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第47話 魔王の家で朝食を? 無理無理、全力でお断りします。


「おはよう、悟! 朝から会えて、私は嬉しいぞ」

「お、おう。俺は、いきなり降ってこられてビックリしてるよ」

「ははは、確かにそうかもな。だが、些細な事だ。気にするな」

「いや、些細じゃねーよ」

「はっはっは」



 コイツ、笑って誤魔化す気か?

 だが、それは通じん!

 見ろ、ベンチのじいちゃんもビックリしてるじゃないか!



「ていうか、お前、いつまで浮いてんだよ?」

「む。しかし靴を履いていないのでな」

「そういう問題じゃねーだろッ?」



 ズレてるッ、ズレてるよ、魔王!

 さすが魔王だよ!

 いや、そりゃあ確かに、降ってきた時みたいに宙にプカプカ浮いてるんじゃないよ?

 姿勢的には普通に立ってるよ?

 けど、だから足元が5cmばかり浮いてるのは、どう考えても不自然だろうがッ!

 いや、魔王の素足がちょっとカワイイっていうか……とかは、ちっとも思ってねーしッ!



「いや、そもそもだから、何でお前はいきなり降ってきたわけ?」

「悟がいたからだが?」

「理由になってねーだろっ、お前、それはッ! 俺は、普通にエレベーターで降りてくればいいだろって言ってんの!」

「だが、その間に悟がいなくなっていたら、悲しいではないか」

「ぅぐっ……ッ」



 クッソ、コイツ!

 だから人の顔を真っ直ぐ見ながら、そういうことを言うんじゃない!



「だッ、だったらお前、電話してくりゃいいだろッ? 何のための携帯だよッ?」

「ッ……そ、それは……」

「何だよ?」

「は、恥ずかしいではないか……朝から電話をするなんて……」

「………………」



 ハッ!?

 イカン、思考が停止してた!

 クッソ、だからこの天然魔王め!

 そんな、口を尖らせて、怒ったみたいに言われたらなあっ、ああっ、もうまったく!


 いや、でもやっぱりおかしいだろッ!?

 電話するより、最上階から降ってくる方が普通は恥ずかし……?

 …………。

 いや、普通はだから、そもそも降ってこないよな、うん……。



「……悟?」

「い、いや、うん。とにかく、いきなり降ってこられたらビックリするから、次からはしないでくれ」

「善処はしよう」

「いや、そこは約束してくれよ」

「確約はできんな」

「……ああ、はいはい、そうですか」



 何故か偉そうに胸を張られて、俺はちょっとゲンナリした。

 ふと見れば、ベンチに座っていたじいちゃんの姿がない。

 俺は、何となく疲れたものを感じていたからか、手近なベンチに腰を下ろした。

 魔王も、ちょこんと俺の隣りに座る。


 ……まあ、女の子に自然に隣に座られるのは、慣れてないけど、ちょっとは慣れた。

 それよりも、やっぱり魔王が浮いているのは、部屋着を汚したくないからだろうか?



(コイツの価値観は、よくわかんねーな)

「どうかしたか、悟?」

「いいや、何でもないよ」



 俺は適当に答えて、ベンチの背もたれに、グッと仰け反るくらいに背中を預けて空を仰いだ。

 空が……というか、タワーマンションがアホほど高い。

 天辺なんて、ホントにろくに見えやしない。

 魔王はよく、アソコから俺を見つけたもんだ。



「ところで、悟。悟はここで、何をしていたのだ?」

「何をって、見たらわかるだろうが。ジョギングの途中だよ、ジョギングの」



 俺は身体を起こすと、シャツの胸元をちょっと引っ張った。

 一応、見るからにそれっぽい格好をしているから、一目瞭然だと思ったのだが……。



「いや、それは分かるのだが、今朝から始めたのか?」

「いいや? 実は、身体を鍛えるのは割りに昔から、けっこうマジメにやってるぞ?」

「ふむ……」



 なるほどといった具合いに、魔王が頷く。

 いや、でも今の言葉は本当だ。

 もちろん、ばあちゃんの躾の一環ではあるんだけれども。


 あと……。

 今日からちょっと、気合を入れなおそうっていうのは、あったりはする。

 ほら、昨日の魔法使いとのケンカ。

 あれがちょっと、引っかかってるんで。

 もうちょっと何とかならんかなぁ、という感じ。

 もちろん、アシュタルのレベルになりたい、とは言わないけどさ。

 それでもな、みたいな?



「だが、悟。こちらに来たのは、初めてだろう?」

「えっ……?」

「昨日や一昨日も来ていたのなら、私が気付かないはずがないからな」

「ッ……!」



 クソッ!

 だから、何でコイツは、そういうことを自信たっぷりに言うかなッ!?



「い、いや、でも、あんな高いところから、そうそう……ッ。今日だってお前、よく見つけたよな、実際」

「見つけたのではないぞ」

「え?」

「魔法だとか、そんなものを使わなくても分かるのだ。悟が近くにいる、ということは。ここで、な」

「ッッッ……!!」



 魔王が、俺を見つめながら……自分の胸に手をやって、ちょっと、笑って……ッ。

 だからッ、だからだからだから!

 ああっ、もうコイツは!!

 そういうのに俺は、耐性がないっつってんだろッ!?



「今朝はだから、驚いたし……嬉しかった。悟が来てくれて。それが例え、ジョギングの途中だろうと」

「ッ……い、いや、それは、その……ッ」

「ここが私の家と知ったから、いつものコースを変えて、立ち寄ってくれたのだろう?」

「ッッ……ッ」

「……違うのか?」



 魔王がちょっと、すがる……みたいな目で、俺を見て……ッ。

 ああっ、クソッ!

 だからだからだからだからだからぁあああっ!!



「……悟?」

「ッ……ち、違いま、せん……ここがアナタの家だったから……寄って、みました……」

「ふふふふ……」



 ぐふぅううッ……ッ!

 こいっつ、だからっ……だからそういう笑い方はコアヒットしてくるっちゅうねんッ!!

 チクショウ! 絶対、後で何か、仕返ししてやるッ!!



「それより、悟。せっかく来たのだ、家に寄っていかないか?」

「……は?」

「お茶くらい、と言うよりも、朝食を一緒にどうだ? 今日は日曜日だし、時間に余裕はあるだろう? ご馳走するぞ」

「ッッッ……いっ、いやいやいやッ、そりゃ無理だよッ! 無理無理無理無理ッ、絶対無理ッ!」

「むぅ……何もそこまで言わなくても良いではないか」

「いッ、いやッ、そりゃ悪かったけど、ども……ッ!」

「でも、何だ?」



 いや、だからお前、朝食って、俺とお前だけじゃないだろッ!?

 それだけでも、かなりハードル高いんだけれども、そうじゃないだろッ!?

 魔王パパがいるよねッ!?


 そんなん僕ッ、絶対、殺されてまうやんッ!?

 冗談抜きで南港コースやんかッ!?

 何で魔王には、それがわからへんのんッ!?


 ああっ、もうそれが言えたらいいのにッ!

 いや、言えはするけどっ、絶対、魔王は笑って信じない方に100ペリカやッ!!



「いや、でも、だからアレだよ。俺、帰るまでがジョギングなの、わかる? 途中で飯食ったら、おかしいだろッ?」

「……ふむ。言われてみれば、確かにそうだな」

「だろッ? だよなッ? ということだから、俺、そろそろ帰るわッ! 途中であんまり身体を休めすぎるのも、良くないからなッ!」



 俺はそう言って、勢いよく立ち上がった。

 そうしてその場で、軽くジャンプをしてみたりする。

 小さく頷いた魔王が、続いてベンチから立ち上がった。



「悟はいつも、この時間にジョギングをしているのだな?」

「まあ、だいたいな」

「わかった。では、明日も会えるということだな?」

「えッ!?」



 そ、そうなんのッ!?



「違うのか?」

「ッ……い、いや、あの……違いま、せん……。明日も、はい……ここまで、走って、きます……」

「ふふふふ……そうか、ならば待っているぞ、悟」

「は、はい……」



 俺の返事に、魔王は満足そうに、頷いて……。

 俺は……。

 俺は、何でこうなったんだろうって、そんなことを考えていた。


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