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第09話 “魔王”の恐るべき実力!


「それで? 用意し忘れたものって何なんだ?」

「さて、何だろうな?」

「おい」



 先に階段を降りる魔王の返答に、思わず俺はツッコミを入れる。

 魔王が足を止めて、俺を振り返る。

 その瞳にジッと顔を見つめられ、俺はグッと息を呑んでしまう。



「ッ、な、何……だよ?」

「いいや。ただ私は、お前が困っているようだったので、助け舟を出したつもりだっただけだ。不要だったか?」

「え……ッ?」



 た、助ける?

 魔王が、俺を?

 何で……?


 それは完全に想定外の言葉で、俺の思考はフリーズしてしまう。

 そうしたら、魔王はスッと俺から視線を逸らせて、下を向くみたいに、なってて……ッ。



「すまない、やはり余計なお世話だったようだな。悪かった」

「えッ? えッ? えッ!?」

「この世界で初めて、本当の私を知る相手に会えて、私としたことが、ついはしゃいでしまっていたようだ。反省している」

「い、いや、そんなッ……ッ!?」



 魔、魔王が何か、唇を噛む、みたいに……ッ。

 な、何なんだ、この罪悪感はッ!?

 何か俺が、メッチャ悪いことをしたみたいな気持ちになってきてるんだけどッ!?

 えっとッ、えっとッ、えっとッ……ッ!



「……考えてみれば、こうして私がまた、お前を連れ出せば、それが新たな騒動の種になるのだろうな。迂闊だった。それも今、改めて反省している」

「いやッ、だからッ……!」



 なっ、何で魔王がこんなにショボくれてんのッ!?

 魔王のくせにっ!?

 おいおいおいッ、ちょっと待てッ!!

 何かホントに、メッチャ落ち着かないぞッ!?



「……」

「ぅぐぅっ!?」



 抑えきれずに、声がッ……ッ!

 だって、だって魔王が上目遣いで俺を見たりするし……ッ!

 クッソ、コイツッ!

 ああ、悪かったな! 女の子にそんな目で見られたのは初めてなんだよッ!

 それが魔王ってのがアレだけどッ!

 でもッ……でもッ!!

 困っている女の子は放っておけないっていう、俺の“勇者”属性が……ッ!!



「だッ、だから待てってばッ。俺は別に、そんな迷惑だとか全然ッ、思ってないし! むしろ、助けてもらって助かったって……ッ!」

「……ふ……ありがとう」

「ぐふぅううっ!?」



 クッソッ、また何か変な声がッ!?

 だって魔王がッ、魔王が礼を言ってるのに、明らかに言外に「いいんだぞ? そんな無理しなくて」とか言うんだからさぁッ!!

 あぁっ、もう分かったよッ!

 そっちがその気なら、この勝負、受けてやらあッ!



「俺は本気で助かったって言ってるんだよッ。だいたい俺だって、“夢”で片付けてた話をできる相手が現れて、嬉しいっちゃ嬉しいしッ!」

「……」

「いやッ、無理して言ってるんじゃないしッ! 助けてくれて、ありがとなッ」

「……では、これからも私がお前に構っても、問題はないのか?」

「おうッ、ドンと来いッ!」

「そうかっ」

「ッッッッッ!!!!???」



 魔王が、パッと嬉しそうに、て笑って……ッ!

 それにドキッて、させられて……ッ!!

 でもッ、でもッ、でもッ……ッ!!



(クッソッッッ! やっぱりハメられたぁあああッ!!)



 俺は心の中で、絶叫をした。

 そんな気はしてたんだよッ! そんな気はッッ!!!

 絶対、演技だって思ってましたッ!!

 でもッ、しょうがないじゃんかッ!!

 女の子(それも超美人ッ!)に、あんな顔されちゃあさぁッ!


 ああっ、そうともッ!

 これが童貞の限界だよッ!!??



「さて。とりあえずだが、購買部へは行くだけ行ってみようか。品揃えも、見ておきたいしな」

「…………」



 サクッと、スイッチでも切り替えたみたいに気持ちも表情も切り替えてる魔王を、俺はジト目チックに見つめる。

 その俺の視線に、魔王がちょっと首を傾げる。


「どうした?」

「……いや、お前って、そういうキャラだったの?」

「キャラ、とは?」

「いや、割りに感情表現が豊かっていうか……ぶっちゃけ、今の、演技だっただろ?」

「ふっ……」



 俺の指摘に、魔王が口元を緩めて笑う。



「うむ。割りと、魔王の頃からこうだったぞ」

「マジかッ!?」

「あの頃は、殺し合うだけの関係だったからな。お前が知らないのも、無理はない」

「ッ、あ、ああ、そう……だな、ッ」



 確かに言われてみれば、元の世界(?)で魔王と交わした言葉なんて、数えられる程度な気がする。

 直接、キチンと顔を合わせたのだって、二回か三回くらいなはずだ。

 遠くから見たのを合わせても、そんなに多くはない。



(……つまり、俺は自分で思ってるほど、“魔王”個人のことは知らないって、ことか……)



 それは何だか、意外な事実、という気がしていた。

“魔王”のことなら、“勇者”である俺がエキスパートって、何かそんな風に思っていたから。

 そう思うと、やっぱり不思議な気がする。



「もちろん、この17年間で身につけた、新たな私の部分もたくさんある」

「そういうもんなんだ」

「うむ。そうして、そういうところも、これからお前に見ていってもらいたいと、そう思っている」

「んなッッ!!??」



 クッソッ!

 ナチュラルに、俺の動揺するようなセリフを吐きやがってッ!

 ふっ、ふはっ、ふはははっ!

 だが、その手はもう食わんッ!!

“勇者”は過去の経験を活かす能力が高いんだからなッ!

 もう、これしきのことで顔を赤らめたりはしない!!



「ああ、そうだ。最後にひとつ、訂正をさせてくれ」

「……何だよ?」

「この世界で、お前と会えて嬉しいというのは、嘘でも演技でもなく、正真正銘の本音だ。……それは、信じて欲しい」

「ぐぶぅうっッッ!!??」



 またッ……また、変な声、が……ッ。

 だって……だって魔王が、ちょっと恥ずかしそうに微笑んで、そんなに言うんだもん……ッ。



 俺……よく、こんなのと戦って勝てたなぁって……自分を誉めてやりたいぜ、まったく……。


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