表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/74

第72話 第4の転生者、現る!


「……見損なったぞ、勇者アシュタル」



 雑踏の中、背後から投げかけられたその言葉。

 それに俺はつい、ビクッと身をすくめてしまった。

 もちろん、「しまった!」と思ったけれども、もう遅い。

 反応してしまった以上、言い逃れるのは難しい。

 俺は足を止めると、ゆっくりと息を吸って、吐いた。

 その俺に、容赦なく言葉が投げつけられてくる。



「まったく……貴様は何を考えているのだ? 勇者ともあろうものが、よりにもよって魔王と仲良くするだなど」

「あのな? どこの誰か知らんが……?」



 非難の言葉に、俺も覚悟を決めて振り返る。

 ただ、相手を差そうとした指は中途半端に止まって、言葉も途切れてしまっていた。



「…………………………誰?」

「なっ、何だと!? この私を忘れたと言うつもりかっ!?」

「まっ、待て待て待て! 今、思い出すから!」



 相手が一気に沸点を振りきり、俺は慌ててなだめすかす。

 ていうか、マジで、誰?

 超見覚えがないんだけど、こんなお子様。

 そう、子供なんだよ。

 年の頃は多分、10歳位? 小学校の高学年にもなってないくらいの感じ。

 顔立ちは、和風美人系で、見事なロングヘアだ。

 年齢の割には凛々しい眉に、意志の強そうな瞳。

 ただ、服装の方が顔立ちとイマイチ、あってないかもな。

 やけにフリフリの多い白いブラウスに、チェックのミニスカート&オーバーニー。

 いわゆる絶対領域も装備してある。

 全体的にスマートだから、似合ってるんだけれども、もうちょっと落ち着いた感じの方が合いそうだよな、うん。



「どうした? まさか、まだ思い出せんと言うのか?」

「あ~、いやいやいや、だから待てって」



 偉そう口調が、若干、何か魔王を彷彿とさせなくもないが……。

 その口調もやっぱり、歳相応って訳では全然ないよな。

 何かアンバランスだ。

 いや、まあ今はその辺は置いておいて。

 こんな子が前世にいたっけ……???

 いや、でもこの顔には何か見覚えが……。



「あ、思い出した!」

「おぉっ」

「ばあちゃんのやってる、書道教室に来てる子じゃん」

「違う! いや、それはそれで合っているが、私の求めている答えではない!」



 むぅ……正解なのに不正解らしいぞ?

 いや、でもマジで誰だ?

 明らかに前世関係なのは、分かっちゃいるけど……。

 さすがのアシュタルも、ここまでの子供には手を出してなかったぞ?

 ……もうちょっと大きくなって、かつ、胸があればOKだったけどな。

 何だ、アイツ、おっぱい星人じゃないか。

 ちなみに、この子の胸は、あるんだかないんだか分からないレベルだ。



「……貴様、どこを見ている?」

「いや、別にどこって訳じゃないけどさ」



 う~む、子供とはいえ、さすがは女。

 男の視線には敏感っぽいな。



「クッ……確かに、この姿では分かりにくいか。向こうでの私は、もっと大人だったしな」



 女の子が、何か悔しげに自分の胸を腕でかばうみたいにする。

 てことは、向こうでは巨乳さんだった訳か。

 う~~ん……?

 アシュタルが手を出した巨乳で、偉そう口調かぁ……。

 指が何本あっても、足りんじゃないか。

 クソっ、これが格差社会ってヤツか!?



「仕方あるまい、これ以上は時間の無駄だ。改めて名乗ろう、勇者アシュタル。私の名はティファナ。ティファナ・ローデンダム。かつて、貴様とくつわを並べた者だ」

「………………は? ティ、ファナ……? それってあの……『聖騎士』ティファナのことか?」

「うむ」

「はぁああああああ!?」



 何っっっだ、それ?

『聖騎士』ティファナ? これが?

 いや、例によって例のごとく、俺の知ってるティファナってのは、モロ、ヨーロッパ系ってか、パッキン美女なんだよ。

 しかも、バインバインのな!

 正しく、ブロンド美女! みたいなさ。

 それが、え? 何でこんな、大和撫子風味に……?

 しかも……。



「えぇいっ、だからそんな目で私の胸を見るなと言っている!」

「あ、ああ、すまんすまん」



 いや、まあそうだよな。

 向こうでのティファナは大人だったんだ。

 確か……27、だったっけな?

 だからまあ、ロゼッタには及ばないものの、普通に作った鎧ではサイズが合わないって、他の女騎士/戦士を苛つかせるくらいではあった。

 そのサイズを、多分に二次性徴前の子供に求めるのは、そりゃ非常識ってもんだよな。



「そっかぁ……お前がティファナかぁ。ふ~ん……」

「何か文句でもあるのか?」

「いやいや、全然?」



 いや、ていうか、うん。

 ばあちゃんの習字教室で、確かに見かけてるわ。

 帰りしなに、何かこっちを見てるこの子の姿を覚えてる……気がする。

 絶賛、スルーしてたけどな。

 お? 可愛い子じゃん、くらいには思ってたけど。

 そっかぁ……でも、ティファナだったんだ。なるほどなぁ……。



「んで? そのティファナさんが何の用……っ!?」

「どうした?」

「いやいやいやいや、ちょっと待て! お前っ、ひょっとして、こっちでも聖導教団の……!?」

「無論だ」

「ぐはっ!!」



 そう来たか!

 いや、そうなんだよな~~~~、うん。

『聖騎士』ティファナって、厳密には“旅の仲間”じゃないんだよ。

 だって、所属が聖導教団だったからさ。

 いや、何だかんだで同行することも多かったけどさ。

 もちろん、アシュタルが食っちゃった……っっっ!!??



「何なんだ、貴様はさっきから?」

「いやいやいや、すまんすまん、こっちの話だ、気にしないでくれ!」



 いやいやいやいやいや、うん、大丈夫!

 別に俺が、こんなロリっ娘をどうこうって訳じゃないしな!

 アシュタルが手を出したのも、相手が大人の時だったし!

 大丈夫だぞ~! 別にこれ、通報案件……???



「だっ、だから貴様はどうして私の胸ばかりを見る!? そんなに、私の胸が育っていないのがショックなのか!?」

「いやいやいや、そうじゃねーよ! てか、そんなこと大声で言うな、人聞きの悪い! 俺はただ、お前に聞きたいことがあるだけだってば」

「……何を聞きたいのだ?」



 ティファナが、警戒しいしい、俺に尋ねてくる。

 俺は、その質問をしようとして、はたと気が付いた。

 この質問も十分、通報案件なんじゃね? と。



「どうした? 聞きたいことがあるなら、早く言え」

「あ~、いや、うん……」



 しょうがない。

 本人が言えって言うんだから、いいよね?



「あの、さ……? 若干ちょっと、アレな質問なんだけどな?」

「何だ?」

「お前……ブラ、してる?」

「ッッッッッ!!?? しっ、仕方ないだろうっ、まだ成長前なのだから! は、母上も、まだまだキャミソールで十分だと言うしっ!」

「いやいやいや、スマン! 分かった! 分かったから!」



 涙目でキレるティファナを、必死になだめる。

 通行人の視線が、超痛い!

 ていうか、それも問題だけれども!



(マズい! はっきり言って、これはマズい!)



 何がマズいって、俺の開花した新・勇者能力が何一つ通用しないってことだ!

 ブラをしてない以上、ブラ外しはそもそも不可能!

 バストサイズ鑑定も、はっきり言って無意味!



(そして……っ!)



 DNTダイレクト・ニップル・タッチも、LOT(遠距離おっぱいタッチ)も、発動した瞬間、事案発生じゃん!

 そうなんだよ!

 姉ちゃんや魔王や香月なら、まあまだシャレで通じるんだよ!

 香月なんか余裕で雷撃かましてくるけど、まだ、セクハラレベルで止まるんだよ。


 でも、見ろ!

 相手は小学生女子だぞ?

 そんな女の子のおっぱいを触ったり、乳首をつついたりしたら、正真正銘の変態じゃないか!

 そのレッテルを張られることに、俺の心が耐えられない!



(恐るべし、聖導教団! まさか、こんな手で俺の新必殺技を封じてくるとは!)



 駅前で手相を見る、なんてベタな布教をしてるから、絶対、お馬鹿教団だと思っていたのに……。

 侮りがたしだな、まったく。



「ふん……しかし、生まれ変わっても相変わらず、女と見れば節操が無いのだな、アシュタル」

「いや、そういう意味で聞いたんじゃないからな? あと、アレだ。アシュタルって呼ぶのは止めてくれ」

「うん?」

「お前も、ばあちゃんとこに通ってんなら知ってるだろ? 俺には水嶋悟って名前があんの。だから、悟と呼んでくれ」

「……なるほど?」



 ティファナが、若干、何か怪訝そうな顔をするけれども、とりあえずは頷いてくれた。

 とすると、問題がまた出てくる訳だ。



「んで、お前は? 名前は何て呼べばいいんだ?」

「…………………………ティファナだ」

「いや、それ、前世の名前だろ? そういうので呼び合うと、下手に注目を集めかねないから、こっちの名前で呼ぼうって言ってんじゃんかよ」

「だから、ティファナだと言っている!」

「お、おう……?」



 ティファナが、ちょっと涙目で俺を睨んでくる。

 むぅ……さすがは聖導教団の聖騎士。

 そこまで前世の自分に思い入れがあるとはなぁ。

 コイツは、ちょっと厄介だ。

 とか、思っていたら。



「ティファナちゃ~~ん!」

「ッッッ!!」



 ロータリーの向こうで、女の人の声がした。

 ビクッと、大げさなくらいにティファナが身体を震わせる。

 声の方を見れば、まだまだ若い、それこそ年齢的には前世のティファナくらいの女の人が、多分にティファナに向けて手を振っている。

 何というか、ぽや~っとした印象の、のほほんとした女の人だ。

 肩まで伸びてる髪も、ふわっと軽くウェーブ入ってるし、着てる服も、何かゆるふわ系って感じだ。



「知り合いか?」

「ッ……母だ」

「母ぁ?」



 そりゃまた、ずいぶん若いお母さんだなぁ。

 いや、魔王のとこも、お母さん、亡くなってるけど若いんだったっけ。

 流行りか?


 とか思ってる間にも、そのティファナ母がこちらにやって来ていた。



「も~、ティファナちゃん。勝手にどっか行っちゃ駄目でしょう?」

「ご、ごめんなさい、ママ」

「ママぁっ!?」



 しおらしく謝るティファナの、その言葉遣いに、つい大声を上げてしまう。

 それで、ようやく俺の存在に気付いたように、ティファナママが俺の方を見上げてきた。



「あら、水嶋先生のところの。こんにちは、いつも先生にはお世話になっております。山本静流です。よろしくね?」

「あ、ああ、はい……。水嶋悟です。よろしく……」



 若いティファナママに、ニッコリ微笑みかけられて。

 顔立ちなんかは、今のティファナにやっぱりよく似ていて……。



「ティファナちゃんも、ちゃんとご挨拶した?」

「う、うん……」

「あらあら、駄目よ? ちゃんとご挨拶しないと。ね、ティファナちゃん?」

「は、はい……」



 な、何なんだろう、この違和感は……?

 ティファナのあまりの変わりっぷりと、そのティファナを“ティファナ”と呼ぶティファナママに対する強烈な違和感。

 ティファナママも、転生者……?

 だったら、ティファナのこの様はいったい……?

 俺が、そうやって何とも得体のしれない感覚に悶々としていると、当のティファナが、俺を見上げて「にこっ」なんて微笑んできた!?



「……や、山本ティファナです」

「ッ、ほ、ほう?」



 俺には引きつって見える笑顔が、何とも痛々しいが……。

 それはそれとして、驚いた。

 ティファナって、こっちでもその名前だったのかよ?

 あんまりハーフっぽい顔立ちじゃないっていうか、和風美人系なのに、ティファナが本名だったなんてなぁ。

 お母さんの遺伝子が強かったのか?



 と、思っていたら。



「ティファナっていうのは、天の華って書いて、ティファナって読むの。可愛いでしょ?」

「ぶふっ!?」

「や~んっ、ティファナちゃん、可愛い~~っ!!」



 ティファナママが、ティファナをギュッと抱きしめる。

 ティファナが、嬉しそうに笑っているが、その頬は確実に、さっきよりも強く引きつっている。

 それを、可哀想と思えばいいのか、微笑ましいと思えばいいのか、それは俺には分からない。

 それよりも、もっと分からないことが俺にはある。



 天の華と書いて、ティファナ……。

“山本 天華”で、“やまもと てぃふぁな”……・

 どう読んだら、そうなるんだろう……?

“てんか”じゃ駄目だったのか……?

 まったくもって、不明過ぎる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ