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我が家のメイドはアサシンか?



今日は土曜日。

『フィリシティ・カラー』は日本と同様、月火水木金土日…と曜日で1週間が区切られて12月で1年とされております。

もちろん4年に一度うるう年もあるわよ。

土曜日は午後からお休み。

明日は1日お休みよ。

ここは前の世界と同じ。

まあ、そんな事些細な問題よね。


「……じゃ、早速はじめますよぉ〜…?」

「…………はい……」


足に鉄球。

腰に鎖。

手首に手錠。

椅子に座らせられ、真後ろに鞭を持ったメイドが立つ。

この、今のわたしの状況に比べれば…‼︎



「エミさんがお嬢の体に現れてから2週間…。様子を見せてもらいましたけど〜…状況は芳しくはねぇですねぇ〜…。学業、マナー、交友関係等の成績と評価は少し上がってますけど〜…所作がお嬢じゃねぇんすよね〜」

「す、すみません…」

「まあ〜、うちのお嬢が手ぇつけなかったローナ・リース嬢との交流はリエラフィース侯爵家としては有効と見なしますから〜…その点はいいと思います〜。問題は所作…立ち居振る舞いですね〜…」


ビシィ!

…真後ろで響く鞭を鳴らす音に肩が跳ね上がる。

そ、そうですよね、はい、わ、分かっております…。


「鼻血はどーかと…思うんすけどねぇ〜〜…? エミさん…?」

「ご、ごめんなさい…、ごめんなさい」


だって攻略対象たちがキャッキャウフフって戯れてホモホモしてたら腐女子として鼻血くらい出すわよ…!

生レオ様、生エディン、生ケリーに生ライナス。

その上ハミュたんにルークたそ、アルトんまで…!

息の根を止めなかっただけマシだと思って欲しいくらいよ!


「……ほ、ほんとうにごめんなさい…あ、憧れの異性が勢揃いしているところに、興奮しすぎてしまって…。リ、リエラフィース侯爵家の令嬢として相応しい行動ではありませんでした…!」


でもそんな言い訳、殺し屋の目をしたアンジュに通用するはずもありませんよね!

はい、素直に反省致します!

だから、だから鞭で折檻はお許しくださいお許しください!

どちらかといえば水守くんに告白を気付かれないのに追いかけ続ける辺りMっ気のある方だとは思いますけど、物理は勘弁!

痛いのは絶対嫌!


「…………。まあ、あの場に集まっていたご令嬢たちのはしたない姿を聞き及ぶところによれば〜、エミさんはマシな方だったみたいですけど〜〜」


そうね、ガチで気絶した人とかわたしより鼻血垂れ流して倒れた人続出だったもの。

……攻略対象たちが想像以上にこの世界ではイケメンで、貴族令嬢たちの憧れのまとだった。

この世界、割と『その他イケメン』も多いけど、攻略対象たちはもう桁の違うレベルだったわ。

生きていることに感謝するくらいの美しさよ…!

生まれてきてくれてありがとうございます!

…それがあの場に、今この学園に入学している全員が揃っていたのよ?

ラスティは来年だから…あの場にはいなかった。

少し残念…でも、来年にはラスティもあの輪の中に…!

しかし、そうなると、もうあの場は超絶人気アイドルグループのライブ会場状態。

そりゃ気絶者も出るわ!

わたし悪くない!

悪いのはアイドルグループの自覚もなしにイチャイチャするあの子たちよ!

でもありがとうございました!


「反省が足りない顔してんすよねぇ…」

「ひいいいい!」


耳元に吹きかけられる生暖かく…そして冷たい殺意…!

身動きの取れない状態で、わたしは…このアサシンメイドの真ん前で愚かにも自らの欲望をあの純粋にスポーツを楽しんでいた攻略キャラたちのせいにしてしまった。

あの青春を謳歌していたみんなを言い訳にしてしまった。


「ごめんなさいごめんなさい! わたしが悪かったです! 間違っておりましたー! あの方々を邪な目で見てしまったのはわたしですー! 本当に申し訳ありませんでしたぁぁ!」

「いくら婚約者のいない方々だったからって…そんな目で見ていたんですかぁ? 一体どんな事を考えたら鼻血なんて出すんですかねぇ…?」

「お許しを! それだけはお許しをぉ〜!」

「リエラフィース侯爵家の品位を貶める行為ですよねぇ〜?」

「ごめんなさいごめんなさいー!」





…………この尋問は…翌朝まで続いた。






「…………」

「これに懲りたら二度とリエラフィース侯爵家の品位を貶めるような真似はしないでくださいね〜。次はこんなもんじゃありませんよ〜〜…?」

「は、はい!」


ベッドに倒れ込んでいたわたしは朝日が目に染みて涙を拭った。

運ばれてきた朝食を食べながら、そういえば尋問で夕飯も食べさせてもらえなかったのを思い出す。

…ううっ、アンジュマジ鬼畜メイド…!


「大体婚約者探し頑張る〜ってめっちゃ気合い入れてたのに1週間なんの収穫もないってどーゆー事ですか〜…ガッカリですよ〜…」

「そ、そんな事言われても…同じクラスの子はみんな婚約者がいるし…他のクラスとは接点があんまりないし…」

「は〜い、言い訳しないでくださ〜い。そんな事言ってると結婚なんてできないですよ〜。出会いがないのを言い訳にする人はまず出会おうとしてないんです〜。出会いの場はたくさんありますよ〜。積極的に活用してくださ〜い。恋愛結婚したくないなら話は別ですけど〜〜」

「嫌です! 恋愛結婚がしたいです!」

「はぁ〜。じゃあとりあえず学生主催の夜会とかに参加してみてはど〜ですかぁ〜? もしくは主催をしてみるとか〜。お茶会の主催からやってみるのもアリですよ〜」

「…主催かぁ…。確かに卒業したら誕生日の舞踏会は自分で主催しないといけなくなるものね…」


入学前はヘンリエッタのお父さんやお母さんが主催して開いてくれたけど、卒業後まで甘えるわけにはいかないわ。

どの道、在学中にお茶会や夜会の主催はチャレンジしようと思っていたし…。


「!」


そうだ!

お茶会を主催してローナを呼んでみよう!

もっと仲良くなれるかもしれない!

…………あと、あわよくばローナに付いてヴィンセントやケリーやルークたそも来るかもしれない…むしろ来て…!

…あ、でもあの主従が揃って目の前に現れたら眩しさで眼球死ぬかも…。

それはそれで幸せ…。


「エミさん…?」

「よ、邪なこと考えてません! あのほら、ローナ・リース嬢をお茶会に招待したらどうかなって考えてただけです!」

「あー、確かに彼女が来ればお嬢とエミさんが大好きなヴィンセントさんが来るかもですよねぇ〜」

「うぐっ!」

「そんでついでにケリー様や〜、ヴィンセントさんの弟のルークさんも来るかも〜…みてぇな?」

「………………」


目を逸らす。

も、もうやだこの子怖いぃぃ…。


「ま、いいんじゃねーんすかぁ〜? お嬢はヴィンセントさんのこと大好きでしたから…」

「……アンジュはヘンリエッタとヴィンセントのこと、反対なの?」

「別に〜…確かに素敵な殿方ですからね〜…。でも長男だし〜…お嬢が惚れてるんだしあたしは別にって感じですかね〜」

「ふーん……ん?」


あれ? なにか引っかかる言い方……。

長男だし?

あ、そうか、セレナード家長男か。

…ウェンディール王家長男でもあるけど。

“長男だし、お嬢が惚れてるからあたしは別に…”?

お嬢はヘンリエッタのことだから…?


「え? アンジュってヴィンセントのこと好きだったの⁉︎」

「っ!」


しゅ、瞬間沸騰!

確定じゃん⁉︎

マジかアンジュ!


「えー、いつからいつから⁉︎」

「よ、余計なこと言わねぇでください! あたしのことはいいんですよ!」

「だって気になるじゃない! 主従揃って1人の男を好きになるなんて〜っ!」


わたしもヴィンセント推しなの!

語り合える戦友ともが欲しい!

ヘンリエッタとは夜にしか話せないし!

あの子、変にツンデレで回りくどくてめんどくさいし!


「…あ、あたしはお嬢と違って使用人宿舎でよく会うんすよ…。あの人の義妹とも仲良い方ですよ」


…は、話し方が変わるくらい狼狽えてる…!

ヤダ、意外と可愛いところあるじゃないアンジュ。


「へぇ〜。告白しないの?」

「お嬢が惚れてる相手にお嬢より先に言うわけないでしょう」

「え〜〜、意外と律儀なのね〜」

「うっさいすよ!」


へー、そっかぁ、アンジュがねぇー。

うふふ、顔ニヨニヨしちゃう。

…………ん? あれ?


「…ねぇ、そういえばヴィンセントってアンジュと同じ執事家系よね? どうしてアンジュは使用人クラスでヴィンセントはわたしたちと同じ貴族のクラスに居るの?」


貴族には『記憶継承』の力がある。

そして、アンジュたち貴族に仕える執事家系の者も血筋によっては『記憶継承』が現れる事があるのよね。

この辺りはヘンリエッタの記憶…ゲームでは全然触れられていないところ。

使用人、メイドも田舎の地位が低い貴族の令息令嬢が多い。

つまり、使用人も『記憶継承』を持っていることがあるのだ。

ただ、王家から血筋が遠いのでほとんどが平民と変わらない能力しか持たない。

そういう草分けのためにより高い教育を受けられる貴族クラスと、その貴族たちに仕えるための教養を学ぶ使用人クラスと分かれているのだ。

なのにヴィンセントは最初から貴族クラス。

それを言うとルークもだけど…。

平民にまれに現れる『記憶持ち』はほとんどが使用人クラスに入れられる。

でも、どこかの貴族の使用人ではないから貴族たちの入る寮の一階の一番狭い部屋を割り当てられるのよ。

戦巫女プレイヤーはマリアンヌの嫌がらせの一環で、女子寮一階のその平民が入る一番狭い部屋に滞在することになる。


「あー、彼の場合入試の成績がヤバかったんですよ〜。貴族含めて上から3番目だったそうです〜」

「…っ! 入試なんてあるんだ⁉︎」

「そりゃありますよ〜。それでクラス分けするんですから〜。それで、貴族クラスの方に入学が決まったんですよね〜。弟さんのルークくんもめちゃんこ成績良くて貴族クラスになったんですよ〜…。あんまり成績いいから2人とも実はリース伯爵家の隠し子ではないか〜みたいな噂があるくれぇっすよ〜」

「そ、そうなのね…」


…あながち間違ってないのが怖い。

ヴィンセントはオズワルド・クレース・ウェンディール…。

国王と、元正妃ユリフィエの息子。

オズワルドは生まれてすぐに『記憶継承』の力を増幅させて発現させる実験により、仮死状態になってしまう。

そのまま死んだとみなされて墓に入れられ、後に息を吹き返したところをルコルレ街の浮浪者たちに助けられ…その後ローナによってリース家に拾われる。

ルークたそは超絶庶民として、本来『セレナード』姓も持たずに苗字なしの平民の『記憶持ち』として入学してくる。

しかし、その血筋はなんとセントラル南の領主、オークランド前侯爵の息子!

高齢のオークランド前侯爵は爵位を息子のゴヴェス・オークランド氏に譲る1年前に、屋敷のメイドをしていた女性に一目惚れして手を出した。

彼は先立たれた妻に瓜二つの彼女を正式な妻に迎えようとしたけれど、それを知った息子のゴヴェスはそれを許さずメイドを追い出す。

そして、人知れず彼女が産んだ子供がルークたそなのだ。

ゴヴェス・オークランドはミケーレルートとルークルートではラスボス枠。

………なのだけど…当て馬出オチ令嬢ヘンリエッタには関係のないことだわね…うふふ…。


「…………『記憶継承』ってすごいわね…」

「? どーしたんですかぁ〜? 急に」

「い、いやぁ…」


血筋…王家に近ければ近いほど如実に能力が現れる。

前世で得たものがごっそりと自分のものとして使える…。

体験してみて分かったけど、RPGで職業変えても前の職業のスキルが使える…って相当便利。

現実だったらチートよ。

ヘンリエッタだって前世のわたしよりずっと優秀だし、多分、剣や弓矢もやれば出来ないことはないと思う。

あれだけ料理が苦手だったのに…わたしが入った途端わたしのスキルが使えるようになったし……。


…………あれ、そうだ。

『記憶継承』は前世の力を使う事ができる力。

わたしがヘンリエッタに“転生”していたなら…料理する度にヘンリエッタは“わたしの料理スキル”を“思い出せた”はず。

それが出来なかったってことは…………。



「…………」

「エミさん?」



わたしはヘンリエッタに“転生したわけじゃない”んだ…!

『ティターニアの悪戯』で、ヘンリエッタの中に“入っている”だけなんだわ…!

じゃあ、わたしもしかして…死んでいないのかも…!

元の世界に、帰れるかもしれない!


「…でも死んだ後にヘンリエッタの中に入ったなら…やっぱり…」

「エミさーん」

「わあ!」

「なにぶつくさ言ってるんですか〜? …それより〜、今日の予定はどうします〜?」

「今日の予定?」


あ、今日は日曜日。

いつもならヒーロータイムを見るためにテレビの前にスタンバッテいる頃だわ…。

そうか、休みの日なのよね。

1週間気を張ってたし、昨日の夕方から尋問され続けて疲れてるしのんびりベッドでお昼寝し…………。


「……もちろん、リエラフィース侯爵家令嬢として自分磨きをなさいますよねぇ…?」

「エ…ソ、ソレハモチロン…モチロンヨ…」

「では、お料理やお裁縫の練習などされてはいかがですか〜? 午後はお茶会か夜会の主催の企画でも始められては〜? 学園の方に行って何かの運動をされてもいいですよね〜…テニスとか乗馬とか…」

「ソ、ソウネ……」


…休めないっぽい…。




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