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なんということでしょう



「結局貴女に体を乗っ取られてから1ヶ月経ちましたわね」

「そ、そうね…あっという間だったわね」


本日も夢の中…アンジュ命名共有スペースにてヘンリエッタと反省会及び今後の対策会議中である。

とはいえ、毎日雑談と例によってヴィンセントへの気持ちの整理に関する情報交換ばかりなんだけど。

でもそっかぁ、もう1ヶ月かぁ。


「わたくしはずっとこのままなのかしら…」

「ご、ごめんね…」

「…………」


すっかり落ち込んでいるヘンリエッタ。

彼女は昼間、わたしと同じように起きているし意識もある。

けれど、体の主導権が完全にわたしにあり、ヘンリエッタはただ見ていることしか出来ない状況なのだそうだ。

…そしてこの事はあの書籍…『女神の悪戯』にも書いてあった。

わたしたちと同じ境遇だったラウエット氏も、ある日突然異世界の住人に体の主導権を奪われこのように反対側に閉じ込められたのだそう。

彼らはコミュニケーションを交わし続けて体の主導権を代わる代わるに出来るようになった、と書いてあったけど…。

なんかもうそれって多重人格的な感じじゃない?

大丈夫かなぁ?

…………それに…あの著者によるとラウエット氏の中に現れた人は直前まで戦場にいて、銃弾を胸に受けた、と書いてあったのよね。

銃弾。

この世界に銃は存在しない。

だから、この“銃弾”の意味はこの世界の人には分からないはず。

ラウエット氏の中に『異世界の人』が入り込んだ何よりの証明だ。


「…女神がわたしに何をさせたいのかが分かれば…何か変わるかもしれない。でも、どうやって調べればいいのかしら…」

「貴女にしか分からない事や、出来ない事があるのではなくて?」

「え? 例えば?」

「それは…………分かりませんわ。貴女の方こそ、何か心当たりはありませんの?」

「そんな事言われても……」


分からん。

わたしに出来る事なんて攻略キャラたちにはぁはぁ興奮する事くらいじゃない?

…女神よ、わたしになにをさせたいの、マジで…。

そんな事求められてるわけないし…。


「やっぱりこの空間に何かヒントがあるんじゃないかしら?」

「またそんな事を言って…。何度も調べようと試したではありませんの」

「まだ試してない事があるわよ。例えば、2人同時に同じ方向へ歩く!」

「は? わたくしも?」

「そうよ! いつもわたしばっかり…」

「そ、それは…」


この空間を調べようとこの場から歩き出すと、途端に水の中に沈んで眼を覚ますのよ。

苦しい思いをするのはいつもわたし!

不公平だわ。

と、いう事で!


「同時に歩くのよ。こうやって足の裏を合わせて…」

「…………。わ、分かりましたわ…。確かに『女神の悪戯』にも何度も2人で力を合わせた、とありましたものね…。やってみましょう」

「そうこなくちゃ!」


せーの、と2人同時にとりあえず右方向へ一歩踏み出す。

着地点をお互いの足の裏に定めて、踏みしめる。


「…………」

「…あ、歩けましたわ…」

「や、やった! 進めたよ、ヘンリエッタ!」

「え、ええ! やりましたわね! これでこの場所を調べーーー」


ヘンリエッタが私を見下ろした時だ。

真っ暗闇だった空間が突然明るくなる。

急な明るさに思わず手で顔を覆う。

眩しくて、目が開けていられない。

何が起きたの…⁉︎


『ようやく最初の問題を解いたわね…。今までの者たちで一番時間がかかったけれど、貴女たち大丈夫?』

「は?」

「は?」


あれ?


「あ、貴女!」

「わ、わあ⁉︎ ヘンリエッタ⁉︎」


真下にいたはずのヘンリエッタが真横にいる!

…あるぇ? けど…。


「って、ちょおっ! また壁ですの⁉︎」

「な、なんなのこれ!」


空間が明るくなって、ヘンリエッタが真下から真横に現れたと思ったら!

やっぱりヘンリエッタとわたしを隔てる透明なガラスのような壁が、そこにはあった。

でも床は湖みたい。

今度は水の上のような床を好きに歩いても落っこちないようだ。

天井は青空のように真っ青で、更には雲まで浮かんでいる。

どういう事だ、誰か説明しろ。

ん? そういえば、女の人の声が聞こえたような…?


『ふふふ…。次はその壁を登ってらっしゃい』

「なっ…誰ですの⁉︎」

「誰⁉︎」


わたしとヘンリエッタの声が重なる。

空から…いえ、空間全体に響くような声だ。

それもどことなくわたし達をバカにしている。


『…ワタクシは女神アミューリア』

「ア、アミューリア⁉︎」

「ア、アミューリア⁉︎」


名乗った声にまたヘンリエッタとわたしの声が重なった。

いや、だ、だって!


「どういう事ですの⁉︎ わたくしたちに『女神の悪戯』をしたのはアミューリアだと…そういう事ですの⁉︎」

『そうよ。貴女に異界の民を入れたのはワタクシ』

「なぁんですってぇ⁉︎ なんて事してくれやがりますの⁉︎ わたくしはリエラフィース家の後継としてやるべき事や学ぶべき事が山のようにありますのよ⁉︎ 女神ともあろうお方が何故このような事を!」

「ちょ、へ、ヘンリエッタ落ち着いて…」


相手は女神…らしいのに!

なんで喧嘩腰なの⁉︎

失礼でしょ、どう考えても!

あとアンジュの口が悪い理由が一瞬分かった…どこで覚えてくるのよ良家のお嬢様のくせに…!


『…困った事があるからよ』

「! …それがわたしがこの世界に連れてこられた理由なんですね? わたしは何をしたらいいのですか?」

『まあ、異界の民の方が余程理解が早いわね。助かるわ』

「…………」

「…………」


真横からぷんむくれたヘンリエッタの圧が!

ああもう、今はシカトよ!

書籍『女神の悪戯』には、『ティターニアの悪戯』はティターニアの意思を受けて女神族が行うって書いてあった。

うーん、ややこしいな!

……と、とにかく、わたしがヘンリエッタの中に入れられたのが『創世女神ティターニア』の意思なら、その意思ってのを確認しないと。

やっとヒントが貰えそうなのよ。

このチャンスに、帰る方法も…聞かないとね。


…わたしは…帰れる、よね?

生きて、いる…のよね?



『そう。貴女に頼みたい事があるのよ』

「…………なにをお望みなのでしょうか」

『貴女たち人間族が囲った幼い女神………ええ、新たに名をエメリエラ…と与えられたあの女神よ』

「エメリエラ…」


『魔宝石』を器とする女神エメリエラ!

『フィリシティ・カラー』の中ではサポートキャラであり、戦巫女を召喚した張本人でもある。

…………ん?

あれ、なんか引っかかる……。

おかしくない?

なんで一番女神として新米のエメリエラがみこたそを召喚できるのに…ベテランのアミューリアはわたしを“ヘンリエッタの中に”入れたりしたの?

…わたしのことも普通に召喚してくれたらこんな色々制限付きの生活しなくて済んだのに…。

あ、いや! ヘンリエッタやアンジュにも迷惑かけなくて済んだ! よ!


『あれはワタクシたち女神…いいえ、天神族にとって最も重要な存在…。彼女を守って欲しいのです』

「? …どういう事ですか…? エメリエラを守る?」

『最初からお話します。…この世界の成り立ちはご存知ね?』

「は、はい」

「ええ、もちろんですわ」


ティターニア…。

異界の妖精女王が創ったのが、この世界。

ゲームでも少し語られてるし、『ティターニア』という本で読んだもん、大体知ってるわよ。


『よろしくてよ。……その通り、ティターニアはワタクシたち天神族に全てを任せて、世界を維持する力に変わった。しかし、そのご意志とティターニアの欠片は遺されていたのです。ワタクシたち女神はティターニアの意思を預かり、武神族はティターニアの欠片をお守りする役割を担っていました』


…意思と、欠片…?

あれ?

これ、なんか…?

………『覚醒楽園エルドラ』で、妖精マルクス(VC岡山リント)が言ってたやつだ…。

嘘、ちょっと待って…。

まさか…。


「その“カケラ”とはなんなのですの?」

『…簡単に言えば女神ティターニアの魂の一部。ワタクシたち女神は武神族と違い器を持たぬ精神生命体…。全ての生き物の心に寄り添う事ができる代わりに肉体を持つことは出来ない』

「……ティターニアも同じという事ですの……?」

『ティターニアの肉体はこの世界……海、大地…空…全てがティターニアなのです』


そ、創世女神さすがパないっす…!


「あ、それで、ええと、武神族は女神ティターニアの魂のカケラを守ってるって事…」

『その通り。女神ティターニアの欠片は、世界が危機に瀕し、最後の手段としてティターニアが復活する時の要…。だと言うのに…武神たちは欠片を何者かに奪われたと言い出した』

「何ですって⁉︎ そ、それは早く探さなくては!」

『いいえ、場所は分かっています…。この国…『魔宝石』と呼ばれる石の中…』



うああああああああ!

エメリエラ=創世女神ティターニアァァ!

や、やぁっぱりぃーー!

『覚醒楽園エルドラ』の中で語られてたやつぅぅぅ!



「ま、まさか…守護女神エメリエラ様が…⁉︎」

『その通り。けれど、彼女は1人の人間の女と契約してから人に近い思考を持ち始めています。このままでは人に肩入れし過ぎて、他の種族へ慈愛を与える事をしなくなる。そうなれば少なくとも武神たちは元凶となる人間族を滅ぼすと言い出すでしょう』

「っ!」


『覚醒楽園エルドラ』…冒頭でセダルたちは言ってたわね?

「100年前の『大陸支配権争奪代理戦争』で人間が勝利したことを武神バーサークは許さなかった。だから、人間族を滅ぼすことにした…」って。

アミューリアの今の話…。

モ、モロだ。

ああ、うん、そうね…エメリエラ=創世女神ティターニアなら…そのエメリエラが人間族に肩入れした『代理戦争』って事になるもんね…?

そりゃあ、武神バーサークさんも許せないって、なる…か。

いやいやいやいや!


「そんな! 冗談ではありませんわ!」

「そ、そうですよ! 人間全部が悪いみたいな言い方…」

『ええ、ですから…異界の民よ』

「⁉︎」

『貴女はワタクシがかつて異界に放った未来の知識を、何らかの形で得た者のはず。その知識で、エメリエラを偏った知識から守り、彼女を正しき女神へと導くのです』

「お、重! えええ! そ、それはちょっと任務重過ぎですよ⁉︎」

『ワタクシが読み取れる未来を、異界の者は更に広げてより詳しく書物か何かで描いたはずなのです。貴女はそれを知っている…そうでしょう?』

「っ! …ま、待ってください…それ、さっきも言ってましたけどどう言うことですか!」

『…ワタクシは昔、死に行くこの世界の民に未来の知識を与えて異世界の民の中へと入れました。その者がその世界の媒体で、多くの未来への可能性を模索し、その中から正しきものを選べるように指示を出して…。ワタクシはエメリエラが正しき女神となれるよう、人の持つ無数の可能性…異世界ならば、その未来を知り、導く力があると思い賭けることにしたのです』


や、やり方間違えてますううっ!

アミューリアも、その任務受けた人もー!

ええええ!

つ、つまりアミューリアは…アミューリアに読み取れた未来…「武神バーサークがエメリエラが人間族に味方したことにキレて人間を滅ぼす」事案をなんとかすべく、わたしのように死に掛けたこの世界の人に…。


『ちょっと異世界でそうならない可能性を模索してきて』

「了解しました!」


的に送り出した。

が、しかしその「了解しました!」とか言ったかどうだか分からないけど、その人はわたしの世界に来て何を思ったか『ティターニア』の事をよりにもよって『乙女ゲーム』にした?


ア…。


ア……っ!



アホかぁぁぁああああぁぁ⁉︎



どうして!

どうしてそうなった⁉︎

どうしてその方法⁉︎

もっと他にもいい方法あったと思うんだよねえぇ⁉︎

占い師に聞くとか!

あ、ダメか?

な、なんか哲学的なのを学ぶとか!

ん? なんか違う?

いや、まあ、わたしもそんなこと言われたら困ると思うけど、でも少なくとも乙女ゲームにするっていう選択肢は取らない!

そんなせ、選択肢……。

…………。

選択肢?

…ま、まさか…乙女ゲームの『選択肢』にその可能性を見た……の?

あ、アホだ…。

そうだとしたらそいつは100パーセントアホだ…!

『フィリシティ・カラー』がある意味逆輸入的な感じだったのは驚いたけどその驚きを上回る驚きのアホだ……。


『異界の民よ、貴女を呼んだ理由は分かりましたね?』

「…………わ、わ、分かりましたけど…そ、それは分かりましたけど…! でも、待って下さい! あの、多分わたしの知識ではエメリエラを正しい女神にするなんて…無理です! そもそも正しい女神がなんなのか分かりません!」


つ、つーか女神のことは女神でなんとかしてよ!

なによ人間の可能性に賭けました、とか上手いこと言っちゃって…要するに丸投げじゃない⁉︎

体がないからこういう方法を取るしかないのかもしれないけど、それなら当事者…例えばレオ様辺りにお願いして欲しいわ!

みこたそまだ召喚されてないし!

なんでそうなるのよ!


『あ、やっぱりそう思う?』

「⁉︎」

「⁉︎」

『この世界の知識を持つ異界の民ならいけると思ったんだけどやっぱりダメよねー。でも、こっちも困ってるしなぁ…』

「え…あ、あのう?」


キャラが?

キャラ崩壊?

え?


『ごめんなさいね、あたちこっちが素なの。女神っぽく振る舞うの疲れるのよねぇ』


あたち⁉︎


『ここよ。こっち』

「⁉︎」

「⁉︎」


ふわん、とわたしとヘンリエッタの目の前に小さな妖精…。

え?

こ、これ、まさか…?

まさかでしょ?


『あたち、女神アミューリア。うふふ、どう? びっくりした?』

「ええええ!」

「ええええ⁉︎」


青い髪をなびかせた小さな手のひらサイズの妖精!

ひええー!

本当に“妖精”じゃない⁉︎

これ、これが女神アミューリアァ⁉︎


『あ、今あたちのことただの妖精って思ったでしょう? 違うんだからー。あたちたち女神族は妖精と違って羽が鳥さんみたいなのよ。ホラ』

「は、本当ですわ…」

「あ、ほ、ほんとだ…」


ふわ、と背中を見せた小さな妖精。

その背中は純白の鳥の羽。

妖精は確か、虫みたいな透明な羽だったはず。

そ、そういえば女神エメリエラも鳥のような翼だった。

でも大きさが…。

エメリエラはみこたそより少し年下の女の子って感じ……でも、もしかしてそれこそがエメリエラ=ティターニアの証拠?

ぎゃ、ぎゃあああああ…!


『そしてあなたたちが今いるこの場所はあたちとあなたたちの心を繋ぐ空間なの。女神は基本、人の心の力によって解放できる力が制限されるの。今あたちはあなたたちの心に取り憑いている。だから、あたちの力も大したことはない』

「ど、どういうことですの?」

『あのね、人の心は重なり合うことでとても強い力を発揮する。その力でパワーアップするのがあたちたち女神。あたちたちはティターニアの意思に基づき、世界を見守っているわ。けれど、いくら力が強くてもあたちたちは肉体を持たない。だから、人の心を渡り歩き…人々の心を豊かにして争いを起こさせないように努めることくらいしかできないのよ。けれど、それも限界がある』


…な、なにか女神っぽいこと言い出したわ!

一人称以外はすごく女神っぽいお仕事してる!


『エメリエラはティターニアの欠片を人間が拾って生まれた女神なの。その力はあたちたちの比ではない。恐らく、あの子自身がそれに気付いてないのよ。これはとても危険なこと。分かるかしら?』

「は、はい。それは、まあ、なんとなく」


確かに自分の力の大きさに気付いていないのは危ないわね。

レオ様は自分の力の強さを理解して、ヒロインに触れる時それはもう繊細な抱き締め方をしてくるの!

「痛くない? 大丈夫?」と壊れ物のように…!

はううう! レオ様ルートまたやりたい!

……じゃない、今そうじゃない。


『今言った通りあたちたちには肉体を失った人の心を、生きている人間に入れて協力してもらえるように頼む事くらいしかできないの。元に戻りたければ協力しなさいって』

「それ脅しって言うんですよ」

『そうとも言うわね。うふふ。まあ許してよ。あたちたちは肉体がないから無力なの。異界の人間はこの世界にはない知識や技術をたくさん持っているし、便利なんだもの』


……女神の名を騙る畜生の所業…‼︎


『ティライアス辺りは口が上手いから丸め込むのも得意なんだけど、あたち嘘下手だし素直だから本当の事しか言えないの』

「……ソウナンデスカー…」

「ふ…………」

「? ヘン…」

「ふざけんじゃありませんわよ! そんなの納得できるわけありませんわ! わたくしは1ヶ月も体の所有権を見ず知らずの他人に奪われていましたのよ⁉︎ そんな理由、納得も了承も出来ませんわよ! 今すぐに元に戻して下さいまし!」

「あ! ヘンリエッタ!」


ばっ!

と、壁の向こう側でヘンリエッタが女神に飛びかかろうとする。

が…………


バァン!



「……………」

「……あ、危ないよって…」


…お約束のごとく透明な壁に激突してとてもお見せできない変顔に……。


『もちろんタダとは言わないわ。あたちは心ある生き物の心を渡り歩くことが出来るの』


ヘンリエッタの変顔を物ともせず、ニタリと女神とは思えない笑みを浮かべるアミューリア。

な、なんかすごーく嫌な予感…。


『あなたたちの好きな男の心の中を覗いてきてあ、げ、る』

「ーーーーっっっっ⁉︎」

「ーーーーッッッッ‼︎」


女神⁉︎

悪魔じゃない⁉︎

こ、っこっこっこの女神〜っ!

なんてご褒美、いや条件提示してきやがるのおおぉ⁉︎

ヴィ、ヴィンセントの心の中…!

ばばばばばばかしゃないの、ヴィンセントの心の中なんて見たら尊すぎて浄化する!

じゃなくてそんな卑怯なことできるわけが無い!

大体、こっちの事をなんとも思ってないのなんて丸分かりすぎて見るまでもないでしょ!

だ、ダメよ笑美、流されたりしたら!


「そ、その手には乗りません! ええと、とにかくわたしを元の世界に帰してください!」

『それは無理。あなた今帰ったら死ぬわよ』

「え?」

「え⁉︎」


む、っ、り…?

死、ぬ?

は?

な、なに…言って…。


『さっきから言っているでしょう? あたちたちは肉体を失った身軽な者の魂と心を連れてこの世界の人間…または異界の人間の中に入れるの。肉体のある人間を連れて来る事があたちたちには難しいの。もしもあたちたちが肉体のある人間を連れて来るのなら、姉妹全員で協力しないとね…』

「え…じゃ、じゃあ、わたしは……」

『あなたはあの場で死んだわ。魂と心を記憶ごと借りて来たの。でも、あなたたちが絆を深めてあたちに力を与えるのなら生き返らせてあげる。あなたの死体はあちらの世界であたちの加護により意識不明の状態に留めてあるから、不可能ではない。けど…それは貴女と貴女の魂と心を繋ぐだけ。戻すにはもっと力が必要なの』

「………! ……それは…わたしとヘンリエッタが貴女に力を与える事ができない場合…」

『肉体を永遠に維持することはどのみち無理よ。人間の肉体はどうやったって老いるもの。ね? 悪い条件じゃないでしょう?』


…………いや、もう、完ッッ全にわたしの体が人質やんけ……。


「卑怯ですわよ! 貴女それでも女神なんですの⁉︎ 知恵と慈愛の女神が聞いて呆れますわ!」

『あら、そうかしら? あたちはあたちに出来る事をする。その代わり、あなたたちはあたちが出来ない事を代わりにする。なにかおかしな事? あたちは今にも死にそうな異界の民に、本来ならありえないチャンスを与えているのよ』

「恩着せがましい言い方をしても無駄ですわ! 大体、貴女が言っている事はわたくしたちに何の関係もないことではありませんの! 勝手に巻き込んで、人の命を使って脅して…! わたくしたちの信じていた女神がこんなおぞましいものだったなんて!」

「…ヘンリエッタ…」


涙を浮かべて叫ぶヘンリエッタに、わたしも俯いてしまう。

…そうだけど…でも、女神の言ってる事も…一理あるのよね…。

まあ、この話が本当なら、なんだけど。

…あのまま死ぬはずだったところを辛うじて助けてもらっている。

そして、この世界はわたしの大好きな『フィリシティ・カラー』の世界…。

空を見上げる。

ずっと真っ暗だったのに…今は雲の浮かぶ青い空。

女神アミューリア。

波打つような青い髪をなびかせた、知恵と慈愛の女神…。


「………一つ、教えてください」

『? なにかしら?』

「女神ティターニアの欠片はなんで人間の国に? ……欠片は武神族が守っていたんですよね?」

『あ、そこ気付いちゃった?』


そりゃあね。

だって、武神ゴルゴダとはそれなりに殺りあった仲ですもの……ゲームの中で。

あんなに強いゴルゴダたちが守る欠片がなんでウェンディールにあるの?

おかしくない?

そもそも、そこだと思うわけよ。

確かに女神エメリエラが居なければ人間は多分、あの戦争を勝てないけど…。

でも、女神と契約したこの国の初代女王が武神たちから欠片を奪ったとも思えない。

それなら、そういう伝承が残ってるはず。


『…あたちたちも武神たちに問い質したわ。最初こそ奪われたと言っていたけれど、そんなはずないでしょ? どうして欠片がよりにもよって人間族の国にあるの? ってね』

「なんて言ってたんですか?」

『酔って落としたって。バーサークが』

「………………………………最低かよ」





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