第60話 脇道にそれないと、本題を進めらんないんですかねぇ?
「悟くんを勇者にする?」
「うむ、そのとおり」
発案は香月だったが、魔王が偉そうに頷いた。
姉ちゃんは、ちょっと首を傾げて考えこむみたいにする。
「いや、適当な思い付きじゃないんだ……ですよ?」
「あ、いいよいいよ、敬語なんて使わなくって。前の時だって、そうだったでしょ?」
「あ~、う~…………すみません、じゃあ」
香月はそう断ってから、姉ちゃんに、俺に話すのと同じような感じで説明を始めた。
基本は、聖導教団のことだったりもしたけれども。
「あ~……いるんだ、聖導教団。私はまだ、見たことないなぁ」
「いるんだよね~」
姉ちゃんも香月も、うんざりした様子を隠さない。
まあ、それ以外のどんな反応があるってんだってレベルなんだけれども。
「それに、水嶋も言ってたけど、水嶋の逆で、記憶じゃなくて能力だけ受け継いだ転生者とか、ちょっと何か厄介そうでしょ?」
「……そうだねぇ……」
香月の言葉に、姉ちゃんが腕組みをして考えこむ。
もちろん、乳の下から腕を入れて、よっこいしょと持ち上げるように、だ。
結果として、たぷん……と乳が揺れる。
「……ッ」
魔王の視線が、険しさを増す。
その一方で。
(奏さんって、メッチャ乳デカいよね! マジ半端ないってレベルだし。神は実在するね、コレ)
(……お前はそっち派なんだ)
(そっちって?)
(何でもねーよ)
香月は既に勝負を諦めているのか、羨望の眼差しだ。
(てかさ、すっごい柔らかかったんですけど? 何あれ? 反則じゃん! 実はさっき、ちょっと自分のと触り比べてみたんだけど、泣きそうになったわよ!)
(……アホかお前は?)
(いや~、しかし乳がデカい上に可愛くて、聖女の転生って。奏さんこそ、チートキャラなんじゃないの? しかも明らかに、転生前より乳がデカくなってるし!)
(悪かったな! 記憶しか持ってないエセチートで!)
俺は、歯を剥いて香月を威嚇する。
ところが。
(ッッ!? お、おまっ、どこ見てんだよ、変態! セクハラだっ、セクハラ!)
(いっ、いやっ、違うって! 私はそんな別に!)
コイツっ、マジ変態だ!
人の股間をガン見する勢いだったぞ、今!?
「お前たち、何をコソコソ騒いでいるのだ、まったく?」
「えっ? い、いやっ、そんな、別に何も?」
「そ、そうそうそうそう、何でもないから。ごめんごめん、あははははー」
さすがにツッコミを入れてきた魔王に、俺と香月は全力で誤魔化しにかかる。
しかし!
「あ、悟くんのオチ○チンは、ちゃんともう、アシュタル・レベルだと思うよ?」
「「「ぶふぅっ!!??」」」
いきなり何言い出すんだよっ、姉ちゃんは!?
思いっきり、三人シンクロして吹き出したよ!?
「あ、でも私、アシュタルの戦闘モードは、ちゃんと見たことないんだよねぇ。実際、どんくらいなのかな、千里ちゃん?」
「えッ? あっ、いやっ、それはっ、その……ッ」
「セクハラセクハラセクハラぁああっ! セクハラ過ぎんよ、姉ちゃんッ! イーリスはともかく、香月は処女なんだぞ! もっと手加減してやれよ!」
「何いきなり暴露ってんのよっ、馬鹿ぁっ!!」
「おぐふぅっ……ッ!!??」
じっ、腎臓に……ッッ。
腎臓にツッコミって言うより、貫手が……ッッ。
「……悟よ」
「ぅぅっ……な、何、ッ、だよ……?」
「ッ……お、お前は、あの女に……いわゆるその、戦闘モードを見せつけた……のか?」
「ツッコミどころはソコかよっっっ!?」
涙目の魔王に思いっきりツッコんで。
その動きのせいで腎臓の痛みが倍加して、俺はマジで涙を流していた。
しばらくお待ちください。
「あ~……もう。訳のわからん阿鼻叫喚を見たよ、まったく……」
「あははは、災難だったね、悟くん」
「姉ちゃんのせいじゃん!?」
「え~? でも、元はといえば千里ちゃんが、悟くんの股間を見てたからだよ?」
「ぅぐっ……す、すみません……」
……姉ちゃん、何か香月に容赦なくね?
魔王がいるから、気が立ってんのかなぁ……?
「そ、それ、で……」
「うん? 何だよ?」
クイクイと、横から魔王に袖を引かれる。
魔王はチラと俺を見上げてから……姉ちゃんに視線を向けた。
「ッ……さ、悟の戦闘態勢は……そんなにスゴい……のか?」
「その話はもう終わったんだよ!!??」
「や、けっこうなモノだと思うよ? 私もそんな、他の男の子のと見比べたことがある訳じゃないけどね?」
「はいっ、ソコ! イチイチ答えない!」
「って、アンタ達、従姉弟同士でしょ……? そ、それでどうして、そんな……!?」
「お前もイチイチっ、食いついてくんなぁっ!」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと語弊があるよね? 見た訳じゃなくて、触った……みたいな?」
「だから答えんなっつってんだよぉおおおおおおおおお!!!!」
しばらくお待ちください。
「ほんっと、もうマジ勘弁して? 全然話、進まないじゃん」
「ごめんごめん。えっと……そもそも、何の話だったっけ?」
「あのねぇ……? 俺を勇者にするとかいう話だよ!」
「あ~、そっかそっかそっか。そうだったね、うん」
「うむ、言われてみれば、確かに」
「ごめん、ちょっとマジ忘れてた」
「……お前らなぁ……」
この三人って……実は相性バッチリなんじゃねーの?
いや、でも混ぜるな危険なのは変わりはないよな。
一緒にしておくと、俺の精神的負担がハンパねーよ……。
何となく、アレだ。
三人姉妹に挟まれた男は、超気の毒って話を思い出したよ……。
この三人、絶対、変な時に限って共闘すると思うんだ、うん……。
「え~っと。じゃあ、その本題なんだけど。悟くん自身はどうなの? 勇者になりたいの?」
「え? ああ……なりたいっていうか、その力を取り戻せるなら、それに越したことはない……かもしんない」
「まあ確かに、さっき聞いてた話ならそうかもねぇ」
姉ちゃんが、今度は腕組みの代わりに、テーブルに肩肘をついて、そこから乳を乗っけて頷いた。
何と言うか……見慣れている俺にとってすら、その光景は圧巻だ。
いわんや、他の二人にしてみれば。
「でもさぁ……私、それってちょ~っと、難しいんじゃないかなぁって思うんだよね」
「……何だと?」
気の毒そうに、残念そうに言う姉ちゃんに、魔王がギロリと瞳を光らせる。
「修行する場所や相手は、私が用意するので、問題などないぞ」
「あ、いやいや、そういうんじゃなくってさ」
「では、何だと言うのだ?」
不機嫌そうな魔王に臆することなく、姉ちゃんは答えた。
「悟くん、魔力とかを感知、できてないでしょ?」
「あ……」
「「え?」」
姉ちゃんのその一言に、魔王と香月が驚きの声をハモらせていた。