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いるの

作者: サトウ

実話です……

 ある日の夜の話。



 なんか寒気がすると言い、妻は早めに床につきました。

 最近忙しいから多分風邪でも引いたのだろうと言って薬を飲ませて、できるだけ厚着をさせたのを覚えています。


 当然のことながら、子どもたちは早めに眠らせていたのでその時起きていたのは妻と私だけ。

 ですが、その妻も先に寝てしまったので今は私一人がリビングに居るというような状況でした。


 ともあれ、いつもの日課のランニングをしに行こうとジャージに着替えて、いざ玄関から外に出ようとしたその時です。


「どこ、行くの?」


 妻でした。

 もうとっくに寝たものだと思い込んでいたので多少驚きはしましたが、それをできるだけ顔には出さずに


「いつもの走りこみだけどどうかしたか?」


 と務めて明るく応えました。

 すると妻は、いつも通りの「いってらっしゃい」の一言とは全く違う一言を口にしました。


「今日は行かないで」


 いつもの妻からは考えられないほど弱々しい声だったにもかかわらず、語気が強めの命令するような口調でそう言ったのです。


 そんな一言に若干の腹立たしさを覚えはしたのですが、できるだけその苛立ちも出さずに「なんで?」と答えることができました。


 妻はというと、私のそんな微妙な変化を感じ取ったのか小さな声で「ごめんなさい」と謝ってきました。

 でも妻もどうしても私に行ってほしくなかったのか、


「お願い、今だけ…今日だけでいいから行かないで」


 と俯きながら何度もお願いをしてきました。


 おかしい。


 いつもの妻とはあまりに様子が違い過ぎる。

 なんだかざわつく感じを覚えた私は、素直に妻の言う通りにしました。

 着替えたジャージを脱いでたたみ、再度寝るときの服に着替えを済ませる。


 この時も、いつもならリビングで待っているのだが私の傍をよほど離れたくないのか、着替えているときでもピッタリと寄り添っていました。


 リビングに明かりをつけ、妻を目の前のソファーに座らせ、私はその横に腰を下ろして肩を抱き寄せました。


「今日はどうしたんだ?なんかおかしいぞ」


 私がそう問いかけても妻はしばらく口を開きませんでした。


 10分が経ち、ようやく口を開いた妻が言いました。


「あの、ね。ずっとね……いるの……」


 意味が分かりません。

 私は少しおどけた感じで「俺がいるけどなに?」というと「違う、違うの」と首を横に振って私の言葉を全力で否定しました。


 正直に言いましょう。

 私にはこの後妻が何と言うのかが少しだけわかってはいました。





 人ならざるなにかがいる……






 そう、言うのだろうと。


 過去に恐ろしい目にあったことがある私はそのことを認めたくはなかったのです。


 だから私は努めて明るく、


「何がいるって?ゴキさんでもでたか?」


 そう言って妻の顔を覗き込むと、そこに居たのは妻だけど妻ではありませんでした。

 奥が全く見えないほど真っ黒な目に、こけた頬、そして浅黒く変色した肌。



「え、あ、」



「いるの……」




「あなたは………ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとぉ……」











「私と、ここに、いるの……」























 気が付いたら朝の4時。

 座っていたはずのソファーに横たわっていました。


 昨晩のことを思い出し、あたりを見回してみましたがそこには誰もいませんでした。


 それから、眠気の所為なのか昨日の出来事の所為なのか、ぼーっとしたままソファーに座っていると妻が起きてきました。


「珍しいね、私より早く起きるなんて。なんか会社でイベントでもあるの?」


「あ、いや、たまたま……だよ」


 目の前の妻は、昨日の妻ではなく、いつもの妻でした。


 一体何だったのか……


 あれから2週間が経ちましたが、いまだによくわかりません。


 あれは妻だったのか、妻の行ってほしくないという思いが生んだ生霊的なものだったのか……



























 それとも、妻の姿を真似た、「なにか」だったのか……







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― 新着の感想 ―
[良い点] こっわーーーーっ!! じ、実話なんですか? 結局、奥様では無かったのですよね。 怖い話が大好きなのですが、自分ではタイケンシタクないので、我が家には出ないで欲しいです……。
[良い点] びびttってタイピンgができまsん。
[良い点] 怖いわ… [一言] お久しぶりですサトウ様。雪桃です。 この前の踏切のやつ(題名忘れました)といい今回のといい短編でここまでホラーを書ける人は中々いないと思います。ホラー苦手なのに読みまし…
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