第69話 告白とは、男と女の、ガチの殴り合いである。
「……私は、お前のことが好きだ、悟」
言われて、言われてしまったぁあああああああ……ッッッ!!!
ついに! ついにここで魔王からの告白ですよ!?
正真正銘、もうどれだけ足掻いても誤魔化しようのない告白です!!!
いかがですか!? 解説の谷山さん!!??
そうですね!
これを回避するには、伝説の「え? 何だって?」を使うしかないと思います!
魔王選手のセリフが「キスしていい?」ではないので、「キムチ?」と誤魔化すのは使えませんからね!!
なるほど!
ですが、果たしてっ、果たしてそれが魔王に通用するのか? というところだと思うのですが!?
そこは残念ながら、未知数だと言わざるをえません!
ですが!
ですがここはやはり、悟選手の頑張りに期待したいですね!!
さ~~っ、どうする悟!?
ここから伝説の「え? 何だって?」に持っていけるのか~~~~~!!??
「ッッッ……」
乾いた喉に、無理やり飲んだ、唾が……痛い……ッ。
何か……何かもう、心臓が壊れッ……!?
魔王が……魔王が何かメッチャ泣きそう、だし……!
クソッ! クソッ! クソッッ!!
泣きたいのはっ……泣きたいのはこっちだってぇの!!
えぇいっ、情けは禁物だ!!
言え! 言うんだ、俺っ!!
「え? 何だって?」と言ってしまえっ!!
そうすれば、見ろ!
さすがの魔王だって、もう一度、告白し直しはしねーって!
今でさえ、泣きそうなんだからな!!
言えぇええっ!! 言うんだっ、ジョーーーーーーッッッ!!
「ッ……ェ……ェ……ッ、ェナン……ッ、だって?」
「……エナン?」
ぁああああぁッッとぉっ! 滑ったぁあっ!?
ここで信じられないアクシデントが発生っっ!!
これはあまりにっ、あまりに痛恨なミスっっっ!!
「え? 何だって?」と切るべきところを、「エナン、だって?」とおかしなところで切ってしまったぁっ!
これではまったくもって、意味が通じていないぃいいっ!!
惜しいですね~~~!
この状況で口に出せた度胸は買うのですが、その後がいけません!!
これではいっそ、言わない方がマシだったかもしれませんよ!?
さ~~~~ッ、どうする悟!?
ここから挽回できるのか~~~~っっ!?
(クッソ、コイツら! 好き放題言いやがって!!)
俺は、自分の脳内アナと脳内解説者を罵った。
コイツら、囃し立てるだけで、まったくもって役に立ちゃしねぇ。
そんなふうに煽られたら、余計に焦るだけだろうが!
お前らも、俺の脳内ボイスなら、もっとマシなアドバイスをしやがれってんだ!
「……悟……ッ」
「お、おうッ!?」
「ッ……わ、私は…………私は、今すぐ答えが欲しい……とは、言わん」
「……え?」
あぁああっとっ! 今のは極々自然な「え?」だぁ!
どうしてこれが、さっき出なかったのかぁっ!?
いや~、残念ですね!
これが! これがさっき出ていていればッ、流れは変わったかもしれませんよ!?
(お前ら、いい加減うっせーよ! クッソ、ホントにもう!!)
俺は半泣きになりながら脳内ボイスを追い出して、魔王に向き直る。
魔王は……。
魔王はちょっと、泣きそうな……笑顔を、浮かべていた。
「ッッッ……!」
マズい!!
てか、駄目だ!!! やっぱり駄目! なしっっ!!
魔王といえども女の子!!
それを泣かせてイイはずがないっ!!
だったら、「え? 何だって?」なんて論外だろうが!!
あぁっ、クソ!
かといって、魔王の告白にOKするのもッッッ……!!!!
「ふふふ……まったく……ッ、安心しろと、言っている、だろう?」
「う、うん……?」
「私は……私は単に、お前に気持ちを伝えておきたかった、だけだ……ッ。奏への対抗……だな、うむ」
「う、ッ、お、おう……ッ?」
い、いや……それでどこに安心要素が?
結局、俺は土壇場瀬戸際崖っぷちなままじゃん??
「だ、だから……ッ! 私はお前の答えを今、欲してはいない……! むしろッ……むしろ……ッッッ……」
ひぃいっ!?
魔王がまた余計に泣きそうに!?
いや、これはアレだな! さすがに俺でも分かるぞ!
Noと言われるのが怖いんだ! そうだろ!?
「ッ……い、いや、そのッ……えっと……じゃ、じゃあ何……で?」
「そ、それは今……奏への対抗だと、言った……ではないか……ッ」
「お……ッ? あ、あぁ……な、なるほど……ッ」
た、対抗……対抗、ねぇ?
何か意味あるのか、それ……?
「わ、私が今、ここでこうして告白していなければ……お前はきっと、奏に流されてしまう、はずだ……! 何しろ、一つ屋根の下に、暮らしているのだからなっ!」
「ぅッッ……お、おう……?」
それは……それは若干、否定できない……。
アレだけあからさまに好意を向けられて、拒絶できる男なんて……!
「だから……そうだな、ッ、対抗というより……釘を差した、と言うべきか?」
「ッ……な、なるほど……」
言われて妙に、納得というか、何というか……。
そりゃまあ……魔王にこう言われている、以上って、言うか……ッ……。
でも……。
(魔王は……俺のことが、好き……ッ)
ッッッッッ!!!???
何っっっっじゃそらぁああああっっ!!??
いやいやいやいやいやっ、ねえっ!?
そうやないかな~って、そら思うてましたよ!?
思うてましたけど!!
実際に言われたら、そらまた全然別の話ですやん!?
どないすんのん、これ!? ホンマにこれ、どないすんのん!?
「ッ……さ、悟……」
「ッッッ……お、ぉおおっ、おう!?」
「実は、な……? ここで告白……したのは、ッ……他にももう一つ、理由が……あるのだ……」
「理、ッ……理由……?」
「ッ……ッッ……ッ…………な、名前……ッ」
「え? 何だって?」
「名前……! 名前を呼んで、欲しいのだ……っ!!」
「………………へ?」
名前?
名前を呼んでって言った? この人?
魔王の名前……ルグン=イブシーナだったっけ? 前世では。
「お、お前は! お前は自分で気付いていないのかも、しれないがな、悟! お前は今まで一度たりとも、私の名前を呼んでくれていないのだぞ!!」
「え……? い、いや、そんなことは……」
「あるのだっ!!」
魔王が、泣きそうな怒り顔で、俺を睨んで……。
マジか?
いや、名前くらい、普通に呼んでると思うんだけど……?
「お前はっ……お前はいつも、私のことを、“おい”とか、“お前”とか、そんなふうに、ばっかり……!」
「ッ……マ、マジで……?」
「大マジだっ!!」
……………………マジで?
おっかしいな~~~? ホントにホントか?
“おい”とか“お前”とかしか呼ばないって、何だよ、その倦怠期の夫婦みたいな会話は?
いや、確かに!
確かに“魔王”って呼びかけたら変だろうってのがあったから、そうは呼ばないように気を付けてた、けど……ッ?
(あっるぇ~~~~~!? てことは俺、マジで魔王のこと、名前で呼んでない!?)
ていうか、今の心の声だってそうだよ!?
魔王のこと、“魔王”って言ってるよ!?
香月とかなら、普通に“香月”って言ってるのに!
何で? 不思議!
「多くは望まん……ただっ……ただ名前を呼んで欲しい……! その願いを叶えては、くれないか……悟?」
魔王が……思いつめたような瞳で、俺を見つめて……。
俺は……俺は……。