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1.冒険の準備にて





 ――翌日。

 ボクらは早速、行動を開始した。

 まずはダンジョン攻略に向かうために必要な物資の補給だ。道具屋を巡って、なるべく安価で質の良い物を探す。ポーションなんかは、安い物だと粗悪品もあるので注意が必要だった。薬草については明るいけれども、薬として販売されている物については専門知識が必須。


「それにしても、助かったよ。エリムさんが薬に詳しい人で……」


 だったのだが、ボクの隣にいる彼女がそのことに精通していた。

 展示されている商品を手に取っただけで、それがどの程度の物なのかをピタリと言い当てるのだ。そのおかげで、無駄な出費をせずに済んだし、何よりもこれから挑むダンジョンにおいての生存率を飛躍的に高めることができた。


「いえ。私にはこの程度しかできませんから」

「そんなことないよ。それだけのことができるのは、素直に凄いと思うよ?」

「そう、でしょうか……?」


 ボクの言葉に、なぜか首を傾げるエリムさん。

 なんだろうか。そんな様子に、どこか不思議な感覚を抱くのだった。

 しかし今はそんなこと気にしている場合ではない。カインさんの容態は、一刻も争うそれだ。こうしている間にもヒュドラの毒はその身を蝕んでいる。


「それじゃ、次はギルドに行って――ん?」


 だから、すぐにギルドへ行ってダンジョンへの立ち入り許可を貰おう。

 そう思った時だった。


「今日の分は、これで全部か? ずいぶんと少ないじゃねぇか」

「は、はい……。申し訳ございません」


 路地裏から、そんな声が聞こえてきたのは。

 思わず身を隠して、その様子を覗き込むボクとエリムさん。すると分かったのは、複数人の男性冒険者が一人の少女を取り囲んでいることだった。

 しかも、男たちにはどこか見覚えがある。


「あれは、この間の酒場で……」


 そうだった。

 彼らはエリムさんにちょっかいを出していた冒険者たちだ。

 そんな彼らが、今度は幼い一人の少女に手を出している。加えて今回に至っては、何やら物品を強奪しているようにも見受けられた。

 これは、放っては置けない……。


「まぁ、いい。今回はこれで勘弁して――あん? てめぇは……」

「この間の『薬草狩り』じゃねぇか」


 そう思っていると、身体が自然と動いていた。

 自分の力を過信しているわけではないけれど、それでもこの状況は見過ごせない。震える足に鞭を打って、ボクは冒険者たちの前に歩み出たのだ。

 すると彼らも、すぐに気付く。

 そして、こちらの意図を察したのだろう。ニタリと笑って……。


「おおっと、こりゃ負けだな。また黒こげにされたらたまらねぇ」

「え…………?」


 女の子から巻き上げた物品をその場に置くのだった。

 こちらは、予想だにしない展開に呆気に取られてしまい何も出来ない。そうこうしているうちに、冒険者たちはゾロゾロと路地裏から出て行ってしまった。

 残されたのはボクと、震える少女だけだ。


「えっと、これ……」


 しかし、いつまでも呆然とはしていられない。

 なのでボクは男たちの置いて行った麻袋を拾い上げ、女の子に差し出した。暗がりでよく分からなかったが、短い獣耳が生えた少女。

 おそらくは獣人族――ヴァーナだろう。


「あ、ありがとうなのです」


 彼女は震えた手でそれを受け取って、か細い声で礼を口にした。

 とりあえず怪我がなくて良かった。


「それじゃ、次からは気をつけてね?」

「あ、あの……!?」


 ボクはそう思って、少女に手を振る。

 彼女がなにか言おうとしていた気はしたけれども、それよりも急ぐべきことがあった。なので、申し訳ないけれども駆け足でその場を離れる。

 そして、待っていたエリムさんに声をかけてギルドへと向かうのだった。




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