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2.守れなかった約束





「うそ、だよね……?」

「残念ながら、嘘ではありません。カインさんの体内に侵入した毒は、確実に彼の身体を蝕んでいます。現状で出来得る限りの処置はしていますが――」


 処置室にて主治医を務めるニア・サンロッドさんは、難しい顔をして言った。

 その内容はボクにとってあまりにも厳しいもの。

 しかし、現実は変わらない。


「いかんせん、カインさんの体内に侵入した毒の量は尋常ではありません。これを解毒するには、王宮務めクラスの治癒師が数名――いいえ、数十名必要です」

「…………………………」


 告げられる無情な宣告。


「それって、つまり――無理だってこと、じゃないですか……!」


 ボクは拳を震わせて、唇を噛みしめた。

 こんな辺境の街に王宮の治癒師が来てくれるはずがない。それに、必要数がさらに無謀性を高めていた。王宮勤めしている治癒師は多くて十名程度と聞く。

 だとすれば、どれだけ掻き集めても、どうにもならないということで……。


「アルフレッドさん。いいですか? これからの数日は、後悔のないよう――」

「――――――!?」


 そして、とうとう出てきたその言葉に息を呑んだ。

 後悔のないように――と。その言葉に込められた意味など、相当に鈍感な者でない限り、理解するのに時間は要さない。今までの会話の中で、常に脳裏にそれがあったボクにとっては即座に反応するレベルのものだった。


 後悔、すなわち――。


「死ぬのを、待つしかない……ということですか?」


 涙が頬を伝った。

 相手の、ニアさんの言いたいことは分かっていた。

 カインさんが命を落とすその時まで、出来る限り思い出を作れと。それは彼のためでもあり、残される者のためである、と。


 ――解毒不可能。

 彼女の診断に間違いなどないのは、分かっていた。

 それでも、受け入れ難い。しかし足が竦んで仕方がなかった。


「少し、お二人だけでお話をすると良いでしょう。失礼しますね?」


 ニアさんはそう言うと、足早に処置室を去っていく。

 残されたのはボクと、カーテン越しにうめき声を上げるカインさん。

 震えの止まらない足で立ち上がって、ボクはそっと、彼のいるベッドへと歩み寄った。カーテンを開き、深呼吸をしてから視線を持ち上げる。

 すると、そこには……。


「…………!」


 カインさんであり、カインさんでない人がいた。

 そう表現したくなるほどに、残酷な現実がそこにあったのである。

 毒に侵され、四肢は紫に変色して腐れ落ちそうに爛れていた。呼吸は荒く、一息するだけで全身に激痛が走るのだろう。鎮静薬で眠ってはいるものの、苦しみは相当なもののようだった。そして、全身を伝っている汗には血のような色がついている。

 シーツは一面、その赤に染め上げられていた。

 瞬間だけ、血の海の只中にカインさんがいるような錯覚を受ける。


「どうして、こんなことに……」


 ボクはうな垂れる。

 もう、直視は出来なかった。

 憧れの人。その中の一人である彼が、死に向かっていく。


「こんなの……!」


 ――惨すぎる。

 あまりにも、酷じゃないか!

 こんなことになるなんて、思ってもみなかった。


「こんな……!!」


 ボクはその場で崩れ落ちる。

 両膝をつき、こらえ切れなくなった涙をすべて吐き出す。

 もうどうしようもない。時間は戻らない。時間は、刻一刻と進むだけだった。


 だが、その時だった。


「――アルフレッド様」


 ボクに、声をかける人物があったのは。

 その淡々とした口調は、つい最近になって知ったものだ。


「エリムさん……?」


 その人の名を口にして、滲んだ世界に彼女を映す。

 もう、頭が働いていない。だけど、次の言葉でハッとした。


 エリムさんは、変わらぬ口調でこう言うのだ。



「その人を、救いたいですか?」――と。




 それは、ボクの冒険者人生において。

 もっとも重要な戦いの狼煙を上げるものだった。



 


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