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サムの本心

この部分は後で付け加えました。


 もうすぐウォルナッツ村を出てネバーランドシティに向かうという頃に長男のサムがおらとロイを家の中に呼びつけた。

「さあ、ミッキーも来たから、はっきりさせよう。

 ミッキー、この金を受け取ってくれ」

 サムは銅貨を五枚おらの目の前の床に置いた。

「な……なんだろ、このお金は?

 サムにい、意味わかんないよ」

「ロイがお前から盗った銅貨だ。

 ロイは全部使い果たしてたから、俺が代わりにお前に払おう。

 ロイ、言うことはないか?」

「お……俺は盗ってねえっ」

「いや、盗った。盗ったところをミッキーが見ていたんだ」

「「えっ?」」

 おらはサムがそれを見ていたのには気づかなかった。

 ロイはおらを睨んだ。

「くそっ、お前が言いつけたのか。見てたんだろっ。

 てことは俺を嵌めたのかっ」

「ロイ、やめろ。ミッキーは誰にも言ってない。

 あれからずっと待ってたがとうとう俺には言って来なかった。

 ミッキーが何かを見てるのを遠くから俺が見たんだ。

 その後ロイが現れて、村の雑貨屋に真っ直ぐ行って、金を払って干し肉や干し果物を買っていたのを見たんだ。

 使った金は銅貨五枚。

 それで分かったんだ。

 ミッキーはゴデバさんから貰った銅貨を貯めてどこかに隠してる。

 ロイがそれを狙っていたのも知っている。

 答えは一つだ。

 お前がミッキーが貯めていた銅貨を盗った。

 そういうことだ。

 お前が銅貨を持っている訳がないからだ。

 だが分からないのはどうして銅貨が五枚だけなんだ?

 そしてミッキーはどうして盗られたことを知っていて黙っていたんだ」

 おらは正直に言うことにした。

「ロイがおらの後をつけて銅貨を狙ってたことは知ってたんだ。

 でも、それなら五枚しかないのを見せてそれは盗まれても仕方ないって言うか。

 諦めたんだ」

「何故だ。それを言えば銅貨は戻ったろうし、ロイは罰せられるのに、どうしてだ?」

「ロイはサムにいの手伝いで村に残らなきゃいけない。

 本当はおらみたいに村を出て冒険者になりたいんだけど、それができないから、おらが羨ましくていつも絡むんだ。 

 だから銅貨五枚くらいならくれてやろうと思った」

「くそっ、くそっ、くそぉぉぉ、俺だってやりたいんだぁぁ」

 サムは大きなため息をついた。

「そりゃぁ、日ごろのロイの態度を見れば俺にも分かる。

 だけど二人とも勘違いしてるぞ」

「「えっ」」

「二人ともロイが次男だから男手として残されたと思い込んでいるんだろう?

 だがなもしもミッキーが次男でロイが三男でも、俺はミッキーを外に出すと思うぞ」

「そんなの不平等だぁっ。なんで、ミッキーの肩ばかり持つんだぁぁ。サムの馬鹿ぁぁぁ」

「じゃあ、良いぞ。

 ロイ、お前も外に出してやるぞ。

 それなら良いだろう?」

「な……な……何言ってる?

 金もないのに都市に出て暮らせる訳ないだろう」

「そうだな……ミッキーほど持っていないけど、お前の食い扶持分の野菜や穀物を売れば、都市に出て生活の目鼻がつくまでは食っていける金くらいは持たせてやれる」

「な……なにを考えている。そんなことをしたら男手が足りなくなってサムが困るだろう。

 思ってもいないことを言うんじゃねえよっ」

「いや思ってるぜ。俺は本気だ。

 いつまでも外に出る夢ばかり追って家の仕事も手に着かないようじゃ、いてもらっても困る。

 いれば俺もあてにするし、いっそいなければ俺もそれなりの覚悟ができる。

 実際長男以外はみんな外に出る所の方が他の村では多い位だ」

「じ……じゃあ、何故。何故、俺には残れって言ったんだ?」

「お前が……お前が……」

「俺がなんだって言うんだ。言えよ、サム。言ってくれっ」

「お前が……いからだ……」

「えっ、なんて言ったんだ? 

 聞こえなかった。

 もっと大きい「お前が弱いからだっ」えっ……弱い? 俺が?」

 ロイはおらの首に腕を回し、ぐいぐい絞めた。

 ちょっと苦しいがおらはそのままさせておいた。

「見ろっ、俺はミッキーなんかに負けていないぞ。俺の方が二つ上なんだっ」

 でもサムは首をゆっくり横に振った。

「ミッキーが本気になったらお前は簡単に殺されてしまうぞ。

 弱いというのいうのは力のことだけじゃない。

 五年前に俺がお前を見たとき外には出せないと思ったのは理由がある。

 不器用なんだ。教えたことはなんとかこなせるが、それ以外は駄目だ。

 新しいことを何をやらせても飽きっぽくて長続きしない。

 新しいことに順応できないんだ。

 だからお前を手元に置いて俺が面倒を見なきゃいけないと思った。

 ミッキーは大丈夫だ。放っておいても自分でどんどん覚える。

 外に出て行くということは、どんな新しい環境にもすぐに順応できるということだ。

 その点ミッキーにはどんなことにも集中力がある。

 お前をゴデバさんに預けて見ようとしたことがあったが、駄目だった。

 お前は分かってる筈だ。どうして断られたかを。

 向かないんだ。

 アレックさんも言ってた。ロイは向かないと。

 でもお前は決められたことは真面目にやる。

 畑仕事とかそういう才能はある。

 ……あると思う。

 俺が一緒についてやって頑張って行けば、なんとかやれるんだ」

 するとロイは泣き出した。

 おらの頭を首を絞めたままポカポカ叩いて泣き続ける。

「サムっ、聞きたくなかった。うぁぁぁ、俺にだって分かっていた。グスグス分かりたくなかったんだっ。うぁぁぁぁぁ」

「悪かったな。ところで、ミッキーを殴るのはやめたらどうだ?

 本人はちっともこたえていないようだが、それにしてもミッキーに当たるのはやめろ。

 お前はミッキーに甘えている。

 いい加減にしろ」

 ロイはおらを離した。

 殴られたときは少しも痛くなかったから本気じゃなかったんだろう。

 誰かのせいにしたかったんだと思う。

 だから殴らせておいた。

「俺はとっくに分かってたんだよぉぉ。

 俺には冒険者なんかできないことをさぁぁぁ。

 うわぁぁぁぁぁぁん。

 えぐっ……だからそれを言われた俺にはどうすることもできねえじゃないかぁぁぁぁぁ」

「ロイ、お前はときどき不器用だから小さな失敗をする。

 だがそんなことはここにいれば別に問題じゃない。

 なんとでもやり直しのできる小さなことだ。

 大丈夫だ。お前は十分ここならやって行ける。

 俺も付いてる。

 だけどミッキーの真似をして外に出れば、お前の小さな失敗が命取りになる。

 アレックさんがそう言ってた。

 死なせたくなかったら村から出すなってな。

 お前はここにいれば十分安全で幸せになれる。

 良い嫁さんも見つけてやれる。

 ミッキーは小さい時から家を出されると思って必死にやって来た。

 こいつだって村に留まって一緒に暮らしたかったんだ。

 だけどこいつはお前と違って不平を言わずに、外に出ても生きて行けるように我武者羅になって涙ぐましい努力をして来たんだ。

 それをお前は自分から逃げてすべてミッキーに当たり散らしていた。

 ミッキーはそんなお前を家に縛られて可哀そうな兄貴だと思って多少のことは我慢してくれていたのに気づかなかったのか?

 お前はそういうミッキーに甘えていたんだ。

 だからミッキーのことを羨むのはやめろ。

 そして今まで妬んで嫌がらせをしたことや銅貨を盗んだことを謝るんだ」

 ロイは泣きながら頷いていた。

「ミッキー……俺は……俺は……」

「良いんだ、ロイ。何も言わなくても良いよ。

 おら何とも思ってない」

「それも……俺には辛い。

 謝らせてくれ。悪かった。俺が悪かった。ミッキー、お前には酷いことした。

 金まで盗んだ。俺は屑だっ。

 真面目に努力して貯めたお前の大事な金を……俺は俺は……盗んだ。

 悪かった。許してくれ」

「許すよ、許すから、もう頭をあげてよ、ロイ。ロイは威張ってて良いんだよ、今まで通りおらには威張ってれば良いんだ」

「ふん、空元気の虚勢さ。ああ、化けの皮が剥がれてすっとした。

 ミッキー、がんばってくれ。

 お前は大した奴だ。

 俺の分も冒険者してくれ」

「そんな……二人分も頑張れないよ」

「俺はここで頑張る。サムの手伝いをする。嫁さんも貰う。

 だからまた帰って来て元気な顔を見せてくれ」

「うん、わかったよ。ロイも元気でね」


 おらはこうしてサムのお陰で仲直りできた。

 銅貨五枚はサムから貰っておいた。

 サムはその分ロイには働いて貰うって言ってた。

 こうしてロイとおらの確執はなくなった。

 

 

読んで下さってありがとうございます。

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