アレックさんとガーディアンたち
おらは村の護衛のアレックさんに頼んで魔獣狩りのコツを教えて貰おうと思った。
その為大事にしていた狼肉の干し肉を持って行き、頭を下げた。
「言葉で教えるようなことは。もう既に伝えてある。
後は実際に経験するしかないな」
アレックさんはそう言うと、支度をし始めた。
「でも魔獣は森の終わりの山脈の麓まで行かないと出て来ないんじゃあ。
あそこまでだと二三日泊りがけになるよ」
「普通はそうだが、魔気の流れで魔物が寄り付きやすい場所もあるんだ。
俺の秘密の狩場を教えてやろう」
森から少し西のはずれに岩場の多い場所がある。
そこには蛇や鼠が多く狩場には適さない為、ゴデバさんは寄り付かない所だった。
「それにこれだけ蛇がいると、たとえ狩人や傭兵でも寄り付かない」
「冒険者は寄り付くの?」
「冒険者でもいろいろある。
まあこういうのは普通は嫌うだろうな。
俺の場合は、そこが狙いだったんだ。
蛇や鼠そして蜥蜴しかいないこういう岩場が続けば、誰も近寄らない。
そこをクリアできれば、何か掘り出し物が見つかるかもしれねえ。
人と同じことをやってても冒険者は駄目なんだ。
だから俺は蛇や鼠や蜥蜴を見れば幸運の天使たちだと思うようにしている。
俺の秘密の穴場の守護者ガーディアンともいえる」
そうかぁ、アレックさんは、人が嫌う場所だからこそ、そこに近づいて行ったんだ。
「俺は研究したんだ。
どうやったら、こいつらの注意を他に向けられるかってね。
何度も実験した。
獣の内臓を放り投げてやると、真っ先に来るのは鼠だ。
そして食肉蟲も寄って来る。
それを狙って蛇が来る。
蛇は鼠を丸呑みし、食肉蟲を舌で巻き取って食う。
そして内臓が腐って柔らかくなると蜥蜴が出て来る。
するとそこでもまた蛇がそれを狙って出て来る。
その追いかけっこだ。
ここでは蛇が一番食物連鎖の頂点になる。
けれど、満腹して動きが鈍くなった蛇は鼠に喰われることもある。
食肉蟲と蜥蜴も食い合うことがある。
まあ、撒き餌を何か所か行って蛇の大半が餌に集った隙に通り抜けるのが一番だ。
だから獣の内臓や骨は用意しなきゃいけない。
行きも帰りもだぜ」
だからアレックさんは狩りの獲物の残骸を用意しろと言ってたのか。
それは身の毛もよだつ光景だった。
獲物の内臓や骨を放り投げると岩場の陰から物凄い勢いで鼠や蛇の大群が突進して来るのだ。
鼠の方が速いが急いで齧って蛇が来ると餌を引きずりながら逃げる。
食肉蟲などは逃げずに夢中で集っているので地面が真っ黒になっている。
蛇はそれを肩端から食べている。
あの場所にいるのが自分たちだったら、生きてはいないだろう。
「今だっ。行くぞ」
アレックさんは走り出した。
おらもその後を走った。
そういうおらの方にもちょっかいを出して来る蛇もいたが、アレックさんは軽々と飛び越えて行く。
おらは真似して飛び越えて行く。
「それにしてもずいぶんたくさんいるもんだね」
「俺が餌を増やして沢山繁殖させたんだ。
もともといる数なら走り抜けるだけで大丈夫だったんだが。
わざわざそれぞれの巣穴の近くに食べ物を置いて行ったんだ。
栄養が十分行き渡ると、すぐに繁殖するからな」
「なるほど、で……この先何があるんですか?」
見た所岩場を抜けてもめぼしいものが見当たらない。
薬草も一本も生えていない。
「わざとこの辺りには良いものがないみたいにしてある。
貴重な薬草が沢山生えていたが、ごくありきたりのも含めて残らずむしり取ることにしている。
そうすればこのまま進んでも何もないと思って引き返して貰うためだ」
なるほど。自分の穴場を守る為徹底しているんだなぁ。
続きます。