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マイナスから始まるイケメン攻略




「ヨシ! 気合い入れてイケメンゲット頑張るわよ!」

「顔以外も考慮してくださいね〜。爵位、性格、能力、あと血筋…成績も重要ですよ〜」

「は、はい、わかりました」


本日も逆さ縦巻きロールをアンジュに櫛で重力のかかる方向へ戻してもらう。

熱を出して…佐藤笑美がヘンリエッタと合体(?)して1週間。

ようやく学園に復帰できるまでに体調は回復した。

更に、あの謎の共有スペースとやらには、あれ以降ほぼ毎晩行けるようになったのよね。

どうやら眠っている間はあの場所に心が飛ばされるようだ。

でも起きる時間になると水位のようなものが上がってきて、溺れる。

だから毎朝起きる時はこれまでと違った苦痛を味わうことになった。

なんにしても、ヘンリエッタとわたしの意向は一致している。


とにかくヴィンセントに告って振られないと、とてもじゃないけど次の男なんて探せない!


こういうのは心の問題。

ヘンリエッタの気持ちは痛いほどよくわかる。

きちんとけじめを付けないと、いつまでもズルズル想い続けてしまうものなのよ。

人によってはそうじゃない人もいるかもしれないけど…。

少なくともわたしは“振られなかった”!

それが余計な未練を生み、希望と期待を生み、次こそは次こそはと無駄すぎる時間と悪循環に叩き落とすのよ…‼︎

まあ、わたしの場合惚れた相手がアホの水守くんだったのが運の尽きだったのよね。

おのれ、アホの水守くんめ。

あの性格とスペックと顔面偏差値は卑怯よ…!


「でも、まずは今日から学園生活ってものをしっかり理解しないとね。学業を疎かにしたら…」


真後ろの怖いメイドに何をされるかわからない。


「リエラフィース侯爵家に恥をかかせることになるもの」

「そうですよ〜」

「勉強をちゃんとやりつつ、お婿さん候補を何人か選んでおいて…。やる事が多いわね」

「そうですね〜」


まあ、まずはヴィンセントに振られるところからね。

…それと、ゲームと違うところ…。

ヘンリエッタの記憶と、わたしの中のゲームの記憶が色々と一致しないのが気になる。


まず一つ、そのヴィンセントが悪役令嬢ローナ・リースの執事として“同学年”である点。

……ヴィンセントはケリー・リースの執事として、ケリーと同学年のはずなのよ。

なのに、ケリーの姉で悪役兼ライバル役のローナと同学年なんて…。

まあ、些細な事ではあるけれど?


二つ、エディンとそのローナ・リースが婚約を解消している点。

……おかしいわ、あの2人は10歳の頃にレオハール王子が間に入り婚約したはず。

ゲーム開始当初もエディンは女好きのクズを演じていながらも、婚約者のローナにだけは一目置いていてヒロインに自分の婚約者なのだ、と自慢するほどだった。

…つまり、普通に仲良しの恋人だったのよね…。

だからエディンルートの罪悪感パネェんだけど…他人の男を奪うのが好きなオンナには堪らないルート…。


三つ、レオハール王子が普通に次期国王な点。

……レオハール王子は公式ゴリ押しメイン攻略キャラクターにして、メイン攻略キャラ不動の人気No. 1を誇る。

理由は美しすぎるキャラヴィジュアル、ちゃらんぽらん天然無自覚ドSな性格以外にもその圧倒的不遇っぷりシナリオと、戦争においてなくてはならない超貴重戦力な存在だからだ!

王子でありながら国王の浮気…しかも戦争で勝利するためだけに作られた子供として王位継承権もあたえられず、正当な王位継承者であるブラコン異母妹には日々束縛され続ける。

…でも、ここのレオハール王子はそうじゃない…どういうこと?


四つ、その流れで…レオハールの異母妹マリアンヌが断罪済みな点。

ヘンリエッタの記憶によると昨年の『星降りの夜』に城で突如パーティーを開いたマリアンヌ姫は、同じ悪役であるはずのローナに「こんのドロボーネコー!」とか叫びながら斬りかかった。

ローナはライバル悪役令嬢らしく、このウェンディール王国では随一の権力を持つ伯爵家のご令嬢なのよ。

そんな彼女に斬りかかるという謎。

だからなのか、王子レオハールによってレオハールルート通り断罪されて…追放されている。

……だが、問題はゲーム開始してないんですけど…というところだ。

待て、早すぎる。ヒロインまだ召喚されてない。どういう事だ。


五つ、スティーブン・リセッタが、変。

追加攻略キャラであるスティーブン・リセッタはこの国の宰相の息子。

前世が女性である彼は、『記憶継承』では滅多に現れない『前世の記憶がハッキリと残っている』人間だった。

記憶と体の性別の違いに長く悩んでいた彼はヒロインに出会い、男として生きる決意をする…………のが、ゲームのストーリーだ。

なのにスティーブン・リセッタ…いるにはいるけど『女の子』の制服を着て、パーティーにはドレスを纏い現れる。

な、なにが、なにがあったというの…?


六つ、ライナス・ベックフォードも、変。

スティーブン同様、追加攻略キャラであるライナス・ベックフォードは厳つい体育会系。

北一帯を預かる公爵家の子息であり、所謂“地位はあるのに愚直で脳筋”な子である。

脳筋ゆえなのか…わたしの知る男前な彼はヘンリエッタの記憶によると女子として覚醒したスティーブンにメロメロになっているのよね…どういうことなの……。

しょ、正直スティーブンとライナスはこの目で見ないと信じられない…。

見たら見たでショックでまた倒れそうだけど…。


七つ、ルークがセレナード姓な点。

ヴィンセントがローナの執事として同学年だからなのか…ケリーの執事…従者としてルークが普通にアミューリアに通っている!

ヘンリエッタの記憶によると、黒髪黒目のルークをナチュラルにヴィンセントの兄弟だと思って声を掛けて聞き出しているから間違いない。

いや、おかしいから。

ルークは確かに追加攻略対象だし、ケリー、ヴィンセント主従関係者ではあるけど…あの子はラスティ同様所謂『後輩キャラ』なのよ。

ヒロインと同い年でありながら、ケリーが『記憶継承』のある平民であると見抜いて一年遅れて入学してきた後輩、という設定。

ヒロインは一般人…庶民なので、ルークのような超庶民派キャラはすんごい貴重‼︎

同い年だけど後輩、というところもミソで、とにかく癒されるの…!

なのに…そんなルークがこの国一番の伯爵家の使用人としてこの学園に既に入学している…!

これ、いかに…!




「お嬢、飯ですよ〜」

「う…! は、はい、いただきます」


頭の中で差異を思い出していると、テーブルの上に朝食が乗せられる。

食堂で食べてもいいのだろうが、アンジュとしてはわたしを学園に解き放っても問題ないか確認したいのだろう。

しかし、問題はない。

わたしにはヘンリエッタの記憶がある。

完璧なテーブルマナーで、朝食を終わらせてナプキンで口元を拭う。


「ごちそうさま」

「……………。まあ、いいでしょ〜。難点としてはうちのお嬢なら「朝から塩辛いものを出さないで!」とか「ドレッシングはもう少し甘いのがいい」とか余計な一言を添えるってとこですかねぇ〜」

「……そ、それ真似しなきゃダメなの……?」


ひ、必要?

余計な一言って言うんなら、いらないんじゃないの?

というか、出されたものに文句つけるなんて庶民のわたしには想像もつかなかったわ…!

それがお嬢様なのね…?


「復帰は許可しますけど〜、くれぐれもお嬢の顔に泥を塗るような真似だけはしないでくださいね〜? その場合リエラフィース侯爵家にご報告の後監禁しますからね〜」

「も、もちろんです…!」


これだよ…!

わたしの知ってる異世界転生とかじゃ考えられないハードモード…!

まあ、わたしの知ってる異世界転生は大体流行りの小説や漫画なので実際どういうもんかなんて知らないんだけど。

まさかこんなに厳しい制限が付いているものだなんて…!

大好きなゲームの世界に転生しちゃった〜、なんて…意外と夢も希望もないもんなのね…トホホだわ…。

…ヘンリエッタの中の人がわたしとはバレないようにしながらヴィンセントに振られて、その後、お婿さんを探す…。


…………マジで夢も希望もないわね…異世界転生…。

…………転生?





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