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第55話 争いは、同じレベルの者同士の間でしか生まれない。


「やっ、こんちこれまた、いいお日和で……」

「…………」

「や、あの………………何で、そんな怒ってんの?」

「……悟は……」

「う、うん?」

「悟は本当に、委員長と恋仲ではないのだな?」

「「はぁああああっ!!??」」



 またも、俺と香月の声がハモった。



(何、コイツ? 何で魔王、そんな誤解してんの? お前、ひょっとして俺の知らないうちに、俺に惚れてたの? それを魔王が、魔王センサーでキャッチしてんの?)

(よーし、分かった、クズ嶋! 自殺したいってんなら、前世のよしみで協力してやろーじゃないの! 今すぐそっから飛び降りるか、私の雷撃に焼き尽くされるか、好きな方を選ばせてあげるわ!)



「……ッッ……!」



(アホッ! バカッ! アンポンタンッ! だからお前は魔王の不機嫌度数を上げんじゃねーよ!?)

(上げてんのはアンタでしょっ! サッサと自分の心臓を生贄に捧げて、ご機嫌取れっつってんのっ!)

(最悪だ!?)



 もはや援軍を頼むべくもなく……。

 孤軍となった俺は、一人、果敢に魔王に立ち向かう。



「いや、あの……な? ホント、マジで、どっからそんなネタを拾ってくんの、お前? 俺と香月の間に、そういう空気、ちょっとでもあったか?」

「……するほど……」

「うん?」

「ケンカ、するほど……仲が良いと、言うではないか」

「ッ、お、おう……?」



 魔王が、怒っているというより、何か恨みがましい目で、俺を見つめてくる。

 俺はでも、その意味をとっさに察することができなくて……。

 そしてまた、つい香月の方を振り返れば……。



「ッッッ!!??」



 何故か魔王オーラが一気に膨れ上がり、慣れたと思っていた俺でさえ、心臓が縮み上がる。

 香月は薄情なことに、一瞬で屋上の端まで逃げていた。



「い、いや……いやいやいや、落ち着け! 俺と香月はだから、特に親しくもないクラスメートだ! それ以上でも以下でもない!」

「……その割りには、先程から、妙に息が合っているではないか」

「そ、ッ、そりゃお前、前世のクセ……みたいな?」

「それは、前世で恋仲だったからか?」

「ッッッッッ!!??」



 前世云々は抜きにしても、香月も俺と同じリアル・ムンクになっているのが、見なくてもわかる。

 ていうかも~っ、何なの、コイツ!?

 何でいちいち、ソコにこだわんの!?

 てか、アレか!?

 マジでコイツは、俺のことを好きなのか!?

 それで俺が、香月と仲良く見えて妬いてんのか!?

 マジで!?



(アカン! メッチャ緊張してきた!)



 クッソ、これが女の可愛い嫉妬ってヤツか!?

 俺にも春が来たっちゅうことか!?

 まあでも、普通の女の子は、嫉妬したから言うて、リアルにオーラは出さへんけどな!!



(と、とにかく……! とにかく、魔王の不機嫌な理由がどうであれ、今は魔王をなだめないと……!)



「い、いや、まあ……アレだ。前世がどうこうってのは、抜きにしようぜ? 今はホントに、普通にただのクラスメート、だしさ」

「……」

「だいたい、前世の関係って言い出したら、俺とお前は、仲良くしてちゃ駄目だろ? な?」

「ッ……そ、それは確かに、そうだな……うむ」

「だろ~? な? だから、前世云々を持ち出すのは、あんま良くないぞ、うん」

「そう……だな。すまない、悪かった」



 いょうっし! さすが俺!!

 非の打ち所ない完璧な理論で、完全に魔王を納得させたぜ!


 何か後ろで香月が「あ~、何かホントに、メッチャ、アシュタルっぽい」とか言ってるけど、気にしない!

 いや、うん。

 アシュタルも、割りに、だから腕も立つけど口も立つヤツだったからな!

 その経験が活きているとしたら、ちょっとだけアシュタルに感謝だ!



(てかっ、アイツがイーリスに手を出してなかったら、こんな修羅場になってないけどな!)



 そんなふうに、ちゃんと自分にもツッコミを入れて。

 とりあえず、魔王の機嫌が治ったのでホッとしていたら……。



「悟よ」

「ほい」

「私はでも、悟と委員長とのやり取りが、少し羨ましかったのだ」

「は? 何で? どこが?」

「お前たちは一見、悪口を言い合っていた。だがそれは、相手に対する信頼があってこそだった」

「え……え~~~~~?」



 信頼……信頼ぃ?

 いや~……信頼するほど俺、香月のことはよく知んねーんだけど……。

 いや、もちろん、イーリスのことは知ってるよ?

 だからつい、そういう感じで相手してたのはあるんだけれど……。


 俺は、なるべく魔王から目を離さないようにしながら、頑張って、香月の方にも視線を向けた。

 香月は一瞬ビクッとなってから、プイッと顔を背けてしまう。

 こっちに火の粉を飛ばすな、ということのようだ。

 これが、俺を信頼している態度だろうか?



「悟」

「お、おう?」

「私とお前は、前世からの旧知の仲だ」

「そ、そうだな?」

「そして今も……高城緋冴と水嶋悟として知り合ったのは、まだほんの一週間だが、仲良くなれたと私は思っている」

「お、おう」

「違うのか?」

「いやいやいやいやいやっ、うん、俺もそう思ってるぞ!」

「そうか」



 魔王が、ホッとしたように微笑む。

 その笑顔が何か……何かもうッッ……ッ!!



「ということで、悟」

「ッ、お、おう?」

「私も悟と、さっき、悟が委員長とやっていたような会話をしてみたい」

「……は?」

「何でもいい。悪口っぽく、私に言ってみてくれ」

「はぁああああっ!!??」



 無理無理無理無理っ、超絶無理ッ!

 そんなコト言って、マジ怒ったらどうすんのさッ!?

 アホなの、この子? アホの子なの?



(ていうのを言えたらイイんだろうけどッ! だからそれは無茶ぶり過ぎんだろうがぁああッ!!!)



 どこのアホが、わざわざライオンの尻尾を全力で踏み抜きに行くんだよ!?

 しかもスパイク履いて!

 俺はそんなっ、自殺志願者じゃねーっての!

 魔王の機嫌よりっ、自分の命の方が大事だわ!!



「どうした? 何でもいいぞ?」

「ッ、い、い、ッ、いや、その……ッ」



 マズい!

 魔王が何か、メッチャ期待している!

 このまま手をこまねいていたら、魔王が機嫌を悪くするのは必至!

 そして魔王の不機嫌は、俺の命に関わることを今、思い出した!

 我が身が可愛ければ、魔王の機嫌を取るのだ、悟!

 頑張れ、悟!! 負けるな、悟!!

 ココはガツンと、魔王に言ってやれ!!!



「ッ……あ、ッッ…………アホなこと言ってんじゃねーよ。ほら、もういい加減、教室に戻るぞ」

「……うむっ、そうだなっ!」



 いよぅっっしっ! 通じたっっっ!!!

 ちゃんと“アホ”って入れたけどっ、それで行けたよ!

 魔王がちゃんと、嬉しそうに笑ってくれたよ!

 さすが俺! ヒャッホーイ!!



 そんなふうに、俺が心の中で快哉を叫んでいると。

 後ろの方で「ケッ……」とか吐き捨てるような声というかが聞こえた。

 いや、うん。はい。

 そこ、ヘタレとか言わないでくださいね、香月さん?


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