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第49話 朝焼けに染まるデス・ロード!


「ふむ、確かに早朝のジョギングというのも、良いものだな」

「……まあな」



 朝の河川敷を、軽く流す俺。

 その横を、自転車で伴走する魔王。

 確かに、朝の空気は爽やかで気持ちが良い。

 河川敷だし、適度に風もあるし。

 ただ……。



(今日は、誰からも挨拶をしてもらえない……)



 もういい加減に俺は慣れたけれども、やはり魔王オーラは侮れない。

 見事にみんな、道を開けてくれるもんなぁ……。

 中には、ギョッとして飛び退く人もいるくらいだ。

 まあ、走りやすくていいけれども。



(走りやすいといえば……)



 俺はそこで、隣を走る魔王に目を向けた。

 いかにもスポーティな出で立ちで、リズミカルにペダルを踏む姿が、ちょっと何かいい感じだ。



(って、違うよッ!!)



 イカンイカン、イカンッ!

 最近の俺は、魔王が魔王ってことをちょっと忘れてやしないか?

 何か、割りに普通に可愛い女の子って思ってないか?

 可愛ければ魔王でもいいじゃんって、そう思いすぎてないか?

 いや、その意見は正しいんだけれども、もうちょっとこう、警戒心は持とうぜ、俺!



「どうした、悟?」

「えッ? あ、ああ、いや、アレだ……お前の自転車、けっこう良さそうだなって思ってさ」

「うむ、確かに乗り心地は快適だぞ」



 俺の言葉に、魔王がちょっと嬉しそうに笑う。

 見た目はもちろんカッコイイんだけれども、上りの時とか見てたら、ギアチェンジがすごいスムーズだった。

 とりあえず、安物じゃないなっていうのは想像がつく。

 いや、あのマンションの住人な時点で、安いのは買わないだろうけど……。



「ちなみにさ、ちょいと下世話な話を聞くけどな?」

「うむ、何だ?」

「参考までに、その自転車っていくらくらいしたんだ?」

「知らん」

「は?」



 何、コイツ?

 知らんって今、あっさり言ったぞ?

 やっぱり、パパンに買ってきてもらったのか?

 でも、自転車って、試乗もせずに買うのは危なくないか?

 まあ、あのパパンなら、娘にピッタリの自転車をひと目で見抜けても不思議じゃないけど……。



「昨日は、父と買い物に行くと言ったのを覚えているか?」

「ああ、そうだったな」

「その時に、私はジョギングを始めたいと言って、父から自転車にするよう言われた訳だ。それで急遽、自転車を選ぶことになったのだ」

「ああ、んで?」

「ところが、この手の自転車というのは、いろいろと、買う時に押さえるべきポイントがあるらしいのだが、そこが初めてだと少し、分かりにくくてな」

「まあ、言わんとするところは分かる。んで?」

「だから、良さそうなものを何台か適当に持ってきてもらって、その中から選んだのがコレ、ということだ」

「……ふ~ん?」



 それで何で、値段がわからないんだろう?

 そこは気にしてなかったから……か?



「どうかしたのか?」

「いや、だから、その時に値札は見なかったのか的な?」

「値札?」

「そう、値札」

「付いてないだろ、そんなもの」

「……は?」



 コイツ、また何か変なコト言い出したぞ?

 あ、でもアレか。

 店頭に置いてなかったのを、奥から引っ張り出してきたとか?

 だったら確かに、値札は付いてない……?



「…………」

「…………」



 何となく会話が噛み合ってない気がして、そのせいか走るテンポも緩やかになって。

 魔王も、その俺に合わせるように速度を落として……ついでに自転車も下りて、隣を押して歩く。



「……」

「ん?」

「いいや、何でもない」

「そうか」



 魔王が、ちょっと笑う。

 それでもう、いいかって気になった。

 別にそう、気にすることないじゃん、値段なんて。

 高いってことは、確定してるんだしさ。

 それをこだわって、どうすんの?

 いいじゃん、いいじゃん! 可愛い女の子と、朝のジョギングができれば、それでさあ!



(いや、さっき、魔王にもっと警戒心を持てって自分を戒めたばっかじゃん)



 そんな自分へのツッコミは、華麗に右から左に受け流す。

 いいんだよ、もう!

“可愛いは正義”って言うだろッ!?

 可愛ければ、すべてが許されるんだよッ!

 そうッ! 魔王でもなッ!!



「よし、何かいろいろ納得できた。じゃあ、もうちょっと走るからな」

「分かった」



 俺の言葉に、魔王が再び自転車のサドルをまたぐ。

 そうして、俺が走りだそうとした時だった。



「やあ、緋冴! 緋冴のジョギング・コースも、こっちだったんだね!」

「うん?」

「ッッッッッ!!!!!!?????」



 背後からかけられた、爽やかイケメン・ボイス!

 声だけでもイケメンと分かるその声に、しかし俺の身体は一瞬で硬直するッ!!

 恐怖と緊張に、ギギギ……と身体を軋ませながら俺が見たのは……ッ!



「父?」

「やあ、緋冴。それから、悟くんも。おはよう! (朝日はもう、十分に堪能したかい? まだだったら、しておきなよ? キミの見られる、最後の朝日なんだからさぁ?)」

「はッ、ははッ、はッッ……おはよう、ございます……ッ!」



 やっぱり魔王パパッ、監視してんじゃねーかッ!!!

 もうこれッ、溺愛ってより、ストーカーだよッ、完璧ッ!!!

 そして怖いよッ!!

 副音声がこの人、超危険すぎるよッ!!

 何でこんな人が、野放しになってんのさッ!!??

 ICPOの出動を要請するッ!!!



「父は、こんな所で何をしているのだ?」

「何をも何も、見てのとおりジョギングだよ? 昨日、“一緒”にウェアを買ったじゃないか」

「ふむ、なるほど」



 魔王パパは、チラリと俺に視線を送りながら、“一緒”という言葉を超強調してきた。

 いや、そんなライバル心を見せられても……。


 ちなみに魔王パパは、やっぱりスポーティというか、スタイリッシュというかなジョギング姿だ。

 上も下も、フィット感の強い長Tにレギンス。その上から、Tシャツと短パンを身につけている。

 元々のイケメン補正が大幅にあるから、これだけでもカッコイイという不公平キャラだ。


 いや、うん。

 マジで今、ジョギング中のお姉さん(おばさん寄り)が、魔王パパに見とれる感じで横を走っていったし。



 しかし。



「父は、どこまで走るつもりなのだ?」

「緋冴たちは?」

「それを聞いて、どうするのだ?」

「えっ……?」



 魔王パパが、虚をつかれた、みたいな驚き方をする。

 しかも、魔王がちょっと不機嫌そう……?



「ッ……緋、緋冴……?」

「ついてくるつもりなのなら、そこは遠慮して欲しい」

「ッッッッッ!!!!????」



 魔王パパが、驚愕に目を見開く。

 それこそ、この世の終わりに遭遇した、みたいな。

 ちょっと面白い。



(というか、いい気味だぜッ!!)



 いいぞッ、魔王ッ!! もっと言ってやれッ!!

「鬱陶しいんだよッ、このストーカーッ!!」とか言ってもいいぞッ!

 俺が許すッ!



「なッ……そん、なッ……どう、してッ……緋冴ッ!?」

「どうしてと言われても……」

「……ぇ?」



 ちょっ、ちょっと待て、魔王ッ!!

 何だって俺をチラ見するんだよッ!?

 待て待て待て待てっ、ちょ~~~っと待てッ!!

 その先は頼むから言うなぁああああああッ!!!!



「私は、悟と二人でジョギングを楽しみたいのだ。だから、父には遠慮して欲しい」

「ッッッッッ!!!!????」



 魔王パパの顔が、絶望に凍りつく……。

 そう、して……ッ……ッ!



「……なるほどぉ、そうかぁ……それはちょっと、気が付かなかったなぁ(つまり……キミを排除すれば何も問題はない……。そういうことだよね、うん?)」



 魔王パパは、激しく動揺しながらも、確実に事態の打開に向かって動こうとしていた。

 それはすなわち……俺の死を意味する。


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