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第74話 やっぱり聖導教団は、トラブルしか呼び込まないと思う。


 ジリリリリーン……! ジリリリリーン……!



 滅多にならない、電話のベルが鳴っている。

 俺と姉ちゃんは顔を見合わせるが、心当たりはお互いになさそうだった。



 ジリリリリーン……! ジリリリリーン……!



 電話の相手は、まだ諦めるつもりはないらしい。

 俺はとりあえず姉ちゃんに頷いて、受話器を取った。



「もしもし?」

『あ……夜分に恐れ入ります。水嶋様のお宅でしょうか?』

「はい、そうですけど……?」



 かなり若い女の声。

 けど、聞き覚えがない。

 姉ちゃんか、それともばあちゃんの関係かな?



『すみません、私、山本と申しますが、悟様はいらっしゃいますでしょうか?』

「あ……」

『はい?』



 あまりに礼儀正しい応対で分からなかった。

 てか、ちゃんとこういう受け答えもできんじゃんか。



「お前、ティファナだろ?」

『アシュタルっ! えぇい、それなら最初から、そう名乗らんか!』

「あぁ、はいはい。すみませんね」



 途端に、ティファナの怒ったような声が、受話器から溢れ出してくる。

 コイツはコイツで、やっぱり何か残念な奴だと思う。



「っっ!?」

『何だ? どうした?』

「あ、ああ、いやっ、何でもないっ」



 思わず声を上げかけて、それをどうにか誤魔化す。

 だって、だって姉ちゃんが!

 姉ちゃんがピッタリ、俺に寄り添うようにして、顔だって、ほっぺをわざとくっつけてるでしょ!?

 そりゃあ、黒電話にはスピーカー機能なんてないけれども!

 ここまでくっつかなくたって、通話の内容は聞こえるよね?

 てか、どうせ後で俺が話すんだからさ!



『……貴様、何か不埒な真似をしているのではあるまいな?』

「んなっ!? んな訳ねーだろ? てか、わざわざ、そんなことを言うために電話してきたのかよ?」

『そんな訳なかろう』

「んじゃ、どんな訳なんだよ?」

『お前に、会わせたい人がいるのだ、アシュタル』








「絶対、それ、ロクでもない相手が待ってるわね」

「まあ、それは俺も否定しねーよ」



 翌日の学校。

 魔王と一緒に登校した俺は、道々、魔王に話した話をまた、香月にしていた。

 そうして香月の出した結論は、俺と姉ちゃんと魔王と、まったく同じものだった。



「聖導教団の聖騎士であるティファナが会わせたいってんだから、普通に考えたら、司教クラスの人間だろうなぁ」

「司教……司教かぁ……」



 俺の言葉に、香月もウンザリした顔をする。

 聖導教団の人間というのは、えてして、上に行くほど話を聞かない傾向が強い。

 厄介なのは、そういう話を聞かない人間を上手いこと転がして、自分の利を獲得に走る人間も、その聖導教団の中に混ざっている、ということだ。

 それこそが、聖導教団の一番の問題だと言っても良い。

 今回、会うことになるだろう司教がどっちのタイプか、というのもまあ問題ではある。



「しかし、敵の親玉が出てくるのなら、話が早いではないか。そいつに、二度と良からぬことができぬように教え込めばよいだけなのだから」

「そういう魔王思考は止めなさい」

「あうっ」



 魔王の脳天にチョップを振り下ろす。

 もちろん、それほど強く当てたわけじゃあない。

 それでも魔王は頭を押さえて、恨みがましい目を俺に向けてくる。

 だが、俺が気にした視線は魔王ではなく、香月だった。



「……」

「何だよ?」

「べっつにぃ?」



 と言いつつ、あからさまに不満気だよな、コイツ。

 コイツはコイツで分かりやすいんだけど、何が不満なのかはサッパリ分からん。



「それで? 会いに行く約束はしたわけ?」

「まだ。詳しい日時は追って、こちらから連絡するって言ってる」

「ふ~ん……。まあでも、アレよね。こっちってか、アンタの身元が割れてるのは、厄介よね」

「まあな。でもそれ、お互い様だし。俺も、向こうの住所とか、もう知っちゃってるし」

「あ~、そっかそっか。アンタんとこのおばあさんの教え子だっけ」



 香月がなるほどと頷いた。

 まあ、そういうことだ。

 身元が割れているのは確かに厄介だけど、それは向こうも同じこと。

 ティファナだって、“山本 天華”の身分をそうやすやすと捨てられない……と思いたい。

 いや、何しろアイツ、今の年齢は10歳くらいだからな。

 あの年で、一人で生きていくのは、こっちの世界の方がある意味では難しい。

 しかも、ここは日本なのだから。



「問題は、こっちでも、いよいよドップリと聖導教団にハマりきっていたら……ってことだよなぁ」

「その辺はどうなの?」

「可能性のが高い」

「あ~……」



 香月がやっぱり、ウンザリした顔をする。

 そうなのだ。

 俺が、ティファナと話した時の感触。

 ティファナは、俺や、あるいは魔王ともまた違った形で、今を生きているような気がする。

 俺や、そして姉ちゃんや、あと香月もそうだと思うけれども、前世の自分よりも、今の自分の意識の方が圧倒的に強い。

 お前は誰かと問われれば、水嶋悟だとしか答えようがない。


 魔王は、俺や姉ちゃん以上に前世の記憶がハッキリしてるはず。

 というか、生まれた時からそもそも前世の記憶を持っていたのかもしれない。

 それでも、魔王は今、高城緋冴として生きている。生きようとしている。


 対して、ティファナだ。

 ティファナの記憶がいつ、蘇ったのかは知らない。

 ただ、ティファナは“山本 天華”としてではなく、“ティファナ”として生きようとしている……ように感じる。

 その上で、便宜上、“山本 天華”を装っているというか。

 それが俺には不思議というか、奇妙に感じる訳だ。



「何を考えているのだ、悟?」

「ん~? まあ、いろいろだよ」

「その“いろいろ”を教えてくれと言っているのではないか」

「まあ、もうちょっと、ちゃんと頭の中で整理できたらな」

「むぅ……っ」



 魔王が何か、不機嫌そうに俺を睨んでくる。

 それを俺は、「あぁ、はいはい」と華麗にスルー。

 ところが。



「……」

「いや、何で俺がお前にそんな、うさんくさそな目で見られなきゃいけないんだよ?」

「ぶぇっつにぃ?」



 とか言う割りに、香月の機嫌は急降下だよ。

 何なの、コレ? マジ、意味わかんないんすけど?



「いや、お前な? 言いたいことがあるんなら、ハッキリ言えよ」

「……私が言う筋合いじゃないんだけどさー」

「おう、何よ?」

「昨日、緋冴と何かあった?」

「「ッッッ!!??」」



 なっ、何なの、コイツの勘の良さ!?

 何で? 何かそんな勘付かれるようなとこあった?

 メッチャ、ビクッてなっちゃったよ!?


 てか、おい、コラ、魔王!

 顔が赤い赤い赤い! 赤すぎんだろ!

 しかも何かそんな、嬉し恥ずかしそうにしてたら!

 ホラ、見ろ! メッチャ何か誤解されてますやん!?

 香月の、香月の目線が超冷たい!

 何かそれが、ゴッツ、いたたたまれたくなくなくない!?


「へ~、ほ~、ふ~ん……? さっすが勇者様~、魔王もイチコロな訳だ~」

「いやいやいやいや、ちょっと待て! だからお前、絶対、誤解してんだろ!?」

「誤解じゃなかったら何だってのよ?」

「いや、だからそれは……っ」



 あれ? 何だ?

 何で俺、香月に“魔王から告白された”ってのを、言えずにいるんだ?

 何で?

 前世でそういう関係だったから?

 あれ? でもそれって何か、関係あんの?


 とか、混乱したのが失敗だった。

 魔王が赤い顔を伏せ気味にしたまま、チラリと香月を見上げるようにして……。



「う、うむ。私と悟は、そんな、やましいことなど何もして、いないぞ? ただ……ただ、私は昨日、初めて……初めて、悟に……」

「ッッッ!!??」

「そんな中途半端なとこで、台詞を切んなぁあああああっ!!!」



 俺は全力で魔王にツッコミを入れる。

 けれ、ども。



「……」

「………………香、香月、さん?」



 香月が無言のまま、ガタッと音を立てて立ち上がる。

 それがいわゆる能面のような顔で、超怖い。



「え、えっと……?」

「……」



 香月は無言のまま、俺を睨んで……そうして、教室を出て行った。

 その異様な様子に、さすがの魔王も首を傾げる。

 そして……。



「ッッッ!!??」



 窓の外の、晴れ渡った空。

 そこに突然、空を裂くような爆発音が轟いた。

 俺は、何となくその正体を察したが、それが分かるはずもないクラスの面々が騒然となる。



「なっ、何だぁっ!? 今の?」

「すっごい爆発だったよな?」



 原因に心当たりはあるけれども、さすがに教える訳にはいかない。

 俺は、何か言いたげな魔王に、肩をすくめるに留めた。


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