第45話 夜よ、早く明けてくれ! 一秒でも早く!!
「ふにゅうっ!!」
「おわッッはぶぶぶぶッッッ!!??」
いきなり姉ちゃんが意味不明な声で叫んだかと思うと、俺をまたギュッと、その胸に抱きしめてきたッ!
問答無用のボリュームを誇るおっぱいが、俺の顔を包み込むッ!
「ン~~~~~ッ!」
「ムーッムーッムーッ!!」
姉ちゃんが、何かギュッとギュッとギュッと強く、俺の頭を抱きしめる。
いよいよおっぱいに顔を埋められていって、俺は夢中でタップする!
その甲斐あってか、ようやく姉ちゃんが俺の頭を解放してくれた。
「っぷはぁッ、はぁッ、はぁッ、はぁッ……チクショウ、空気がうまいぜ……ッ」
「あはははは、ごめんごめん。あんまり悟くんが可愛いもんだから、つい本気で食べちゃいそうになっちゃってて♪」
「ッッッ!!!」
何かッ、何かサラって言ったよ、この人ッ!
危険なセリフを、サラって言ったよッ!?
「あはははは、大丈夫大丈夫。ちゃんと、悟くんが襲ってきてくれるのを待つってば。今日は、自分からは襲わないって約束したもんね」
“今日は”ッ?
“今日は”ってことは、“明日”はどうなんのッ!!??
「あ、今、何か変な警戒したでしょ? だから大丈夫だって。“今……して?”とかも言わないから」
「ッ、そ、それはッ、そのッ……」
「ホントは……言いたいけど、ね?」
「ッッッ……ッ!」
駄目だッ、これ以上はホントに危険だッ!
何か正常な判断能力が、ガスガス削られてきてるぞッ!?
こっちから……ッ、こっちから別の話題を振らないとッ!
何かッ……何か別の話題はないのかッ!?
えっと、えっと、えっと……ッ!
「……ふふふ♪」
「ッ……なッ、なな、なッ、何……?」
「ん~ん? 可愛いなぁって」
「ッッッ!!??」
こ、殺す気や……ッ!
姉ちゃん、本気で俺の息の根、止める気や……ッ!
アカン……ッ!
殺られる前に、殺らな……ッ!!
「ッ……ねッ……ッッ……か……奏さん、だって……ッ」
「ん?」
「奏さんだって、すっごい……か、可愛い、しッ……」
「……悟、くん……ッ」
姉ちゃんの目を、見上げるみたいに、そう言って……。
姉ちゃんが、目をまんまるに、して……ッ。
(決まったか……ッ!? これは、決まッ――)
「ん~~~っ、もうッ、悟くんッ、ホントにホントにッ、可愛すぎて大好きだよッ!!」
「むぐぅうううッ!?」
逆効果やんッ!!
メッチャ逆効果やんッ!!
またッ、またおっぱいに呑み込まれてるやんッ、僕ッ!!
アカンッ……涅槃がッ!
涅槃が近づいてくる……ッ!!!
「ふ~~……もう、悟くんは困った子だなぁ♪」
「ッ、はっ、はぁ、はぁッ……す、すみま、せん……ッ」
ようやくまた、解放されて……。
俺は、息を荒げながらも、そんなふうに、答えてて……。
その俺の頭を、姉ちゃんがムニムニ、撫でくり回していて……。
「……悟くんはさぁ、分かってる? 私が悟くんを、こんなに好きになったのは、悟くんのせいなんだからね?」
「……ど、どういう、こと……?」
「だってさ? 私、悟くんのおむつ変えるのを手伝ったこともあるんだよ?」
「Oh……」
「お風呂だって、よく一緒に入ったしさぁ」
「は、はい、そうですね……」
あーっ、もうッ!
何でそんな記憶をほじくり返すかなッ、姉ちゃんはッ!
さすがに、おむつを変えられた記憶はないけどさッ!
一緒に風呂に入ってた記憶は、バッチリあるんだよッ!!
「それで、思い出したの。お風呂に入るのも、一緒に寝るのも、止めたのってだから、悟くんが小学3年生……つまり、私が小学6年生の頃、だよね?」
「う、うん……多分……」
「つまりは、そういうことなわけ!」
「……はい?」
「悟くん、その頃から私のこと“女の子”なんだって認識し始めたんじゃない?」
「ッッッ!!??」
当たってるよ……ッ!
いや、だから“姉ちゃん(+女の子)”みたいになったっていうかさ……ッ!
姉ちゃんは姉ちゃんなんだけど、それがちゃんと女の子なんだって気付いたっていうかさ……ッ!
もちろん、女の子ってことくらい、最初っから理解してたよ?
でも、ホントにそうなんだって理解したっていうか、さぁッ?
「その時にね、私の中でもカチッと嵌ったの。あ、そうか。私、悟くんのこと、男の子として好きなんだって」
「ッ……そ、それは、その……ッ」
「でも……そこから8年かぁ、いざ告白するまで。我ながら、よく待ったなぁ」
姉ちゃんは、指折り数えて、そう言って……。
何か、それが非常に申し訳ないっていうかな、気持ちになってきて……。
「ごめん、何か、その……」
「ふふふ、謝ることないのに。だいたい、私が自分で、“お姉ちゃんポジション”から取りに行ったのもあるしね~」
「ッ……そ、そうですか……」
「うん。一番身近な“異性”になっておこうってね?」
「な、なるほど……?」
戦略的……なのか?
むしろ、それに関しては裏目に出てないかな?
“お姉ちゃんフィルター”を外せてないわけだし、俺。
「何にしても。こうして改めて、悟くんに“好きだ”って気持ちを伝えられて。そうして、8年ぶりに一緒に寝れるようになって。私は嬉しいって訳だよ、分かる?」
「ま、まあ、それは……はい」
「悟くんも、また一緒に寝れて嬉しいって思えてる?」
「そッ、それは、もちろん……ッ!」
「ふふふふふ♪」
いや、嘘じゃないから、ホントに。
ホントに嫌だったら、嫌って言うし。
ただ、何かいろいろ困るってだけで……ッ。
「じゃあさ、悟くん。明日は、8年ぶりに一緒にお風呂に入ろっか!」
「いやいやいやッ! それは無理でしょッ!?」
「え~ッ、どうして~ッ?」
「どッ、どどどッ、どうしてって、そんなッ……!」
そんなんッ、俺がいろいろ耐えられへんくなるからに決まってるやろッ!
今でさえッ、今でさえッ、俺の股間のエレファントがパオーンしとんのにッ!
一種にオフロに入った日にはッ!
そりゃあ潜望鏡もビックリですよッ!?
「……じゃあ、悟くん、約束しよ?」
「や、約束?」
「明日のお風呂は諦めるから、約束」
「だ、だからどんな?」
「えへ……♪」
「ッ……!」
姉ちゃんが、はにかんだ、笑みを……ッ。
それだけでッ、胸がドキンって、鳴って……ッ。
「……悟くんが、ね?」
「ッ、う、うん……ッ」
「悟くんが、私のこと……ちゃんと抱いて、くれたら……」
「ッッッ……!」
「そうしたら……その後で、一緒にお風呂に入ろうよ。ね?」
そう言って姉ちゃんが、小指を俺の顔の、前に……ッ。
その小指の向こうに見える姉ちゃんは、すごくッ……すごく……ッ。
「ね、悟くん……? 約束……」
「ッ……う……うん……」
俺は、小さく、頷いて……。
姉ちゃんの小指に、自分の小指を……絡めて……ッ。
「ふふふ、ゆ~びき~りげ~んまん、嘘ついたら針千本の~ます。ゆ~び切った!」
「…………」
嬉しそうに笑った姉ちゃんが、歌いながら、指切りを、してきて……。
その歌声に、俺の頭はまた何か、ジーンって、痺れてて……。
姉ちゃんの指が離れた後も、何か……まだそこに、姉ちゃんの指が触れてるみたいな、気もしてて……。
「ふふふふふ……♪ さ~て、でもそういうことなら、早く悟くんに襲ってもらえるよう、これからは毎日、こっちで寝るからね!」
「は……えッ!? はいぃいいいッ!!??」
「その気になったら、いつ襲いかかってきてくれてもオッケーだから。あと、寝てる私の身体を触って、とりあえず練習するとかも、どんと来いだよ?」
「何ば言いよっとねッ、アンタはッ!?」
「えへへへへ♪ それじゃ、悟くん。おやすみなさ~い♪ ンッ♪」
「はうッ!!???」
チュッて……!
チュッてまた、ほっぺじゃなしにッ、唇に……ッ!!
しかもッ! しかもしかもしかもしかもしかもッ!!
姉ちゃんッ、めっちゃギュッて俺の身体にしがみついてくるしッ!
腕だけやなしにッ、足でまで絡みついてきてるしッ!
何コレッ!? 何なんッ、コレッ!?
そんなッ……そんな半分、俺の身体に乗るみたいに、されたら……ッ!!
(だからッ! だからおっぱいがぁああああああッ!!!)
姉ちゃんが重いとかは、全然ッ、ないけど……ッ!
俺の胸の上で、こうッ……ッ!!
何かッ……何か何か何か何か何かもうッ!!!
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁの……ッ……か、奏、さん……ッ?」
「ふふ~……♪」
「くぅぅっ……ッ!」
絶対ッ……絶対、起きてると思う、けど……ッ!
返事の代わりに、キュッてまた強く、抱きつかれて……ッ!
だからッ……だから、いよいよおっぱいが……ッ!
(こんなんッ……! こんなんッ、寝れるわけないやろッ、アホーーーーーッッッッッ!!!!)
俺は血走った目で天井を見上げたまま、心の中でそう叫んでいた。