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打算的にはなれません



「今日は色々勉強になりましたわ。ありがとう、ローナ様」


授業が終わり、素直にローナにお礼を言った。

ノート貸してくれるし、お肌や髪についての相談にも乗ってくれるしめっちゃいい子じゃない。

大好きになっちゃったわよ。

わたしやり込み型プレイヤーだったから、プレイ1000時間超えた辺りから貴女のお小言に何度も助けられてるし!


「いえ…。…その、失礼ですが…少し意外でした」

「? なにがですの?」

「あまりお料理を進んで専攻された様に見受けられませんでしたので…。今日のテスト、ご立派でしたわ。ヘンリエッタ様は努力をされる方ですのね」

「え…、…ええ、もちろん…!」


褒められたけど…複雑な気持ち…。

中身がヘンリエッタじゃなく、ただの庶民だからですー…。


「…でも、ありがとうございます」


………ああ、でもそういえばそうか…ローナは努力する人間を正当に評価するご令嬢。

恋愛イベントにばかり気を取られて、戦争への備えを疎かにすれば「巫女としての意識が低い」と怒られる。

戦争の為に自分磨きもせず攻略対象たちに近付けば「こちらの世界では無礼に当たります」と怒られる。

学園やお城でローナと遭遇すると、基本的にこの様なお小言を頂き…選択肢で間違った反論をしようものならお説教で行動時間が潰れてしまう。

…ちなみに、悪役姫マリアンヌやマーシャも戦巫女やメグでプレイすると邪魔しにくるが2人の場合エンカウントイコール行動時間が潰される。

マーシャなら選択肢次第で友情度が上がるのに対し、マリアンヌはどの選択肢を選んでも必ず嫌がらせされて行動時間がなくなるのでタチが悪い。

その点、ローナは選択肢さえ間違えなければ見逃してくれるから行動時間は潰れないのでまだ良心的ライバル兼悪役令嬢よ…。

それに…頑張っていれば正当に評価してくれる。

ケリールートのトゥルーエンドがその証拠だ。


「? なにがですか?」

「褒めてくださって」

「わたくしごときが差し出がましいことでした」

「いいえ、わたくし褒められると伸びるタイプですのよ」

「……まあ、ではうちのケリーと同じですわね…」


ふわん、と…ローナが笑う。

か、かっ…かわ…!


「まあ、わたくし、そろそろ次の授業ですわ」

「あ、引き止めてごめんなさい」


頭を下げ、ローナを見送る。

さてと、わたしも次の授業に行かないとね。

…でも、ローナと同じ料理を専攻していたのはラッキーかも。

あーんな可愛くて優秀で優しい子とお近付きになれたのはヘンリエッタにとって、絶対プラスになるわ!

それにローナは攻略対象たちとも縁深いキャラ!

仲良くして、お友達になれば色々聞けると思うし…………。


…でも…、…でも男目的で仲良くしてたと思われたら…嫌だな。


ローナはあの自分にも他人にも厳しいところと、口を開けば政治や経済、戦争の話題ばかりなところでご令嬢たちからはかなり浮いた存在。

本当は仲良くして彼女の周りの男性陣について詳しく聞きたいご令嬢も多い。

でも、彼女の空気がそれをさせない。

だから変な噂を蔓延させて、優秀で近づき難い彼女を貶めて満足しているのね…。

…やってることみみっちいわね、この世界のお嬢様たち…。

けど、ヘンリエッタもその一人だったのよね。

ローナの悪い噂を鵜呑みにして、一緒に悪口を言うなんて事はしていなかったけど……。

まあ、リエラフィース侯爵令嬢としてはしたないって建前のもと、口に出さなかっただけで結構妬いてたからな…ヴィンセントといつも一緒だから。


「…うーん、確かにローナと仲良くなるのは利点が多いけど…」


やだなー、人間関係を利益不利益で考えなきゃいけないの…。

特に男関係…。

単純に良い子だし、わたし的には普通に友達になりたい。

男関係抜きで!

…よし、ローナには向こうから振られない限り男関係の話題は振らない方向で…友達になろう!

ヘンリエッタごとき当て馬出オチ令嬢がローナと友達になったところでゲームに影響なんか出ないだろうし。


「あら?」


歩く廊下の先。

窓に無数のご令嬢たちが張り付いておられる。

皆一様にニタニタ…失礼、によによ…うーん、控えめに言ってもやっぱりによによだわ…笑っていて少し怖い。

って、クロエとティナ⁉︎

あの子たちまで参加してる⁉︎


「ふ、2人とも…いえ、皆さまなにをしておいでですの…?」

「まあ、ヘンリエッタ様! 良いところに! ご覧になって!」

「?」


なんか興奮気味に窓の外を指差すクロエ。

ここは学園の西棟。

西の二階廊下。

その真下には…バスケットコート。

…うん、貴族の学校にバスケットコート?

もちろん突っ込まないわよ?

だって乙女ゲームの世界だもの、バスケ以外にもサッカーや野球場、テニスコートなんかもあるんだから。

一応、これらはデートスポットでもあるしね…。

ケリー、ライナス、ハミュエラはスポーティな女性を好むの。

だからこういう運動場で運動すると系統が『スポーティ』に傾く。

この3人を攻略する時に利用するのよ。

逆ハーを狙うなら程々にしないといけないけどね。

うふふ、ハミュエラと1on1のデートは良かったなぁ…!

無邪気で可愛いハミュたん…!

は! ケリーが入学してるって事はハミュたんも入学済みって事よね⁉︎

な、生ハミュたん…!

いつか会えたりするのかしら…⁉︎


「ヘンリエッタ様?」

「あ、ご、ごめんなさい。それで、外になにが? …ん?」


バスケットコートの中よね?

よーく目を凝らしてみると、数人の長身男子たちが薄着でキャッキャと遊んでおられる。

あ、あれは…あれはまさか…!


「レ、レオハール王子にエディン様にライナス様にケリー様にヴィンセントにハ、ハミュたん!」


バシッと窓ガラスに張り付いてしまう。

だ、だって!

だって『フィリシティ・カラー』メイン攻略キャラたちアーンド追加攻略キャラ人気No. 1ハミュたんがバスケしてるウアウゥ⁉︎

待って!

木陰には本を読むアルトんと、なんじゃああの美少女はぁぁぁあ⁉︎

スティーブン⁉︎ スティーブンなの⁉︎

ぎゃああああああ! ほ、本当に女子の制服着てるうううぅ!


「ハミュ…?」

「はっ! な、なんでもございませんわ…ほほほ…」


や、やばいやばい…!

あまりのハミュたんの可愛さに理性が飛びかけた…!

か、監禁は勘弁!


「はあぁぁぁ…! な、なんて眼福な光景ですのぉ〜っ! レオハール様があんなに無邪気に笑っておられますわ〜っ!」

「エディン様のあんなに無邪気な笑顔も初めて…! やだ、か、可愛い〜っ!」

「ね、ねぇ、あの茶色の髪の方がリース伯爵家の跡取り、ケリー様よね? やだ、可愛くありません? 素敵じゃありません? 運動神経があんなによろしいのねっ」

「ケリー様ってまだ婚約者がいらっしゃらないのよね? きゃあーっ!」

「ま、待ってまずいわなんなのですかエディン様とレオハール様のあのお互い分かってるぜ感は…はぁ、はぁ…」

「ねえ、あの金髪で活発そうな可愛らしい方はどなた⁉︎」

「ご存知ありませんの⁉︎ ウエスト区のハミュエラ・ダモンズ公爵子息ですわ! 婚約者はなし!」

「なんということ! チェックしておかねばですわ!」

「ライナス様、やっぱり素敵ですわ〜っ! あのたくましい胸板にだ、抱かれたい…きゃー! 言ってしまいましたわ〜!」

「やだ! はしたない! …でもわかりますわ〜っ」

「は、はぁ、はぁ…ヴィンセントさんとレオハール様が同じチームで目で語り合っておられますわ…! はぁ、はぁ…!」

「ねえ、あの木陰でスティーブン様と本を読んでおられる方はどなた⁉︎」

「ご存知ありませんの⁉︎ イースト区のアルト・フェフトリー公爵子息ですわ!」

「チェック! チェックですわぁぁあ!」


「………………」



…あ、なんか冷静になってきたわ…。

と、ところどころで腐った気配を多分に含んだ熱気が混ざっていた気がするんだけど気のせいかしら…?


「⁉︎ あの子は⁉︎」

「どの子ですの⁉︎」

「お茶を持ってきた子ですわ!」

「黒髪⁉︎ あの子が噂のヴィンセントさんの弟さん⁉︎」

「きっとそうですわ!」

「ル、ルークたそ⁉︎」


ばっ、と落ち着いたところに新たな爆弾!

ルークたそルークたそルークたそ〜!

窓に張り付くご令嬢の塊に仲間入りする。

ぁぁぁあーーー!

ルークたそだ! 間違いない!

アイスティーを入れてバスケをしていたメンバーや木陰で本を読んでいたアルトんとスティーブンらしき美少女に運んであげてるううぅ!

天使! ルークたそまじ天使イィ!



ーーーー監禁…。



「…………」


スン……。

脳裏によぎるアサシンメイドの冷たい眼差しがわたしを正気に戻す。

わ、わたしはリエラフィース侯爵家のヘンリエッタ…。

は、はしたない真似をしたら…監禁!

だめよ、理性を保って!


「ひゃぁぁあっ! た、たくましい! たくましい筋肉ですわライナス様、ヴィンセント様! は、はぁはぁ!」

「キャアアァ! レオハール様のお、お腰…お腹…!」

「ぎゃああああああ! エディン様がレオハール様の細腰にお手をおおおぉ!」

「いけませんわいけませんわぁぁあはあはあほぉはあぁ!」


荒ぶるご令嬢。

悶絶に次ぐ悶絶!

わたしも脳内に「監禁」の文字がチラつかなければよだれ撒き散らして騒ぎたい状況が繰り広げられている!

恐らく試合中の小休憩…水分補給のためだろう。

ルークたその淹れたアイスティーのコップを手渡され、和気藹々と笑い合う攻略対象たち!

やばいだろあの光景!

『フィリシティ・カラー』ファンの息の根止めに来てる…‼︎

何喋ってるのかはここからはご令嬢たちの阿鼻叫喚に掻き消されて全然わからないけど、薄いTシャツの裾で汗を拭うレオ様のお腹! 細腰!

レオ様の背後に立ち、密着して腰とお腹に手を回すエディン!

誰か! 誰かカメラ!

の、脳内録画! 目に、脳髄の隅々に!

REC! REC!

き、きぃさまぁぁぁエディーーーン!

けしからんもっとやれぇぇぇぇ‼︎

マジかぁ、お前らぁぁぁあ⁉︎

戦巫女プレイヤーの知らないところでそんなことやってやがったのかぁぁぁあ⁉︎

わたしがエディン×レオハール推しと知っての狼藉かぁぁ⁉︎


監禁…。


ぐぅあああ! 監禁は嫌ぁぁぁぁあ!

で、でも悶えたい! ここのご令嬢たちと共に転げ回って叫びまくりたいい!

涙とよだれを垂れ流して喜びを表現したいいぃぃ!

ありがとうございます!

ありがとうございます!

ティターニア様ありがとうございますぅぅぅ!


「あれをご覧になって!」


1人の令嬢が叫ぶ!

その指差した先にはヴィンセントとケリーが小突きあってふざけあっている!

ぶぅるぁぁぁぉぉぁああああああぁぁぁ⁉︎


「ヴィンセント様のあんなお顔おぉ!」

「ひいいぃ! いつもクールなヴィンセントさんがぁぁぁぁ!」

「わたくし思い残すことはございませんわ…」

「アリエナ様ぁぁぁ!」


…なんという事なの…ついに犠牲者が…!

アリエナ様、貴女の代わりに1秒も残さずわたしが脳内に録画しておきます!


「ひぎ!」


引きつったようなとある令嬢の声。

そして2、3名が倒れた。

ハミュたんがアルトんに抱き付いている。

ものすごく嫌そうにその顔を押し退けようとするアルトんヤバしマジコレ可愛いのテロだコレ……。


「…ごふ!」

「かはぁ!」


あ、2人死んだ。

無理ないス。

めちゃ分かるス。

アレはアカンス。


「うっうっ! スティーブン様とライナス様が!」


しかし、そんな発狂状態の中、恐らくライナス推しと思われるご令嬢たちは涙に暮れている。

ライナスにタオルを差し出し微笑むスティーブン。

それを受け取り、ゲーム内ではヒロインにしか見せない笑顔を浮かべるライナス!

ぐぅあああ! ほ、本当に付き合ってるーーー⁉︎


「皆様! あ、あれを!」

「⁉︎」


ヴィンセントと小突きあってふざけていたケリーがルークの頭をわしゃわしゃしてる。

あ、これケリー×ルークタグですねありがとうございます。

その横でレオ様がヴィンセントの腕にしがみついて…しがみ、…お?

なにを話しているかはわかりませんよ?

ヴィンセント、さすがお兄ちゃん属性。

レオ様の頭をなでなでごちそうさまです。

エディンがそれを面白くないかのようにレオ様の腕を引いて…………。


無理やんこんなん死ぬやん。



がくり!



監禁…。

この単語さえなければ素直に意識を手放せたものを…!

でも抑えきれないこの喜び!

涙となって、止まらない!


ぽた。


「?」


口を抑える手の隙間から、赤いものが…………あ…やばい…………。



鼻血出た……。





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