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美少女拝んだらご利益ないかな?



『女神の悪戯』と『戦後〜王家誕生秘話〜』と『ティターニア』と『運動神経ゼロでも踊れる社交ダンス』の4冊を借りてわたしは寮へと戻った。

ティナとクロエと別れ、自分の部屋に入る。

深呼吸して部屋を見回すが、アンジュは居ないようだ。

まあ、この時間は昼ごはんの下準備かな?

食堂でティナとクロエと一緒に昼食を食べる約束をしたから、それも伝えたかったのに。


「お嬢様、お帰りなさいませ」

「あ、アンジュはどこ?」

「アンジュでしたら昼食の準備かと…。御用がおありでしたら伝えてまいります」

「本当? じゃあ、昼食は食堂でティナたちと食べる約束をした、と伝えてくれる? 部屋には持ってこなくていいわ」

「かしこまりました」


頭を下げて、部屋を出て行くメイドさん。

アンジュの部下の1人で、確かレイラさん、だったかな?

アンジュの遠縁の人で、残念ながら『記憶継承』は発現しなかった。

…あーあ……アンジュには見習って欲しいくらい穏やかで優しそうな人だわね。


「さてと」


昼ご飯の事はアンジュに伝えたし、勉強勉強。

というか、ついに『ティターニアの悪戯』について分かる!

ありがとう、著者の人!

まさに同じ理由で困っていたのよ!

いざ!


「……………………」



私がラウエット氏の肉体に入ったのは私が死を感じた時。

私は生前、とある世界で戦争に参加していた兵士であった。

気付いた時には私はラウエット氏の体に入り込んで生活を始める事になる。

さて、ここでラウエット氏はどうなったと思われただろう?

我々は夜に夢の中で会えるようになった。

我々は毎日コミュニケーションを取り、そして知る。

これが『ティターニアの悪戯』であると。


「…………っ」


やっぱりこれは『ティターニアの悪戯』なんだ。

わたし…いえ、わたしとヘンリエッタに起きたのは。

どうしてこんな事に?

ページをめくる。


ティターニアはこの世界の名前だ。

そして、創生の女神の名でもある。

創生の女神ティターニアは二つの種族に別れて世界を見守っている。

天神族…女神族と武神族を総じてそう呼ぶ。

そして、『ティターニアの悪戯』は女神族がティターニアの意思を受けて行うもののようだ。

我々は女神ティライアスに求められ、とある女神を探した。

その女神は名前がなく、居場所も分からない。

仕方がなく、我々はその女神が住まう事の出来る『器』を用意する事にした。

『器』があれば、彼女は自然に引き寄せられるだろうと考えたのだ…………。


「これって、まさか…」


ゲームの中で『魔宝石』は何百年前に発見された〜とか、昔の魔法を研究していた研究者たちが作ったけど手に負えなくて封印した〜とか、色々言われていたけど結局本当のところは不明だったな。

ただ、城の地下に封印されていたものを国王バルニールが戦争勝利の為に持ち出してきた。

魔法研究所は何代か前の王様が作り、細々と運営されてきたけれど…バルニールの代になってから急に活発に研究されるようになって学生時代のミケーレにより『魔宝石』との関連性が発見されたのよね。

この辺はミケーレルートで語られるけど…ミケーレルートでも『魔宝石』がいつどこでどのように生まれたのかは分からなかったって言ってた、ミケーレが。

…もし、この本の内容がマジなら『魔宝石』を作ったのは…このラウエットっていう人と、中に入ってしまった人の技術によって、って事?

十分ありえるわ…『魔宝石』はどうやって作られたのか誰にも分からない。

なんの鉱物が使われ、どう加工されたのか…今の技術では分からないってミケーレが言ってたもの。

異世界の住人の…異世界の技術…。

そう考えれば納得がいく!


「…じゃあ…」


天井を見上げる。

わたしにも何か役割があって女神にヘンリエッタの中に“喚ばれた”の?

なんて迷惑な…。

それに、わたしになにをしろって言うの?

わたしに出来ることなんて攻略キャラではぁはぁ妄想する事くらいのような…。


「おかえりなさい」

「ぎゃーーーー!」


気配もなく、突如後ろから掛けられた声に跳ね上がる。

その声はわたしの最も苦手とする人物!


「あ、ア、アンジュ! びっくりするじゃない! ノックしてよ⁉︎」

「しましたよ〜。それよりお昼すけど〜。そろそろ食堂行った方がいいんじゃねぇですか〜?」

「え、あ、もうそんな時間?」

「ところで、なにをクソ生意気に本なんて読んでるんです〜?」


…ホントに口悪いなぁ。

ヴィンセントの話する時はあんなに可愛いのに。


「! …そうだ、これ見て!」

「これは…」

「『ティターニアの悪戯』について書いてある本を見つけたの! この本の著者はわたしと同じみたい! …まだ全部読んだわけじゃないけど…」

「…ラウエット・メーテリス……稀代の大嘘吐きとして爵位を奪われた人ですねー」

「…え⁉︎」


アンジュは著者の名前を見るなり眉を寄せる。

今なんて…?

大嘘吐きとして、爵位を奪われた?


「100年くらい前、リエラフィース家の前のセントラル西区を預かっていた豪商上がりの貴族だったんですよー。ある日突然変な石を女神の石とか言い出して、王家に献上して周りの貴族から頭おかしいって蹴落とされたんですー。今は爵位を奪われて没落しました〜」

「…そ、そんな…」

「…けど、成る程〜…この人もお嬢たちと同じ『ティターニアの悪戯』に遭った人だったんですね〜…。まあ、確かに中身が他人だと分からない人たちからすれば頭おかしくなったって思いますよねー」

「…………」


本を抱えたまま血の気が引いていくのを感じた。

リ、リエラフィース家の者として振る舞わないと……わたしも…いえ、わたしだけじゃない…ヘンリエッタもこの人と同じように頭がおかしくなったと思われる?

爵位を奪われて没落…。

あ、い、いや…。

そんなの嫌だ…!


「前例があるとなると、割と冗談抜きでエミさんにはお嬢のフリを続けてもらわねーとならねぇっすね〜…。今後もリエラフィース家とお嬢のために相応しい立ち居振る舞い、よろしくお願いします。…………出来なかったら監禁するので」

「ひいぃ⁉︎ ……っ…わ、分かってる」

「?」

「頑張るわ。ヘンリエッタにも、ヘンリエッタの家にも迷惑かけたくない。アンジュの言うことは尤もよ。…自分の意思でこうなったわけじゃないけど…だからって好き勝手して貴女たちに迷惑かけていい理由にはならないもんね」

「…………」


ヘンリエッタの記憶も分かるんだもの。

優しいご両親、使用人たちに囲まれて蝶よ花よと育てられたんだよね。

まあ、それでかなり我儘な高慢ちきの残念娘になっていたみたいだけど。

…出オチ令嬢とはいえ、これまでの16年間の記憶は確かにある。

ヘンリエッタ・リエラフィースは、この世界で今も生きている!

だから、それをダメにしていいはずない。

ラウエットさんたちはきっと“2人”で話し合って王家に『魔宝石』を献上したんだわ。

自分たちの身がどうなろうと、100年後の『戦争』を見据えて戦ったのね。

なんて立派な人たちなんだろう…。

でも、他にやり方ありそうなもんだけどな…。

全部読めば、分かるかしら?


「…あのね、アンジュ、この本には『ティターニアの悪戯』は女神たちが『ティターニア』の意思を受けて行うものだと書いてあるの。つまり、わたしは何か役割を負ってヘンリエッタの体に居るんじゃないかなって思う」

「つまり、エミさんがその役割を終えたらお嬢から出てってくれると?」

「まだこの本を全部読んだわけじゃないけど…そうだと思いたいわね」

「…………。分かりました。まあ、とりあえず今は昼食に行ってくださーい。クロエ様やティナエール様をお待たせしちまいますよ〜」

「あ、それもそうね!」


友人たちを待たせていたんだった!

手早く準備を済ませて、アンジュと一緒に一階へ降りていく。

そうだ…。


「ねぇ、アンジュ。明日からご飯はわたしが自分で作っていいかしら?」

「え? ダメですけどなんでですか〜?」


え…ダメなのに一応理由は聞いてくれるの…。


「料理の練習をしたいのよ。料理は練度で作れる幅も広がるでしょ?」

「いや、嗜む程度のものをそんなガチでやらなくていいですよ〜。むしろ、部屋にダンスの本もありましたよね〜? そっち頑張ってもらっていいですかぁ〜?」

「あ…」


机の上の借りた本、さすがチェックしてたのか。

…まあ、確かに緊急性的にダンスの方が…。


「分かったわ。じゃあ休みの日だけ! お願い」

「それならいいっすよ〜。あたしも仕事が減って助かります〜」

「よし、じゃあ午後は読書ね」

「そうですね〜」


うーん、こうして普通に話せるといいのだけれど…。

刷り込まれた恐怖はなかなか拭えないわね。

ガチで一晩尋問されたし。


まぁ、なんにしてもまずは昼食。

食堂にて!



「あ! …こほん。…まあ、ローナ様、お出掛けですの?」

「まあ、ヘンリエッタ様」


ごきげんよう、と頭を下げられる。

制服姿のローナと、メイドのマーシャと食堂の入り口で遭遇した!

わ、わぁぁぁ!

マーシャだ、マーシャ!

な、生マーシャー!

嬉しくてつい声かけちゃったよ!

だって生マーシャよ⁉︎ く、くううぅ! なんて可愛いの!

金色の髪を三つ編みにして後ろで丸めているので可愛い顔がはっきり分かる。

キョトンとしたパッチリと大きな青い瞳。

ほんのりピンクに近いオレンジ色の唇。

血色のいい白い肌!

そして整った顔立ちはまさしくヒロイン。

いやもうむしろザ・お姫様!

王道を地で行くとばかりの美少女ぶり。

や、やばいなにこれ眩しっ!

リース主従結局眩しいな!

美少女オーラパネェ。

お、拝んどこう。

心の中でも拝んだらご利益ありそう。


「ええ、ヴィニーたちが剣の稽古をするそうなので差し入れを持って行こうかと…」

「まあ…!」


ヴィニー⁉︎

ヴィ、ヴィニイイイィ⁉︎

ど、動揺するな、わたし! 悟られたら後ろのアサシンメイドにまた一晩尋問される!

だってだってケリーがヴィンセントを愛称で呼んでるのは知ってたけどローナもそう呼んでたなんて…!

い、いや、ヴィンセントをリース家に拾ったのはローナ!

むしろ当たり前!

でもゲームでは会話してるところもなかったから!

うっ、でもヘンリエッタの記憶にはちゃんとあるな⁉︎

あばばばば…!


「それは素敵ですわね」


わ、わたしもご一緒したい!

遠目からでもいいから眺めたい!

…ん?


「あら? そういえば先程図書館でケリー様にお会いしましたけれど…ご一緒ではありませんの?」

「稽古の約束は午後からですので…。でも、ケリーに? …まあ、なにかご迷惑になるような事をしたり言ったりしませんでしたか?」

「いえ、そういう事は…。むしろ高いところにあった本を取ってくださって…。ありがとうございます」

「そうですか…それなら…。…あの子はどうも一言余計な事を言ったりするので、なにか失礼な事を言いましたら教えてくださいませ」


…あれ、ローナの目が怖い。

悪役令嬢のソレだよ…?

ヒェ…。

姉弟揃って違う意味で怖いな…!


「…あ、そ、そうですわ。ケリー様はローナ様を心配しておられましたわよ」


…と、わたしが言っていたので是非ケリーには「ヘンリエッタ嬢はローナ義姉さんの味方」だよって伝わってくれないかな!

ヘンリエッタお姉さんは貴方のお姉さんの味方だよって!

ローナから言えば絶対信じてもらえる!

是非言ってやってくださいな! マジで!


「どういう事でしょう?」

「ローナ様には色々つまらない噂がおありでしょう? その事で、ローナ様が心を痛めておいでなのではないかと…」

「……。…なにか余計な事をしようとしていませんでしたか?」


……ぜ、前門の悪役令嬢…後門のアサシンメイド…?

ローナ目が怖い目が怖い!

あれ? わたしなんか余計な事を言っちゃった?

後ろのアンジュからも殺気のようなものを感じるよ?

空気おかしい空気おかしい!


「とんでもありませんわ、ローナ様の普段のご様子を聞かれただけですもの。お姉様想いな素敵な弟さんですわね!」

「……。………そう、ですか」


あ…。

ふわん、とローナが花開くように微笑む。

いやもうめちゃんこかわっ、超かわいっ…!


「…そうですわね…。では、本当にご迷惑をかけたわけでは…」

「ええ、全くありませんわ!」

「それならば良いのですが」

「お嬢様、そろそろ食堂へ行きませんと。クロエ様たちが待ちくたびれますよ」

「あ、そうでしたわね。失礼、ローナ様。わたくしこれから昼食ですの」

「まあ、そうでしたの。ごゆっくり…。お引止めして申し訳ございません」

「いえ、お声がけしたのはわたくしですから。行ってらっしゃいませ」

「はい、ありがとうございます」


しゃんなりと頭を下げて、ローナとマーシャを見送る。

くう、ついて行きたい!

でもわたしはこれからご飯!

ご飯は大事よね、ものすごく。

つーかアンジュって他のご令嬢の前だとまともなメイドの喋り方になるんだ…?

それはそれで怖いな。


「…あんま長々と余計な話するんじゃねーですよ。相手は出掛けようとしてたんすよ? こっちだってクロエ様たちを待たせてるのに…バカですか」

「…あ、そ、そうか…すいません…」

「親睦深めたいなら茶会でも開けばいいんじゃないですかー?」

「…お茶会かぁ…」

「ほら、しゃんとしてください。食堂は公共の場っすよ〜?」

「は、はい」


そうだった!

…キリッと…あ、いや、これはやりすぎね…もっと優雅でお上品に振る舞わないと…。


「………………今気付いたんだけど…」

「なんすか」

「…食堂で食べるイコールずっと気を張ってなきゃいけないのね…」

「………本当に今気付いたんですねぇ…」


小馬鹿にした目で眺められ、わたしは半分泣きたい気持ちになった。

ご飯くらいゆっくり食べたかったのだ。

ここ1週間、本当に人前で食べさせて大丈夫かアンジュに見張られながら昼食を個室(なんと学園の食堂には個室があるのだ。ゲームにはそんな設定なかったよ!)で食べていたんだけど…みんなと同じ場所で食べるってなかなかにハードル高い!

しかも昼時なので学生寮の食堂はそれなりに混雑…こん、混雑っていうか……め、めっちゃ豪華⁉︎

なによこれ、高級レストランか⁉︎

ドラマで出てくるホテルの最上階、夜景の見えるレストランをもっと広く、もっと大きなテーブルにした感じ!

燭台が各テーブルに乗り、純白のテーブルクロスがピンと張られ、銀の食器で音を立てずに優雅なお食事風景が繰り広げられる。

庶民のわたしからすればただの地獄だ。

なんだここ、もう帰りたい!


「ま、リエラフィース家の令嬢として相応しく、優雅に食事を楽しんできて下さいね〜。一応お側には控えてるからご安心を〜」


安心して大丈夫な気がしないのは何故かしらー?


「あ、いらしたわ。ヘンリエッタ様、お待ちしておりましたわ」

「ヘンリエッタさま…! ご一緒出来るの、お久しぶりですね…!」

「え、ええ…」

「どうぞ」


スッ、とアンジュが椅子を引いてくれる。

あーやばい…早まった…。

今ものすごく……ガ◯トとかデ◯ーズに逃げ込みたい…。




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