縦長の刀傷がある、凄みのある人だ。
名前をグランツさんという。
「坊主、冒険者になるのか?」
「はい、その積りで領都に行きます」
「だったら、剣は持ってなくても長い棒きれくらいは持って歩け。
ダガーだけならいざと言うときに頼りないぞ」
「はい」
おらは途中休憩の時に、グランツさんに干し肉を差し出した。
「なんだ? なにか頼みごとがあるのか?」
「はい、棒の振り方でも教えてもらえないかと」
「このくらいの棒を探してこい。
俺は剣の鞘のままで相手になってやる」
おらは早速探し回り手ごろな硬さの棒を見つけてグランツさんに見せた。
グランツさんはそれを簡単にへし折ってみせた。
「頭に当たれば相手を殴り殺すくらいの丈夫な硬い棒を探してこい。
それでなきゃ教えられない」
それがなかなか見つからず次のそのまた次の休憩場まで持ち越した。
森の中を少し奥の方にまで入って行くと、ちょうど良さそうな棒を見つけた。
でもその棒を持っていたのは普通のよりも二回りほど大きいゴブリンだった。十匹くらいのゴブリンと一緒に歩いていた。
おらは高速モードになってそのボスゴブリンから棒きれをひったくるとそれで頭を殴ってみた。
グシャッ
それから残りの子分のゴブリンを棒きれで叩き廻った。
高速で振り回して気が付いたことがある。
棒を振る時途中で軌道を変えてはいけない。
かなりの高速なので方向を変えるのには物凄い負担がかかる。
だから 棒の動きが自然に流れるように振ってゴブリンを倒して廻った。
体は自然に回転して独楽のように動いていたに違いない。
その方が無駄な力を使わなくてすむ。
だから右側にいたゴブリンを左から右に振りきって叩いた後、それを逆に振って左側のゴブリンを叩くよりも、そのままの勢いで右方向に回転して叩いた方が動きとして自然だということだ。
慣性の法則に逆らわない方が良いということだ。
けれども実際の剣法としてはこの理屈は通用しないだろうと思った。
おらはその棒を持って休憩しているグランツさんの所に行った。
「グランツさん、良い棒を見つけました。これでどうです?」
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次から一話を長めに投稿したいと思います。