自作の防具
蜘蛛の腹の皮はダガーでも切れない。
ただ皮膚の表面に走る線のようなものに沿って切ると切れる。
「それ以外は糸と同じく真っ赤に熱したナイフで切れば切れる。
だから防刃服を作るのに最適だ」
「ぼうじん服?」
「そうだ。それからちょっとここで待っておけ」
もう皮剥ぎも終わったのに、何を待てば良いのだろう。
するとどこから湧いて来たのか、蜘蛛の死骸に大きな蛆うじが沢山寄って来た。
「鞣なめし蛆うじだ。
剥いだ皮と一緒に袋に入れておけ」
なんでも皮の内側の汚れを食べてくれるので、鞣なめしをしてくれるのだそうだ。
「三匹くらいで良いぞ。全部食べたら餌がなくなって死んでしまうから、そのまま放っておけばいい」
魔石と糸袋と毒腺は別途売れる口があるらしい。
村に戻っておらはアレックさんの家に入った。
お茶を出されて、それを飲みながらアレックさんは言った。
「あの蜘蛛はジャイアントスパイダーで、お前がいなかったら恐らく助からなかった。
皮膚は固くて剣では切れないし、糸を吐かれたらゴブリンと同じくグルグル巻きになって殺されてた。
毒腺は生け捕りにした獲物の動きを封じる毒だが消えない毒だ。
蜘蛛はその毒に侵された獲物を食べても平気だ。
手足から食べてなるべく長い間生かしおきながら新鮮な状態で獲物を食べるんだ。
蜘蛛の唾液には血を止める働きがあるから出血多量で死ぬこともない。
だからこいつの餌にだけはなっちゃいけないって訳さ」
アレックさんはお茶をズズーッと啜ると真面目な顔をした。
「お前は銅貨を溜めているそうだな。だがそれをどうする?
銅貨は一枚五グラムで二十枚で百グラム二百枚で一キロだ。
お前なら千枚は溜めているだろう。だから五キロの重さはある。
それをバックパックに入れて持って歩けば、かなり目立つぞ」
「うん、だから行商人に頼んで銀貨に変えて貰おうかと思ってるんだけど」
「だけど、駆け出しの冒険者の生活って銅貨中心の生活だ。
銀貨なんて持っていても砕くのに不便だ。
だから両替はしない方が良い」
「じゃあ、どうするの?」
「鎧よろいにして着て歩けば良いんだ」
「よろい?」
それからアレックさんは説明した。
穴あき銅貨は蜘蛛の糸を使って蜘蛛の皮に縫い付けて行く。
その際赤く熱した針で蜘蛛の皮に針孔を開けて縫い付けることだという。
蜘蛛の皮でチョッキ型の鎧を作るが、銅貨は穴中心に四か所で縫い留める。
さらに銅貨同士も蜘蛛の糸でしっかり縛り付けて繋ぐ。
そしてチョッキの裏地にも蜘蛛の皮を使って、銅貨の穴同士を潜って縫い、表面に銅貨が見えないようにする。
蜘蛛の皮は灰色の薄汚れた色だから、誰もそれを欲しがらない。
そしてそれと同じくらいの鎖帷子くさりかたびらを防具屋から買おうとすれば、そこに使う銅貨の四倍以上のお金を払わなければならない。
銅貨を隠すこともできるし、鎧にも使えるし、必要なとき一枚ずつ外して使うこともできるという訳だ。
「蜘蛛の皮だけで鎧を作れば、槍で突かれても破けないが、その代わり体に穴が開く。
だが銅貨を中に縫い付けておけば槍で刺されても体は無事になる。
それと鎧にして身に着けておけばバックパックに入れて運ぶより重さは感じないものだ。
作るのには時間がかかるが、どうだ、自分で作ってみるか?
手甲や脛当て肘当てを同じように作ることもできる」
その日からおらは素材も銅貨も全部アレックさんの家に置いて鎧制作をすることになった。
皮に穴をあけながら縫い付けて行く仕事は結構大変だったが、旅立つ日の前に完成することができた。
成長することも考えて少し大きめに作ったので、二三年は着ていれるだろう。
その前に銅貨を使うために解してしまうかもしれないけど。
続きます。