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1.記憶






 その人は、ボクにとっての希望そのものだった。

 まだ幼かった自分のことを、絶望の淵から救い出してくれた恩人。

 燃え盛る故郷の町の瓦礫の下から、彼は微かなボクの声を拾ってくれた。それは誰もが奇跡的だったと語る出来事で、ほんの少しだけ語り草にもなったものだ。


『おじさんは、冒険者なんだよね……?』


 まだまだ拙い口調で、ボクは彼に問いかけた。

 すると恩人である冒険者は、静かに頷いて優しく頭を撫でてくれる。

 その手はとても大きくて、力強くて、魔物に襲われた町を一人で救ったと。そんな信じられない話をされたとしても、信じざるを得ない存在感だった。


『ぼくも、冒険者になる! そして、おじさんみたいに――』


 彼に憧れた。

 それは必然とも云えた。

 これこそが、ボクの生きる上での目標。そう――。




『いつか、大切な人を守れるような人になるんだ!』――と。



◆◇◆



 目が覚めると、そこはギルドの処置室だった。

 ずいぶんと懐かしい、夢の欠片を見ていた気がする。しかしそんな思い出に浸るよりも先に、ボクはあることを思い出すのだった。


「あ、そうだ! カインさん、それにエリムさんは!?」


 眠りに落ちる前、最後に見た彼らの姿。

 とりわけカインさんに至っては、満身創痍以外の何ものでもなかった。

 ヒュドラの攻撃をまともに喰らったのだから、無事であるはずがない。そのことは、自分がヒュドラを倒した事実よりも先に、脳裏をよぎる問題だった。


 大慌てで、簡素なベッドから跳び起きる。

 すると視界の端に、一人の女性の姿が飛び込んでくるのだった。それは――。


「あ、エリムさん……!」

「おはようございます。アルフレッド様」


 パーティーの美しき仲間こと、エリムさん。

 彼女はボクのことを、上から下まで目視で確認すると一つ頷いた。


「どうやら。アルフレッド様は、どこも怪我がないようですね」

「あ、うん。なにがなんだか、まだ分からないんだけどね」


 そして、そんなことを言う。

 ボクは淡々としたそれを受けて、頬を掻いて間抜けた返事をした。だけども、すぐにエリムさんの言葉の一部に気が付いて、ハッとする。


「――って、エリムさん! カインさんは!?」


 そう。彼女は、ボク『には』どこにも怪我がない、と言ったのだ。

 つまるところそれは、カインさんの身には何かがあった。

 そのことを示唆している。


「あの男性は、隣の部屋に――」

「ありがとう! ちょっと、行ってくる!!」


 ボクはエリムさんの言葉を最後まで聞かずに、駆け出した。

 なんだか、少しだけ胸騒ぎがする。


「カインさん……!」



 大切な兄貴分であるカインさん。

 彼の身に何もないことを願いながら、しかしどこかで焦りを抱く。

 そして、思い知ることとなるのだった。その先にある、あまりにも残酷な現実を。ボクはその時まだ、それを受け止めるだけの心の準備ができていなかった。


 


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