目指せお茶会!
つまり、わたしがこの世界に召喚された理由は『エメリエラを他の種族たちを愛するように』促す事。
それも、乙女ゲーム『フィリシティ・カラー』の知識を使いながら!
そしてわたしの体は『意識不明重体』の状態である事。
ヘンリエッタ……ヘンリの体から出て自分の体に戻るためには、わたしを呼び出した女神アミューリアに絆の力を示し、彼女の力を強化しなければならない。
要するにヘンリと仲良くならなきゃダメってことね。
「…………という事のようです」
「……と、いう事のようですって……簡単に言ってくれますけど〜、どえらい難易度じゃねぇですか〜? それ〜」
「そうなのよ」
今日から月曜日!
つまり、また学園生活の始まり!
いつものように重力を無視した縦巻きロールの寝癖を元に戻し、その最中に共有スペースで起きた事を話した。
この事はアンジュにも知っていてもらった方がいいと思ったから…。
「……つーか、エミさんが女神アミューリアに召喚されたっつー話も割と驚きなんですけどね〜…」
「そ、それはそうよね…。わたしも驚いた」
“あの”女神アミューリア。
この学園の名前にもなっている知恵と慈愛の女神。
…あんまり知恵的なものは感じなかったけど…人間に対する慈愛は感じたわ。
「……女神エメリエラ様ってーとアレですよね、去年から新しく奉り始めた守護女神ってやつですよね〜?」
「ええ、そうよ」
「その女神様に全ての種族へ慈愛を向けて頂くようにして〜、武神族やナターシア様、イシュタリア様を鎮めないと……『大陸支配権争奪戦争』どころではなく、神々の戦争に全ての種が巻き込まれるかもしれない〜…と」
「そ、そんな感じかな…」
「いやもうなんすかそれ〜…、シャレにならんっすよ〜…」
あのアンジュすら頭を抱えた。
まあ、そうよね…。
「つーか、なんでよりにもよってそんな壮大な事態にうちのお嬢が巻き込まれるんですかー? 意味分かんねーんですけどー?」
「わたしもそう思う…」
「ちょっとそこんとこ聞いといて下さーい」
「わ、分かった。…あ、あの、それで…どうしたらいいと思う?」
「…いや、あたしに聞かれてもさすがに分かんないですよ〜…。そもそもエメリエラ様ってのがどーゆーもんなのか…。守護女神様って言われてますけど、具体的にどんなもんなんすかね〜?」
「そ、そうねぇ…」
具体的に、かぁ。
言われてみると『魔宝石』に宿り、『従者石』へ魔力を繋げる存在。
巫女にステータスを見せ、攻略対象たちのステータスと親愛度と友情度を数値化してくれる。
巫女に治癒の力を与える。
…かな?
「…………確かに人間族にとってそこまで加護を与える〜的なものではないわね……」
ほぼ、戦巫女へのご加護ばかり!
いや、乙女ゲームのサポートキャラとしては当然…。
け、けど、アミューリアの話だと逆輸入的な感じだったしな?
「…………」
…ティターニアが先か、乙女ゲームの『フィリシティ・カラー』が先か…。
でも、そうなると『覚醒楽園エルドラ』はどーなんの?
100年後が舞台なのよ?
この世界の未来って事なのよ?
…普通にエルドラのストーリーに繋がりそうな感じなんだけど…。
いや、でもゲームとかなり違うところが多いし…。
あ、いや、アミューリアが見た未来の情報を持たせたこの世界で死んだ人の記憶と心を、わたしの世界の恐らく製作者的な人に入れた、んだよね?
んんん???
じゃあ、そのアミューリアが見た記憶って乙女ゲームのそれだったのかしら?
は、はあ?
……でも…乙女ゲームのサポートキャラと化しているという事は、だ。
武神や他の女神の側から見れば、それ程までに人間…戦巫女へ肩入れしているという風に見られても致し方ない。
こ、これが問題なのか…。
戦巫女からするとエメリエラ、お世話になります! って感じだものね…。
…そうか、これがダメなんだわ…‼︎
そ、そう考えると『乙女ゲームにした』事は正解だわ、前任者(?)さん!
完全サポートキャラと化してしまうエメリエラをなんとかしないといけないんだものね。
戦巫女にがっつり肩入れ集中させてしまう前に、エメリエラの考え方をもっと多くの種族に向けさせなければいけないんだわ。
でも、そうなるとエメリエラと話さないといけない。
エメリエラと話…。
「まあ、とりあえず朝食です〜」
「あ、ありがとう」
…寮の食堂より部屋で食べた方がゆっくり出来るのよね。
ありがとう、アンジュ。
差し出された暖かなパンを千切り、スープを飲み、サラダをかじり…。
「レオハール殿下に接触しないといけないわ…」
「え?」
わたしの呟きにアンジュの表情が固まる。
そうよね…普通にびびるわよね。
「エメリエラ様を見ることが出来るのも、話すことが出来るのもレオハール様だけだもの…」
「あ、そーゆー意味ですか〜。こっちの話かと思った〜」
「? こっちってどっち?」
「いや、今お話しようと思ってたんですよ〜…。昨日の夜から使用人宿舎で新しい噂が流れてて〜」
「…また噂…? みんな好きね…」
今それどころじゃないわよ。
世界の未来が掛かってるのよ…?
「いや、それがレオハール殿下の婚約者にローナ嬢が本決まりになったって話ですよ〜。まだギリ噂ですけど〜…マーシャが言ってたんで信憑性は高いです」
「ぶっ!」
「…………」
水を噴き出した。
お陰でアンジュの表情がアサシンのそれだ。
しかし、さすがに「今それどころじゃないわよ〜」とか言ってられないぞ、その噂!
「な、なんですってえぇ‼︎」
「…………」
大声を出して聞き返すわたしをよそに、噴き出した水を掃除するアンジュの無表情っぷり。
いやいや、言い出したのアンジュじゃない!
無視しないでよ!
「ちょ、ちょっとアンジュ! それどういう事⁉︎ ローナ様はエディン様と再婚約するんじゃないの⁉︎」
そ、そもそもゲームでは婚約者なのよ、ローナとエディンは!
婚約破棄だけでも「どゆこと⁉︎」なのに、ローナがレオ様と…婚約⁉︎
ど、どど…どーゆー事だぁぁあ!
「…聞いて驚いてください」
「こ、これ以上に驚くような事が…?」
「エディン様がローナ嬢のメイド、マーシャに鞍替えしたんです」
「や、やりそう!」
「いや、驚いてくださいよ〜。あたしも聞いた時はそう思いましたけど〜。…つーか、使用人宿舎全体が「あ、やっぱり」ってなりましたけど〜…」
……なったんじゃん…。
「マーシャは迷惑そうっていうか、断固拒否ってましたけどね〜。さすがに相手は公爵家ご子息…断り切るのは無理だと思うんですけど〜…」
「え? なんで?」
この世界って女性優遇の世界でしょ?
それに、マーシャは本物のマリアンヌ姫だし、ヒロインの一人。
きっとマーシャがエディンルートに入ったんじゃないのかな?
みこたそまだ召喚されてないけど…。
…………。
みこたそまだ召喚されてないのに?
「なんでって…いくらリース家のメイドとは言え相手はディリエアス公爵家のご子息ですよー? どうやって断るんですか〜」
「…え? 普通に断わればいいじゃない…?」
「…………。エミさんの世界って貴族の殿方に婚約を申し込まれたら断れるんですか〜?」
「え…いや、そもそも貴族とかいないし…?」
あれ?
なんか、変だな?
「はぁ。それなら分かんないかもしれないですけど〜、この世界では爵位と血筋が重要視されてるんですよ〜。エディン様は最高位の爵位、公爵家のご子息です。しかも、唯一セントラルに家を置くことを許された、現時点で最も王家に近い血筋の! …そんな方から言い寄られたら普通お断りなんてできませんよ〜」
「……、…え、え? で、でも、この世界って女性優遇なんじゃないの? ヘンリエッタの認識だとそんな感じなんだ、け、ど……」
…と、わたしが言葉を続けるとどんどんアンジュの目が冷めていく。
そして最終的に暗殺者の目になった。
…わたし今日学校行けるかしら…?
「……そんなんだからリエラフィース家は田舎貴族の成り上がりって陰口叩かれんだよバァカって言っといてくださ〜い…」
「……は、はい…」
それは今夜伝えればいいのね…?
ひ、ひえ…。
こ、怖い…。
アンジュが今日も怖いよぅ…!
わ、わたし…なにか変なこと言った?
…言ったんだろうなぁ…!
この反応を見る限り!
「……あのですねー、セントラルはそういう考え方はあんまり残ってないんですよ〜」
「え、あ、ええと……」
「まあ、この話はリエラフィース家の歴史とも関わってくるので〜、帰ったらみっちりやりますけど〜…」
目がアサシンだよアンジュ…。
…か、監禁?
帰ってきたらまた一晩監禁…⁉︎
ひ、ひいいぃ!
「……ともかく、女性優遇ではなく、セントラルは女性優先って覚えてくださ〜い」
「女性優先…」
レディファースト?
…確かにそれは少し意味合いが違うな?
でも、ゲーム内だとそんな感じだわ。
あれ、じゃあヘンリエッタの認識ってまさか……ズ、ズレてる?
「ったく、んな考え方だからいつまで経っても婚約者が見つからねーんすよ…」
「そ、そうだったのねー…」
ヘンリエッタァァ!
ダンスだけじゃないのね、あんたの悪いところは!
く、くぅ…確かにこの子タカビーだし我儘だし笑い方「おーっほっほっほっほっほっ!」だもんね!
そういうところも直していかないと…。
「で、エメリエラ様の事ですよね」
「あ、そこでいきなり話を戻すのね?」
「まあ、世界の運命がかかってるんですもんね〜」
「……そ、そうなのよね…」
自分…ヘンリエッタの婚約者もそうだけど、どちらかというと世界の命運の方が大事だよね。
頭を抱えてしまう。
朝食は片付けられ、学園に行く準備を整える。
「……お茶会でローナ嬢をお誘いするって話してたじゃねぇですか」
「え? あ、ああ、言ってたわね」
あわよくばヴィンセントが来たりしないかな〜…なんて…。
ケリーは怖いので、もういいです…。
「ローナ嬢に取り次いでもらったらどうですかねぇ…? 婚約の話が本当なら…女神に興味があるフリでもして」
「……ローナに…」
それは……けど…。
確かにそれは、多分、一番確実な方法だと思うけれど…。
でも…………。
「それは、やりたくない」
「は?」
「あの子とは普通に友達になりたいのよ」
「んなこと言ってる場合なんですかー?」
「…………」
友情。
世界の運命。
…………うん…天秤にかけると…まあ、そうだよな。
「………。そう、ですよね…ははは…」
「主催の勉強にもなるし、一石二鳥でしょ」
「……そうね…わかった、その方向でとりあえず進めてみましょう」
まずはローナに話してみよう。
所詮わたしは当て馬だもの、変な期待はしないでおくとして…。
目指せ、レオ様!
やるぞ! お茶会!