表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/74

第48話 血の月曜日


「ふぁ~ぁ……ぅ~……」

「悟くん、何か寝不足じゃない? もうちょっと寝てたら?」

「…………」



 姉ちゃんのせいじゃん、という抗議を無言で飲み込んでみたりする月曜日の朝。

 今朝ももちろん、俺は日課のランニングに向かうところだ。

 そして俺が寝不足なのは、土曜日の宣言通り、姉ちゃんが俺のベッドで寝ているからだ。

 何かもうホント……いや、言うまい。



「まあ、こういうのは続けるのが大事だからさ。ばあちゃんも、簡単にサボるんじゃないって言ってるし」

「うん。でも、くれぐれも車には気を付けてね?」

「了解了解。気を付けます。それじゃ、行ってきま~す」

「うん、行ってらっしゃい」



 俺は、姉ちゃんにそう言って。

 姉ちゃんにも、そんなに笑顔で返されて。

 それで玄関の戸を開けて……。



「……」



 無言で閉めた。

 速攻で。



「悟くん?」

「ッッッ、お、ッ、おおッ、おうッ……ッ!」



 メッチャ心臓がドキドキしてる!

 メッチャ心臓がドキドキしてる!

 何で? 何で? 何で? 何でいてんのん、あの人???



「だ、大丈夫、悟くん? 何か顔色悪いよ? やっぱり今日は、無理しない方がいいんじゃない?」

「いや、うん、ッ、それはッ……そう、なんだ、けど……ッ」



 姉ちゃんが、そんなふうに俺を気遣ってくれて……。

 俺も、その意見には大賛成なんだ、けど……ッ!



(それはッ……それはそれで、後が怖いしっっっ!!!)



 俺は、そっと扉を開けて、外の様子を……!!??



「ッッッッッ!!!!????」

「悟くん?」



 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!

 目が合ったよっ、今!! メッチャ目が合ったし!

 メッチャ何か、笑顔で手も振られてたよっ!!

 これでもう、逃げらんないよっ!!

 馬鹿馬鹿馬鹿! 俺の馬鹿!!

 どうして不用意に扉を開けたりするのよ!!



「悟くん? 外に誰かいるの?」

「いやいやいやっ、いないッスよっ、そんなッ! いるわけないじゃないっすか! やだなぁ、もうッ! あはっ、あはっ、あはははははははっ! って! いないって言ってるじゃないですかぁあっ!!」



 俺の全力フォローはあえなく無視され、姉ちゃんが扉を開ける。

 俺はとっさに両手で目を覆って、しゃがみ込んだ。



「あ……」

「む……」

(ひぃぃいいいいっ!!??)



 つい漏れ出たというような、その二つの声に、俺の心臓はすくみ上がるッ!!!

 イヤだイヤだイヤだッ!

 俺は何も見ていないし聞いていないぃいいいッッ!!



「おはよう、緋冴ちゃん……だっけ? 朝からどうしたの?」

「うむ。悟とジョギングの約束をしていてな」

「……へぇ」



 してないしてないしてないしてないッ、超してないですってばぁああああッ!

 魔王がッ、魔王が勝手にそんなこと言ってるだけですからぁああああッ!

 だからッ!

 だからそんな冷たい笑顔で僕を見下ろさないでくださひぃいいいッ!!



「悟くん、ホラ、緋冴ちゃんが待ってるよ?」

「ッッ……ハ、ハ、ハイ……」



 姉ちゃんに、ニコって微笑みかけられて……。

 俺は、スイッチの入ったロボットのように、ギクシャクと動き出す。



「おはよう、悟。今朝もなかなかのジョギング日和だぞ」

「ハイ、ソウデスネ」



 玄関を出た俺に、魔王がにこやかに声をかけてくる。

 俺がまだロボット状態なのは、背後から凄まじい怒気を浴びせかけられているからだ。



「悟くん」

「ハ、ハイ」

「気を付けて行ってきてね? 美味しい朝ごはん作って、待ってるから♪」

「ッ……ハ、ハイ」



 振り返れば、ニコニコ顔の姉ちゃんが……。

 もちろん、その目はちっとも笑っていなくて……ッ。

 俺は生唾を飲みつつ、ロボット状態のままで返事をして……。

 そうし、たら……ッ。

 その瞬間、そちらが背後となった道路側……つまり魔王側から甚だしく不穏なオーラが噴き上がった。



「さあ、悟。それではジョギングに出かけようではないか、“二人”で」

「ッッッ……ハ、ハ、ハィ……」


 またまた振り返った俺には、にこにこな魔王の笑顔が見えた。

 言うまでもなく、目は笑っていない。

 そうして、そんな俺に、やっぱりまた背後からオドロオドロしいオーラが吹きつけられてくる。



(キミたち、大岡裁きを知らんのか……)



 俺は半泣きの笑顔で、そんなことを心の中で呟いていた。






「と、いうわけでだなぁ?」

「うむ、何だ?」

「何で、お前、ここにいんの?」

「せっかくだから、悟と一緒にジョギングをしてみようと思ってな」

「……なるほど?」



 魔王の格好を見ると、それはまあ納得できる。

 上は、ピンク系の長Tで、下は黒のタイツだかレギンスだかに、短いスカートを合わせている。

 ぶっちゃけ、何かエロい。



(いやいや、別に俺はそういう目で見てるわけじゃないぞ?)



 いや、それで、足元もジョギングシューズ的な何かだ。

 ああ、あと、長い髪はまとめて、帽子もかぶっている。

 けっこう何か、アリだな、うん。

 新鮮っていうか……。



(って、だからそういうのはいいんだよ!!)



 もっと他に、気にしなきゃいけないことがあるだろうが!!

 例えば、そう!

 魔王がすぐ横に停めている自転車!!

 ママチャリなんかであるはずがなく、いわゆるクロスバイク的な何かだ。

 しかも、俺にはわからんが、絶対高いと見た!

 3ケタ万円しても、俺は驚かないね!!



「どうした?」

「いや、だから何で、ジョギングに自転車が必要なんだ?」

「それが……ジョギングに行くというと、父に反対されてな?」

「……ほう?」

「変質者に追いかけられた時、すぐに逃げられるよう、せめて自転車にしなさい、という訳だ」

「……なるほど?」



 自転車の方が、転倒させられたりして危ないと思うんだが……。

 ていうか、自転車に乗った変態に追いかけられたら、どうするんだろう?



「だッ、大丈夫だッ。自転車は、ココに置かせてもらうつもりで来たのだ。キチンと一緒に走るから、安心してくれ」

「いや、置いてくってんなら、それは別にいいんだけどさぁ……」



 問題は、何でお前がココにいんの? ってことなんだよな。

 俺、家、教えてないはず……。



「ん?」

「どうした?」

「さすが魔王パパだな。これ、GPS……ッ!!??」

「どうしたのだ、悟?」

「馬鹿っ、お前、早く自転車に乗れっ! 行くぞっ!」

「さ、悟っ?」



 驚く魔王を置き去りに、俺はダダダダッと走りだす。

 そうして後ろを振り返り、魔王を急かす!



「いいから、とにかく自転車でついて来いっ! 急げっ急げっ急げっ急げっ!」

「な、何だか分からんが、とにかく分かった」



 俺の勢いに押されて、魔王が自転車にまたがる。

 それだけ確認した俺は、もう後ろを見ずに走りだす。



(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! もう手遅れだと思うけど! とにかく、ここからすぐ離れないと!!!)



 魔王の自転車の、ハンドルのところに付けられていたモノ。

 いわゆる、GPSロガー。

 自転車なんかが、どこをどう走ったかを記録する装置みたいなもんだ。

 それが付けられている、ということは、だ。



(魔王パパは、魔王の移動ルートを把握してるってことじゃんっ!!)



 しかも、ひょっとしたらリアルタイムで!!

 だったら、公園でも何でもない、一軒家の前で魔王が動かなくなったら、絶対、変だって思うはず!!

 そりゃあ、サイクリングに出かけるって言っておいて、家の前から動かなかったら怪しむよ!

 絶対に、誰の家に行っていたか、魔王パパなら調べるよ!!



(それで……っ、それで、その家の住人が、俺だって知ったら……!!)



 死ねる!!

 これは確実に死ねるっ!!


 俺は、その魔王パパの制裁から逃れるため、ひたすら全速力で走り続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ