第05話 強くてニューゲーム、なら良かったけれど。
「何だ、お前は? さっきから」
「いやいやいやいや、ちょ~~~っと待ってくれ!」
魔王がちょっと不機嫌そうにしてたけど、それでも俺は頑張って、魔王の言葉をさえぎった。
俺の必死さが伝わったのか、魔王が、やれやれとばかりに息を吐く。
「それで? 何なんだ?」
「いや、おう、アレだッ。お前、今……“生まれ変わった”って……言った、よな?」
「うむ、それがどうした?」
魔王は、サラッと俺の言葉を肯定した。
けれども……ッ!
「いやッ、何なんだよッ!? その“生まれ変わり”ってのは! ゲームでいう“転生”ってヤツですかそうですか? へ~ほ~ふ~んっ!」
「どうしたのだ、いったい?」
「どうしたもこうしたも! 俺はその、勇者アシュタルとかの生まれ変わりじゃ、全然ないしッ!」
「ふむ?」
「俺はただ、夢で何かそういうッ、不思議な話を見ているだけの、極々普通の高校生だし! 勇者とかじゃ、全然ないしッ!!」
気が付けば俺は、魔王に全力でそう言い放っていた。
ズビシッと、魔王に人差し指を突き付けてまで。
もちろん、言い終わってすぐに我に返って、指先が震え出したりもしたわけだが……。
しかし、その指を下ろすより先に、魔王が衝撃の爆弾発言を放ってきた!!
「夢、か……。なるほど。お前の転生は、上手く行かなかったようだな」
「………………は?」
「だが、案ずるな。お前は間違いなく、勇者アシュタルの生まれ変わりだ。魔王であるこの私が、保証しよう」
だから安心しろ、というみたいに、魔王が微笑む。
それが何か、ホントにその、相手を気遣うような、優しい笑みで………………って!!!
「ちっが~~~~~~~~~~うっッッッ!!!」
「うん?」
「いいかっ!? お前は魔王の生まれ変わりかもしれないけどッ、俺は違うッ! 俺はただ、ちょっとおかしな夢を見るだけの、どこにでもいる普通の高校生なんだよッ!! 剣なんて握ったこともないし、魔法なんてもってのほかッ! 趣味で格闘技をちょっとやってるだけのッ、普通の高校生なのッ!!!」
「なるほど。それで?」
「それでッッッ……って、いや、だからッ!」
俺は両手でガシガシガシッと頭を掻き毟る。
そうしてもう一度、ビシィッと腕を、人差し指を伸ばして魔王に突き付ける。
「だから俺はッ、魔王と戦うつもりなんてッ、これっぽっちもないって言ってるんだよッッッ!!!!」
俺は、これ以上ないくらい、キッパリハッキリ、言い切った。
情けないと、笑いたければ笑うがいいさッ!
けどなぁっ!? 相手は魔王なんだぞッ!? 魔王ッ!?
多分アレだ! 米軍の総攻撃だって通用しない相手だよッ!
そんなのを相手に、嘘偽りなく普通の高校生の俺が、どうやって戦うっていうんだよッ!?
百歩譲って!
百歩譲って、俺が本当に勇者アシュタルの生まれ変わりで、そのチートくさい能力を受け継いでいたとしたらッ……!!
………………。
…………。
……。
いや、それでもやっぱり、魔王と戦うのは遠慮したい。
いや、だから言ってんじゃん。
勇者には仲間がいたって。
その仲間の力があったからこそ、勇者は魔王と戦えたって。
だから、そうだな。
もし俺が本当に勇者の生まれ変わりで、かつ勇者の力を持っていたとしても。
まずは仲間を探すところから、始めさせてもらいたいと思います。
とか、思っていたら。
「ふっ……ははは、はははははははははっ!」
何故か、魔王が大笑いをしていました、まる。