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今日もうちのメイドがすごい!



「まあ、その話はおいておいて……突然どうしたんです?」

「え?」

「だから、イルナの事ですよ〜。いきなりイルナの事なんか知りたがってどうしたんですか?」

「あ、ああ、あのね、実は……」


とりあえずゲームのキャラの一人なのよ。

こんな事してこんな事するのよ。

と説明する。

ふむふむと聞いていたアンジュ。

まあつまり、アサシンメイドである。

と結論を述べると盛大に眉を寄せた。


「なるほど?」

「えーと……どうかした?」

「いいえ、ただ……亜人っつーのはこんなに普通に人間として暮らしてるんすね……」

「ああ、ええ、そうよ。まあ、イルナの肌は目立つだろうけど……」


この国であの肌色は目立つわよね。

ゲームの中ではスルーされてたけど、メイドなら余計にいじめの対象とかになりそう。

まあ、使用人宿舎はアンジュが取り仕切ってるって聞いてるから、イルナがアミューリアに来ても問題はない、かな?


「明日は亜人との同盟締結ですもんねぇ」

「あ、そうよね」

「あれ? けどエミさん、昨日『ゲームとは色々違う』って言ってませんでしたっけ?」

「あ、うん。……まあ、けどイルナは来年入学してくる令嬢のメイドなら……今いないのは普通、かな?」

「そうですか」


……そうよね、普通、よね?

ルークたそまで現れてたから、イルナがいなかったのに少し違和感を覚えただけよ。

ゲームとの差異はかなり多いけど……。


「……水守くん……ううん、ヴィンセントと話がしたいわ」

「は?」

「あ、いや、変な意味ではなくて! ……あの、ゲームの話をしたいのよ」

「は?」

「あああ、それじゃそうよね、誤解を生むわよね〜! そ、そうじゃなくてね、えっと〜」


ゲームの話ってそりゃ変な顔もされるわよね〜!


「ほ、ほら、あの、幸せな感じじゃないエンディングの事とかね……ああ、でもなー!」

「……。話す機会ならすぐにくるんじゃないんですか? 明日、同盟締結の後、亜人たちと交流目的で舞踏会が開かれるじゃないですか。むしろ明日は絶対出ないと」

「あ、そ、そうね」

「あと、月末にはローナ様のお誕生日パーティー。その翌日はお城で『女神祭』があります。パーティーなら、人目を気にせず話ができるんじゃなありません?」

「そ! そうね! それだわ!」


アンジュってば天才⁉︎


「まあ、あんまり長時間捕まえておくと各所方面で歪みが生まれそうですけど……」

「……そ、そうね……でも短時間で話せる話じゃないしなぁ」

「手紙のやり取りはどうですか? それならあたしから使用人宿舎でこっそりヴィンセントさんに渡せますよ」

「文通⁉︎」


ヴィンセント……水守くんと⁉︎


「…………」

「どうしたんですか?」

「わ、分かるでしょ……複雑なものがあるのよ……ほ、ほら、ヘンリは最後手紙で気持ちを伝えたじゃない……無視されたけど……」

「あ……ああ……」


なんかもう最終的にスティーブンが出てきて「ヴィンセントにはあれでは伝わりませんよ」と言われて終了。

色々と……手紙には色々と思うところがあるのよ……!

両手で顔を覆ってしまうわ!

だって想いを包み隠さず書いたのよ⁉︎

本当なら送るだけでも勇気がいるのよ⁉︎

それを! スルーーーー!

トラウマよ! ヘンリの記憶だけど、完全にトラウマよ〜〜!

分かるでしょ、乙女なら!

ラブレターって書くだけでも色々恥ずかしいのに、勇気を出して送ってスルーされたのよ!

おのれ鈍ちん水守くんんんんっ!

そういうところだからなぁぁぁあぁぁ!


「じゃあノートにしますか? 交換日記的な」

「もっと恥ずかしいわよ!」


無理無理無理無理〜!


「はあ……あの人が関わると本当スムーズにいかないというか……めんどくせぇな」

「心の声がダダ漏れよアンジュ……」


とても凝縮されて一言であるとは思うけれど。


「た、確かにまぁ、文通の手は有効だと思うけど……………………記憶が……暗黒の歴史が呼び起こされるのよ……」

「分かりましたよ。なにか、他の手を考えましょう」


ヘンリの恥ずかしいアレソレが!

ハッ!


「アンジュ、確認して始末してくれないかしら」

「え? 何をですか?」

「ヘンリがヴィンセントに送ったラブレターよ。所在を確認して始末して……」

「…………。分かりました、早急に」





*********




「始末してきました」

「え? な、何を……⁉︎」


翌朝、起きて始めにもたらされた言葉がコレなのは、さすがに聞き返すでしょ。

一晩寝たら気持ちも体もだいぶ軽くなった。

背伸びをして逆さになった縦巻きロールを下ろし、真顔のアンジュを見上げる。

な、な、何を始末⁉︎

こわ!

つ、ついに誰かを始末してしまったの⁉︎

イルナですらゲーム中で誰かを殺す事がなかったのに⁉︎

やっぱりアンジュこそが『フィリシティ・カラー』のアサシンメイド⁉︎


「手紙ですけど。昨日、頼まれたんで」

「あ! 手紙……あ、ああ!」

「何一晩寝て忘れてやがるんですか」

「い、いや、だって!」


でも目は覚めたわ。がっつりぱっちりよ。

というか、寝起きドッキリでも仕掛けられた気分……。

目覚めてかけられた第一声が「始末してきました」はさすがに飛び起きるわよ、意識が。


「それよりも、早く起きてください。今日は亜人族との同盟締結日ですよ。王都の民も城に入れるので、混雑が予想されます」

「あ、そ、そうなのね」


それもそうか、王都中の人が観に来るのだものね。

道が渋滞して遅刻しちゃう、か。

……観に来るのかしら?

ううん、それよりも……。


「ねえ、この同盟は上手くいくと思う?」

「……へえ、さすがエミさん。うちのお嬢ならそこ、突っ込んで考えないでしょうね」


さらりと己の主人を貶しおったな、このメイド。

……でも、という事はやはりそうなのか。


「反対が多いんだ?」

「いえ、戦争の為の同盟というのは貴族内で理解は示されてます。国王陛下は戦争に勝つ為に、それこそ即位前から躍起に動いておられましたから。あの方は戦争に勝つ為なら、手段など選ばない」

「……そうね」


それはレオ様やオズワルド様のルートを進めると分かる。

あの国王は、戦争に勝つという使命感や重圧から、倫理的なものまでかなぐり捨てているもの。

国を守る為……王として、それは、仕方のない事なのかもしれないけど……。


「でも国民の中には疑問の声が多いようです。しかし、それはレオハール殿下のご提案という事で割と大人しめですね。マリアンヌ姫……まあ偽者でしたけど……アレはクッソ人気なかったですが、レオハール殿下は逆です。あの王子殿下は戦争の準備でお忙しい陛下のお仕事を代行しておられた事が多い。王都の民の人気も、貴族からの人気も陛下より上なんです」

「お、おおう……」


王様立つ瀬ないわね。

いや、あの王様では仕方ない。

あと、あの偽者姫と比較では無理もない。


「それでもやはり一部過激な連中はいるんですよねぇ〜。多分亜人の中にも反対派がいるんじゃねぇんですか? 知らねーけど」

「ざ、雑ね、そこは」

「そりゃあ、あたしはあんま興味ないですから〜」


ええぇ……。


「お嬢たちに危害がなければ、別に」

「……え? なに?」

「何でもないですよ。ほら、立ってください」

「は、はい」

「行きますよ」

「はい」


コルセットである。

ぐいーっ、と引っ張られ、ギュウゥ、と締め上げられるのだ、これは。

グエッ……。

声を漏らさなかったわたしを誰か褒めろ……!


「まあ、そんなわけで不安要素は案の定、一定数あります。でも大半は殿下の人気と支持率で押さえ込まれるでしょう〜。反対過激派は本当に一部ですから、もう手は打ってあると思いますよ〜。何よりその辺の担当、ディリエアス家です」

「あ……なんかものすごく大丈夫そう……」

「ええ、クビにされていた騎士たちも戻ってますから、騎士団の機能はほぼ回復していると思ってください〜。なので不安要素の残りは亜人側ですね」

「……亜人か」


そうね、イルナは……クレイと敵対する勢力の亜人という設定だったもの。

邪魔しに来るのかしら?

大丈夫なのかな。

とはいえ、ゲームと違う展開にわたしが首を突っ込んでもね?

というか、わたしになんか出来るとも思えないし……うーん?


「そういうの、わたしに何か出来る事ってあるかしら?」

「は? ないでしょ。……あ、いや……」

「え? 何かある?」


アンジュが口ごもるなんて珍しい!

髪を結い上げられる中振り返ろうとして「背中の肉挟むから動くな」と怒られた。

ドレスの、背中のファスナーをあげるのね!

はい! 動きません!


「……領土の提供、とか、ありますかね」

「領土?」

「亜人区画……いわゆる亜人たちが住む地域を探してるんですよ。いろんな領主貴族……ああ、もちろんリエラフィース家にもお声がかかってます」

「え! 何それわたし知らない!」

「まあ、そりゃそうでしょ。声がけされてんの旦那様っすから」

「そ、そうか」


ヘンリパパがリエラフィース家の当主で、セントラル西区の領主だもんね。

そりゃ、娘のわたしにはそんな話……え? いやいや、ダメじゃない?

そりゃ確かにヘンリはお嫁に行くから、そういうお仕事の話関係ないかもしれないけどさ。

一応貴族で領主の娘なら、知らないと……。


「あ、あの、それでヘンリパパはなんて?」


ファスナーがあげられてから、髪を下ろされて梳かされる。

右から左へ一房……いや、一巻き? ……持ってこられ、編み込まれて髪飾りが設置。

お、おお、縦巻きロールが可愛いリボンのようになって、まるで頭がラッピングされたようになったわ!

さすがアンジュ。


「西区の領主たちの大半は反対してますね。旦那様は、それを陛下と殿下にお伝えしたと聞いています」

「ええ⁉︎ でも、亜人の条件って戦争協力の代わりに『亜人の存在を認め、土地を与える事』なんでしょ⁉︎」

「ええ、サウス地方が有力候補として検討されてます。……あっちはヨハミエレ山脈越しに獣人国と隣接している。戦争に負けて、もしも獣人族や人魚族が支配権を手にした場合、真っ先に攻め込まれる地ですから」

「…………」

「まあ、その代わり過ごしやすい気候ではありますよね〜。うちの国の中では、唯一十二月から二月までしか雪が降らないらしいですもん」

「……そ、そう、だけど……」


そんな……。

結局厄介者みたいな扱いじゃない。

そんなの酷いわ!

……でも、領民の気持ちからすると不安なのだろうし……でも〜!



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