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第54話 五階でも六階でもなく、それは誤解です!


「改めて名乗りを上げようか? イーリス・サグレイの魂を持つ者よ」

「いらないし。アンタが魔王なのは、言われなくとも分かってるしね」



 香月が何か、不機嫌そうに答える。

 ただ、やっぱりちょっと、怯え的なモノも見えてる気がする。

 まあ、魔王を前にすりゃあ当然だわな。

 ちなみに、対する魔王は、それこそ“不敵”って感じに笑ってる。



「ふむ、ならば多くは語るまい。ただ一つ。この世界での私は、高城緋冴として生きている。故に、私のことはそのように扱い、そのように……緋冴と呼ぶことを期待しよう」

「高城緋冴……緋冴、ね」



 香月が、その名前を確認するみたいに呟く。

 その目には、でもやっぱり敵意が抜けていない。

 まあ、それもやっぱりしょうがないわな。



「聞かせてもらうけど」

「何だ?」

「アンタ、ホントに、魔王はしないわけ?」

「ふふ……」

「……何よ?」

「いいや、悟にも同じことを聞かれたな、と思ってな」

「へぇ……」



 香月がチラッと、俺の方に視線を向けてくる。

 とりあえず俺は、肩を軽くすくめるだけにした。



「その時、悟にも答えたが、この世界での私は、単なる一介の女子に過ぎん。世界の蹂躙など、どうして企もうか」

「……へ、へぇ……」



 香月の頬が、ちょっと引きつってる。

 わかるっ、わかるぞっ、その気持ち!

 一介の女子は、魔王の力なんて持ってないもんな!

 そこは俺も、超ツッコミたいよ!



「これも悟に言ったが、無論、その気になれば可能だ。だが、今の私には、その気になる理由がない。そこは、信じてくれとしか言えんがな」

「………………」



 香月が、油断なく……そしてさり気なく身構えるようにしながら、魔王を見据える。

 うんうん、わかるぞ、その気持ちも。

 その気がないって言ったって、その力があるんだもんなぁ?

 ぶっちゃけ、トラやライオンと同じ教室で授業を受けろって言われてるに等しいもんなぁ……。


 いや、まあ……トラもライオンも、人に馴れるらしいけれどもさぁ……。

 それでも、なぁ?



「…………」

「…………」

「……ふぅぅぅ……」



 睨み合いというか、一方的に香月が睨むみたいにしてただけだけれども。

 その香月が大きく息を吐いたことで、緊張状態は緩和されたっぽい。



「まあ、まあまあまあ、ね。どうせ私には、アンタをどうこうしようったって、一人じゃどうしようもないし」

「いやっ、お前っ、そこで俺をジト目で見るなよ! 仮に俺が戦えても、周りの被害が甚大すぎてシャレになんねーよ!」

「ああ……まあ、それもそっか」



 言われてみれば、という感じに香月が呟く。

 いや、そこは言われる前から気付いておけ。

 実際、あっちの世界の魔王は言うまでもなく、俺や香月の攻撃力だって、ホント、ファンタジーの世界だから。

 ここで俺たちが魔王と戦ったら、ホント、シャレになってない。



「いや、まあ分かってるってば。結局、現状維持しかないってコトでしょ?」

「そうそう。そういうコト。長いものには巻かれておいてくれ」

「分かってるってば。幸い、猫にはもう、鈴がついてるしね」

「うん?」



 何か比喩っぽい話をされたけど、よくわからん。

 隣の魔王を見ると、その俺の視線に気付いたからか、俺を見て笑ってたりする。

 何で?



「さて。それでは私からも、委員長に一つ、質問があるのだがな?」

「何?」

「お前と悟は、恋人同士でも何でもないのだな?」

「「はぁあああっ!!??」」



 俺と香月の声が、見事にハモった。



「おいおいおいおい、どっからそんなネタを拾ってきたんだよ、お前は? そんな伏線がどこにあったよ?」

「ちょっ、超余裕で普通のクラスメートだし! だいたいこんなっ、戦闘力たったの5のゴミ勇者が彼氏だなんて、ありえないでしょっ、普通!」

「あっ、お前っ、人がちょっと気にしてることを!」

「自分で言ったくせに!」

「自分で言うのはかまわんが、人に言われるのは気に食わん!」

「うるさい! このFive Point Power!」

「英語で言っても一緒じゃ! しかも、若干、流暢な発音が余計にムカつく!」

「知らないわよ! このFPP!」

「FPP……? って、略すな!」



 などと、俺と香月がやいのやいのと言い争っていると。

 ふと、何かこう、ゾクッと寒気のようなモノを感じた。

 それは、香月も同じだったらしい。

 俺と香月は言い争うのを止めて、何となく、顔を見合わせる。

 そうして、ちょっとツバを飲んでから……ゆっくりと、二人して魔王の方を振り返る。



「……」



(おいおいおいおい、どういうことだよっ? 何か魔王がメッチャ不機嫌そうにしてるんですけど、おい!?)

(私が知るわけないでしょーがっ! だいたい、魔王の管轄はアンタでしょっ! 早くなんとかしなさいよっ!)

(いやっ、何とかって言われても……)



「…………」



(おいぃいいっ! 不機嫌度数が上がってんじゃねーか! 何してくれてんだよ!? お前っ、今度からお前のこと、バカヅキって呼ぶぞ、コラ!?)

(呼べるもんなら呼んでみなさいよっ、この、クズ嶋! だから魔王の管轄はアンタであって私じゃないしっ! 早く何とかしてって言ってんでしょっ!)



「……むぅぅ……」



(ひぃいいいっ!? 魔王が超不機嫌!? 何で!? 何で!? 何で!?)

(だから知らないって言ってんでしょっ! いいからサッサと何とかしてってばっ! 手遅れになるでしょーがぁあっ!)

(あっ、馬鹿!? 押すな、コラぁあっ!? 前世では一緒に戦った仲じゃないですかぁあああっ!?)

(そんな昔のことは忘れたわっっ!!)



 などと、薄情な香月に押し出されて、俺は魔王の前に進み出るっていうか、放り出される。

 魔王は、見るからに不機嫌そうだ。

 俺は、愛想笑いを浮かべて、ついでに揉み手までして、魔王のゴキゲンを伺った。


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