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わたしとケリー



「え、や、やるの?」

「はあ? やるでしょ。三日連続の晩餐会及び舞踏会ですよぉ〜? 踊らないわけがないじゃねぇっすか〜」

「……そ、そうですよねぇ……」


翌日、アンジュにめっちゃ早く叩き起こされた。

まあ、普通に学園だからそれはいいんだけど。

いわゆる朝練。

なんの、って?

ダンスよ!


「ケリー様が待っててくださるそうですし」

「ええ⁉︎ ケリーが朝練に⁉︎」

「ええ、昨日の夜に使用人宿舎でたまたまお会いして……」

「使用人宿舎にケリーが⁉︎ ええ⁉︎ どういう事なの⁉︎ ケリーは伯爵家の令息でしょう⁉︎」

「なんか今日の放課後、アルト・フェフトリー様のお見舞いに行くそうっすよ。ほら、なんか昨日ローナ様のお茶会にいらっしゃらなかったじゃないですか」

「あ、ああ、体調不良と聞いたわ。ハミュエラ様も」


まあ、ローナの話だとハミュたんはアルトのお見舞いに行ったはいいが、部屋に入れてもらえずにお互い意地になってるっぽい、的な……。

アルトはツンデレで隠れ病弱キャラだからなぁ。

特にアルトルートのゲーム難易度【鬼】の追加ストーリー『隠れし病魔』は切なくて切なくて〜!


「…………わたしもお見舞いに……行ったところで男子寮には入れてもらえないか」

「そうっすよ。つーか、フェフトリー様とお嬢って大して接点ないじゃないですか〜」

「そ、そうなんだけど……」

「ほら、さっさと食事して学園のダンスレッスン室に急いでください。ケリー様が待ちくたびれちまいますよ〜」

「うぐっ」


派手に逆立ちした縦巻きロールを元に戻してもらい、制服とダンス練習用の練習着を持たされ、アンジュにまるで追い出されるように女子寮を出た。

もうすぐ亜人族との同盟締結が行われる。

それを国民や貴族に『良い事』と知らしめる為、城は同盟締結前々日よりアミューリアの生徒を城に招き、晩餐会兼舞踏会を執り行うと通知をしてきたのだ。

下級の貴族たちは大慌て。

それでなくとも毎度ドレスを手直しして、なんとか使い回していたのに連日のパーティーだもの。

うちは……リエラフィース家は幸い元商家。

ヘンリパパママが一人娘に甘々なのでドレスは払い下げられるほど持っている。

ヘンリはそういう、あまり身分の高くない令嬢たちとも分け隔てなく付き合っていたのでーー意外と世話好きの姉御肌なのよーー一度着たドレスはそういう子に譲ったりしているのだ。

まあ、その分ポンポン新しいドレスを買うんだけど。

アンジュもそれを知っているので『王誕祭』用に五着もドレスを新調していた。

なので、ヘンリの場合はドレスの心配はない。

心配なのはむしろ…………。


「お、おはようございます……」

「おはようございます、ヘンリエッタ様」

「…………」


にっこり。

アミューリア学園のダンスレッスン室に入ると、動きやすい服装のケリーがすでに待ち構えていた。

振り返って微笑まれると胃がキューーン、と締め上げられるような気分。

な、なぜだぁ……そりゃ、ダンスは相変わらず上手い下手でいうと大して上手くない部類な自覚はあるけれど〜!


「あ、あの、ケリー様? 本日はどうされたのですか? アンジュにわざわざ言付けてまで、その、わたくしのダンスの朝の練習にお付き合いくださるなんて……」


槍でも降るのか?

怖すぎるんですけど。

……って、そうじゃない!


「あ、ハンカチは新しいものを買って返しますので……」

「ハンカチ一枚に催促などしませんよ」

「で、ですよねー……」


でも、分からないんだもん。

朝練にケリーが付き合ってくれる意味が。


「昨日のお礼ですよ。昨日はずっとうちの義姉様のフォローをしてくださっていたのでしょう?」

「え? ……あー……」


でもあれは説教ものだった。

昨日はローナも後片付けとかで寮に帰ってくるのが遅かったから、残念ながら反省会は出来なかったけど……。

近いうち必ず反省会はしないとダメだわ、あれ。

はっ! ま、まさかわたしがローナにお説教するのを嗅ぎつけて妨害の為に……⁉︎

い、いや、でもあのローナの令嬢たちへの対応はちゃんと注意しないと!

王太子の婚約者になるのにあれはまずいっていうか!


「正直疑っていたんですよね、ヘンリエッタ様の事」

「え? 疑っ……?」

「ええ、義姉様の事を陥れようとしてるんじゃないかなーと」

「そ、そんな事考えてません!」


いやあああぁ!

ケリーの笑顔がドス黒い〜!

わ、わたしローナの味方です! マジで!

お説教って言うかダメ出しはするけどそれはローナの為なの! 本当なの!

だから当て馬からの破滅エンドはお許しをおおぉ!


「でしょうね。ヴィニーに振られてから、それでもうちの義姉様に味方するなんて余程の馬鹿かお人好しでしょう」

「…………」


く、口が悪……。

いや、ゲームでこういうやつなのは知っていたけど!


「ただ、貴女の立場を思えばそれもありえる、と思っていました。でも、貴女はそういうタイプでもない」

「は、はあ……。まあ、少なくとも、ローナ様と仲良くしたいと思っているのは本当でしてよ」


素直な気持ちだから、堂々と言った。

にっこり微笑まれる。

……な、なに?

手を差し出されたけど。


「お手をどうぞ」

「!」


あ、朝練か!

ダンスの朝練に来てたの忘れて…………。


「今日は無理ですが、今度デートしませんか?」

「ブフッ⁉︎」


手を取って、ケリーがリードしてくれる。

ダンスの練習、頑張らなきゃ。

そう、気合いを入れた直後に笑顔でなんか言われたんですけど⁉︎


「な⁉︎ な⁉︎ な⁉︎」

「そんな動揺します?」

「す、するに決まってるでしょう⁉︎ な、なんでいきなりそんなっ!」


デデデデデデートォォオ⁉︎

ケリーと⁉︎ わたしが⁉︎ あ、いや、ヘンリが⁉︎

どどどどどどういう事⁉︎

なんでいきなりケリーがただの当て馬出オチ令嬢のヘンリエッタにデートの申し込みなんてええぇ⁉︎


「わっ」

「ステップが乱れてますよ。平常心」

「は、はい。じゃ、じゃなくて!」

「ヘンリエッタ様、舞踏会場でダンス中にこのようなお誘いを受ける事などあり得る事でしょう? そんなに動揺しまくって相手の足を踏んづけたりしたらどうするんですか」

「!」


そ、それは…………それもそうね?

ハッ!

も、もしかしてケリーはわたしのダンスがそれなりに上達したから、舞踏会でダンス中に異性からデートの申し込みがあった場合を想定した練習をしようと、こんな事を言いましたの⁉︎

な、なんだ!

それならそうと言ってくれればいいのに……あ、でもサプライズじゃなきゃ、わたしがその時どうするかとかどうなるか分からないものね!

恐るべし戦略三位。

リエラフィース侯爵家の令嬢であるヘンリの為にも、わたしが動揺しまくってポカやらかすわけにはいかないのよね。

よ、よし、ここは貴族令嬢らしく優雅に答えないとね!


「ぐっ」

「考え事が長いですよ。ほら、また遅れてます」

「ううう〜!」


お、鬼〜!


「え、ええと〜……」

「〜〜♪」

「!」


どう答えるのが正解なのか。

考えながらだと体が疎かになる。

どうしたらいいのかと悩むとケリーが鼻歌を歌い出した。

な、なんてやつなの〜、こっちは必死にリズムを取り戻そうとしているのに……!


「音を聴いて」

「あ……」


じゃ、なくて……鼻歌で音楽を思い出させようとしてくれたのか。

や、やだなぁ、わたし。

てっきりわたしが困ってるのを見て、ケリーが上機嫌に鼻歌歌い出したのかと思っちゃった。

鼻歌に集中すれば、ダンスのリズムも戻ってくる。

じんわりと手のひらが温かい。

目が合えば微笑まれるので、ダンスの効果もありますます顔が熱くなる。

レッスン室にはわたしとケリーだけ。

音はケリーの鼻歌と、床を鳴らす靴音。

肌寒かったのに今はとても熱い。


「……………………」


あれ。

おかしい。

とても心地いい。

今まで気にならなかったけど、ケリーからはラベンダーの香りがほんのりと漂ってる。

す、好きなのかしら、ラベンダー。


「どうしました?」

「あ、えっと、ラベンダー、お好きなの?」

「え? よく分かりましたね?」

「ふ、服から、微かに……」

「ああ、まあ、単純に虫除けでラベンダーのサシュを使ってるんですけどね」

「えぇ……」


ラベンダーって虫除け効果あるのぉ⁉︎

ローナにハーブの事を聞いてから、色々自分でも調べてたけどそれは知らなかった〜!

ハ、ハーブ、奥深い!


「義姉は花が好きなので、俺にも色々作ってくれるんです。まあ、確かにラベンダーは好きですね。防虫効果があって服が傷まないし、昔転んで怪我をした時はヴィニーが消毒にも使えるとかなんとか言ってラベンダーの茶葉を擦り付けてきた事があったり……あはは」

「…………」


ええ〜……なんて貧乏くさい理由なの〜、国一番の伯爵家令息〜。


「義姉様は夜、寝る前にローズティーを飲まれるんですが、俺はラベンダーティーの方が好きですね」

「へ、へぇ……そうなんですの」


オ、オッシャレェ〜!

さすが国一番の伯爵家〜!


「あとは、色が好きなんです」

「紫色?」

「ええ、義姉様の瞳と同じ色で、とても綺麗でしょう?」

「…………」


シ、シスコン全開〜。

これ無自覚なんだろうなぁ。

ゲームでもあるあるだったけど、みこたそやメグ、よう耐えたもんだわコレ。

こうして義弟の言動にいつも出てくるのが『フィリシティ・カラー』の『悪役令嬢、ローナ・リース』なのよねぇ。

さすがすぎる。

なんかわたしまで切なくなるわ。


……あれ? 切なくなる? ……なんで?


「さて、そろそろ着替えて準備をしないと授業に間に合わなくなかもしれませんね。今日はこれで終わりに致しましょう」

「あ、そ、そうね。ありがとうございました、ケリー様」

「いいえ。それで、さっきの答えは出ましたか?」

「さっきの答え?」


なんの事?

わたしなんか聞かれた?


「デート。行きます? 来週辺りならまだ予定が組めるんですが」

「へ……」

「お弁当は俺が作っていくので、手ぶらで結構ですよ」

「……へ、へ⁉︎ あ、あれ、舞踏会のダンス中のお誘いをかわす練習だったんじゃ⁉︎」

「まあ、それも兼ねてますけど。そもそもかわせてないじゃないですか。返事もまだだし」

「うっ!」


た、確かに。

ええええ! ど、どうしよう〜⁉︎

完全に頭から抜け落ちてた〜!


「え、え、ええと〜……ええと〜っ」

「そんなに悩みます?」

「だ、だ、だって」

「ではお返事は今週中でいいですよ。では、俺は先に失礼しますね」

「は、はい、ありがとう、ございました……」


ぱたむ。

と、扉が閉まる。

え、え? えっ、えぇっ!


「……えええええぇぇぇぇ……」


頰を両手で包む。

か、顔がものすごく熱い。

ケリーが、わたしを! 当て馬出オチ令嬢のヘンリエッタを! デートに誘うなんて!

ど、どうしたらいいのおおぉ〜⁉︎




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