第06話 魔王が転校してきた、その真の理由とは……!?
「なっ、何がおかしいんだよっ!?」
「ははははは、いや、すまん。確かに、お前の言いたいところも理解できる。なるほどなるほど。ふっ、はははははっ」
「ッ……!」
魔王はそう言いながらも、まだしつこく笑っている。
それが何か、けっこうイラッとくる。
「ははは、分かった分かった。お前の誤解を解いてやるから、そう怖い顔をするな」
「いや、俺は別に怖い顔なんて……ッ。ていうか、誤解……って……?」
「うむ。確かに私は、魔王の生まれ変わりだ。その記憶も能力も、そのまま受け継いでいる」
「ッ……」
アッサリと告白されたその事実に、俺は思わず後ずさる。
そんな俺に、魔王は苦笑気味に笑って話を続ける。
「だが、安心しろ。今の私は別に、この世界を滅亡させてやろうだとか、そういう意図はまったくないぞ?」
「へっ……?」
魔王の言葉に、思わずマヌケな声を漏らしてしまう。
世界を滅亡、させない?
魔王なのに?
「……何、で……?」
「何でも何も……」
「ッ……」
魔王が、俺の後ずさった距離を埋めてくる。
思わずまた、後ずさろうとするが、魔王の瞳が俺の動きを封じてしまう。
グビリ……と、恐怖に喉が鳴る。
そんな俺を、目の前に来た魔王が、その身体をちょっと前かがみチックにさせて、下から俺を見上げるみたいに、してきて……ッ。
「確かに私は魔王の生まれ変わりだが、今は普通の女子高生だ。どこの世界の女子高生が、世界を滅亡に導くというんだ?」
「ぅっ、お、おう……ッ?」
その言葉の内容も、だけれど……ッ
その微妙な距離の接近というかっ、何かッ、何かッ!?
(何かコイツッ、良い匂いしてるっ!!??)
そんな男子高校生の本能が、魔王への恐怖を凌駕するッ!
ていうかだからっ、何かこう、前かがみになられると、制服の胸元に隙間ができたりっていうか……ッ!!
白いッ! 肌が白いぞッ!?
しかも何か、微妙なカーブ的な何かが覗くッ……ッ!?
「い、いや、ッ、うんっ、分かったッ……分かった、からっ……!」
「うむ。ならば良い」
魔王は、またらしからぬ「にこっ」という女の子笑いをして、俺から少し身体を離す。
そうして俺は、ホッと息を吐いたけど……。
べっ別にッ!
別に俺がヒヨッたとか、ヘタれたとかじゃないからッ!
魔王にそんな距離詰められたら、命の危険なだけだしッ!
そうっ、だからコイツは魔王なんだからッ!
(……あれ? でも……)
でも、コイツ今、世界滅亡とか考えてないって、言ったよな……?
魔王、なのに?
……今度は、滅亡じゃなくて征服するつもりだ、とか……?
(制服を着てるだけにな!)
すまん、俺が悪かった。
いや、うん、分かってるって。
ここはちゃんと、聞いとかないとな。
「え~っと……あの、な?」
「うむ、何だ?」
「お前はだから……魔王、なん……だよな?」
「そうだ」
「……なのに……世界を滅亡も、征服も、しない……?」
「うむ」
魔王が、当然だと頷いた。
俺も、とりあえずそれに頷き、返して……。
そうしながら、俺の心臓はドッキンドッキン、大きく鳴りまくっていた。
そう、ここからだ。
ここから、核心に迫らなくてはいけない。
それをハッキリさせないと、俺はちっとも安心できない。
だから……ッ。
だから、俺はその質問を魔王に……投げたッ。
「あの、さ……?」
「何だ?」
「俺は……勇者……なん、だよな……?」
「うむ、間違いないぞ」
「ッ……」
もう一度、シッカリと保証されて、俺は何とも言えない気持ちになっていた。
喜んでいいのか、それとも……みたいな。
まあ、その気持ちは今は、とりあえず置いておこう。
問題は、だからこの次、なのだから。
「……お前は、魔王で、俺は……勇者。それは、いい。理解できている」
「うむ。では、何が問題なのだ?」
「お前がここに来た、その理由だ」
「うん?」
「何で……何で、お前は、本来“天敵”であるはずの、勇者である俺のいるこの学校に来たんだよ? わざわざ、転校までして……ッ?」
俺は、魔王を見つめながらも……いつでも逃げ出せるよう、体重を後ろにかけて、そう、聞いた。
いや、そこ、情けないとか言わない。
お前と戦うためだ、とか言われたら、逃げる以外に何ができるっていうんだよ?
だから……。
だから、そうやって俺が、スタート前の100m走選手並みに緊張しながら、魔王の答えを待って、いたら……ッ。
「なるほど。確かに、それは気になるところだろうな」
魔王はそう言って、ニヤッと、少し意地悪そうに、笑った。
俺の心臓は、今にも張り裂けそうなほど、緊張が極地に達する……ッ!
そう、して……ッ!!!
「だが、安心しろ。ここに来たのは単なる偶然だ。私は、お前に会うまで、この学校にお前がいるとは知らなかった」
「ッ……」
魔王はそう言って、意地悪くない、普通の笑い方に、なる。
それでも俺は緊張を解かずに、魔王を睨むみたいに、して……ッ。
頬を流れた汗が、アゴから……落ちて……ッ。
そんな俺に、魔王が今度は苦笑、して……。
「安心しろと言っているだろう? ここに来たのは、本当に偶然だ。父の仕事の都合でな」
「…………………………は?」
「私の父は最近、こちらの再開発に関わるようになってな。それで、今まで住んでいたところと行ったり来たりが多くなった訳だ」
「………………」
「それでまあ、父も不便だろうということで、私が一緒に引っ越すことにした、という訳だな」
魔王はそう言って、ちょっと肩をすくめるみたいに、した。
その答えに、俺は……。
俺のアゴは、本当に……カクンと落ちていた。