表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/74

第68話 俺のギャグセンスが今、最高に問われている!


「あ~……今日は結局、何だったんだろうなぁ……?」

「何だったも何も、基本的にはお前の“聖導教団対策”だったではないか」

「いや、まあそうなんだけどさ……」



 ポテポテと、夕暮れの土手を魔王と歩く。

 何でそんなことをしてるかというと、魔王を家まで送るためだ。

 いや、ウチから魔王の家に行くには、やっぱり駅前を通るのが最短なんだよな。

 ただ、そこには聖導教団が出てくる可能性がある。

 

 そんな訳で。

 それ以外のルートで魔王を案内中なのですよ。

 その途中で、朝の待ち合わせ場所も決めておこうというような。

 そう。それはそういう流れに落ち着いている。

 そうすると必然的に、川沿いの道というか、いっそ土手に上がる方が手っ取り早かったりもする。



(ただ、今の季節はいいけど、冬は寒いんだよなぁ……そん時はまた、道を変える………………ッ!?)



 待て待て待て待て、ちょーっと待て!?

 何で俺、まだ夏になる前なのに、冬の話をしてんの!?

 俺、そんな先まで魔王と付き合い続けるつもりなの!?



「どうした、悟?」

「あ、ああ、いや? 何でも?」

「そうか」



 魔王はそれだけ言うと、また、俺の隣を黙ってついて歩く。

 俺はそっと溜息を零すと……隣の魔王を盗み見た。



(何て言うかなぁ……)



 月並みな表現しかできないけど、魔王はやっぱり、美人だ。

 何がどう美人かっていうのは言い難いけど……全体のバランスの問題なのかなぁ?

 口を開かないで立っているだけなら、年の割りに、すごい落ち着いた雰囲気もあるし……。



(いや、まあコイツの実年齢は、たいがいなんだけどさ?)


 ……待てよ?

 魔王ってホントは、何歳なんだろう?

 いや、“前世”の頃からカウントするとして、だけど。

 あの頃から、実はけっこうな年なんだったっけ? 外見はともかくとして。



(その割りに、けっこう残念魔王だよな、コイツ)



 口を開くとボロが出るというか……。

 まあ、それもコイツの魅力……ッッ!?



(いやいやいやいや! 待て待て待て待て! だから俺、さっきから何を考えてんの!?)



 何でこう、魔王のことを魅力的とかそういう方向に話を持っていく訳?

 確かに! 確かに魔王は美少女ですよ?

 だけど、だからって、それをイチイチ確認しなくてもいいじゃん!

 何をしたいの、俺!?



「って、あれ……? おい、どうかしたか?」



 気が付くと、隣に魔王がいなかった。

 振り返ると、3mほど後ろに突っ立っている。

 その魔王が……俺の顔を、見つめていた。



「ッ、な、な、何だよ……?」



 ヤ、ヤバいっ!?

 何だこれっ!?

 何で俺、魔王に見つめられてるだけで、ドキドキしてんの?

 魔王の顔が、何かメッチャ真剣だから?

 なのに何か、泣きそうだから?

 何だ? 何なんだ、コレ?



(ていうか! 待てっ! 待て待て待て待て待てっ! この流れは何かマズい!! 俺のセンサーが、何か非常に危険がデンジャーだと告げてるぞ!?)



 何がどう危険なのかはわかんないけど!

 とにかくこの空気はマズい!

 早く適当におちゃらけたこと言わないと!!

 今! 今この場に最適な言葉!!

 それは……ッッッ!!!



「………………ガチョーン」

「ふ……」



 くふぅうッ……!

 魔王が、魔王が笑ったけれども、この反応は違う!

 何かこう、微笑ましいってか、慈しむってか、そんな感じに笑われてるし!

 違うんだよ、俺が欲しかったのは!

 これじゃあ、むしろ、何かそういう雰囲気が強化されてんじゃん!

 俺はむしろ、そこをグシャッとしたかったのに!



(この俺としたことが、ギャグの選択を間違ったか……! やはり……やはりここは、“レッドスネーク・カモン”で行くべきだったか……!?)



 今からでも挽回可能かと、俺の脳みそがフル回転をする。

 だが、その時……!



「悟……」

「ッ、お、おう……?」

「私はお前の……そういうところも、好きだぞ?」

「ッッッ……お、おぉう、まあその……あ、ありがとよ」

「ふふふ……」



 アカン!

 メッチャ緊張しまくってる!

 いやいやいや、今のん別に、そういう意味やないいうんは分かってますよ!?

 分かってますけど!

 それでも女の子に“好き”言われたら、ドキドキしてまいますやん!

 だって僕、今までそんなん、経験あらへんねんし!!



(ああッ、クソッ! 俺のくせに悲しいことを大声で言ってくれやがって!)



 しゃあないやん、せやかて魔王はメッチャ美少女なんやで?

 普通やったら、一緒に歩いてるだけでもドキドキもんやん!

 その子に“好き”言われてんねんやで!

 だいたい、自分かてホンマはとっくに分かってるんやろ?

 この流れが、ここで終わりやないいうことくらいは!



(ぅああああぁあっ! 馬鹿馬鹿馬鹿っ! 俺の馬鹿っ! それには気付いちゃいけないのにぃいいっ!)



 このままでは!

 このままでは、何かそういう流れが確定してしまう!

 それは何かこう、ね!?

 あるじゃん! いろいろ!!

 早く! 早くこの流れを断ち切れ、俺!!

 そのためには何を言うべきか、慎重に! かつ大胆に!

 そして最速で答えを出すんだ! 俺!!



(やはり“レッドスネーク・カモン”が最善か?)

(いやッ、ここは“コマネチ!”も捨てがたい!)

(“コマネチ!”がありなら、“アホちゃいまんねんパーでんねん”はどうだ!?)

(いやっ、それは長すぎるだろう! やはりココは、キレの良さを重視すべきだ!)

(ていうか、古い! 古すぎる! もっと新しいのはないのか!)

(“欧米か!?”とかっ?)

(それも微妙に古い! あと、もっと一世を風靡したのが欲しい!)

(“今でしょ!”)

(惜しい! 割りに新しくてキレもあるけど、ギャグじゃあない! 残念!)

(あっ、それだ! 今の“残念!”とか、あとあれ! “そんなの関係ねぇ!”とか!)

(アホかお前は! “そんなの関係ねぇ!”とか、この流れでギャグとして通用するわけねーだろ!?)

(早くしろ!! 間に合わなくなってもしらんぞ!!)

(待て! まだ慌てるような時間じゃない!!)



「……悟……」

「ッ……お、おう……!?」



 魔王に、名前を、呼ばれて……。

 内に向けていた意識を、止めて……改めて、魔王を見て……。

 そうして、俺は……息を、呑んだ。



(マ、ズい……ッ。何か魔王、メッチャ……美人だ……)


 夕陽の作る、陰影が……絶妙、過ぎて……。

 俺を見つめる魔王は……微笑んでるんだ、けど……。

 それが何か……何か……!



「悟……考えてみれば、今までキチンと言っていなかったから……改めて、お前に言おうと思う」



 頼むっ!!

 チョット待ってくれっ!!

 それはちょっと待ってくれっ!!

 心の準備もだし! それ以外にもいろいろあるしっ!!



「……私は、お前のことが好きだ、悟」

「ッッッッッ!!!???」



 一瞬で、頭ん中、真っ白に……。

 頭の中だけじゃ、なくて……世界が……。

 魔王以外、見えない、みたいな……。

 上下も、左右もわからない、ような……。

 ただ……ただ、俺を見つめて、微笑む魔王、だけが……。



「も、もちろん……もちろん、それは人間として、という意味でもある……。意味でもある、が……」

「……」

「わ、私は……私はお前のことが好きだ、悟。一人の女である、私が……一人の男である、お前のことを……」

「………………」



 夕暮れのはずなのに……俺の視界はだから、真っ白で……。

 そんな白い世界の中で……魔王の頬だけが、妙に赤く映えていた……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ