第44話 おっぱいには、夢と希望が詰まってるんやで?
「ッ……し、失礼、します……ッ」
「どうぞどうぞ♪」
俺は、恐る恐るベッドに上がる。
ギシ……と、ベッドがきしむ。
それだけでギクッと身体が震えるが、それでもどうにかベッドに身を横たえた。
「……どうして、そんなに端っこにいるの?」
「……すみません、自分、端っこが好きなもんで……」
「じゃあ、どうして私に背中を向けてるの?」
「……すみません、自分、いっつもこっちを向いて寝るのが癖なもんで……」
「ふ~ん……?」
な、何かすごい不穏な気配が……。
と、思った時には遅かったッ。
「てやっ」
「どわッ!?」
いきなり背中をドンッと押されて、俺はあっけなくベッドから転がり落ちる。
「いきなり何するんだよッ?」
「いやいや、私はただ、そんな端っこに寝ると危ないよって言っただけだよ?」
「押したよねッ? 今、物理的に押したよねッ?」
「まあまあ、細かいことはいいじゃない。ほら、おいで?」
「ッッッ!!!???」
全ッッ然、細かくないけれどもッ……!
そんな、ことよりッ……!
「ほら、こっち」って言うみたいに、姉ちゃんが手を、広げて……ッッッ。
「いや、あの、えっと……ッ」
「……あのね、悟くん?」
「ッ……は、はいッ……」
「あんまりダダこねてばっかりだと……襲っちゃうよ?」
「ッッッ!!!???」
今、もう既に襲われてるようなもんやんッッ!!
って言えたらいいのになぁッ!! ホンマにッッ!!
クソッ、クソッ、クソッ!! ホンマに姉ちゃんはッ!
ああっ、もうッ、クソッ!!
ホンマやったら、立場、逆なはずやのにッ!!
ヘタレッ! 俺のヘタレッ!
(ヘタレちゃうしッ! せやから、姉ちゃんフィルターが外せてへんだけやしッ!)
「……悟くん?」
「ッ……え、えっと……それ、では……ッ」
「えへへ~、いらっしゃ~い♪」
俺は、なるべく姉ちゃんの方を見ないようにして……ッ。
それ、で……ッッ!!??
「ほふぅううッ!!??」
「ん~~っ、悟くんはやっぱり、抱き心地がいいなぁ。私の胸に、丁度、キュってなるよね、悟くんの頭って♪」
なってないッなってないッなってないッ!!
人の頭の大きさなんてッ、そう変わんないしッ!!
ていうかッ、柔らかッッッ!!!
いっつも思うけど、何でできてんのッ、姉ちゃんのおっぱいってッ!?
メッチャ柔らかいしッ、温かいし……ッ!!!
(おまけに何か……お風呂上がりやからか、ええ匂いが……ッッ)
あぁ……何か……何か意識が遠く…………。
って、アカンアカンアカンッ!!
これ、違うしッ! これッ、アカン意識の遠のき方やしッ!!!
酸素酸素酸素ぉおおおッ!!
姉ちゃんのおっぱいに口と鼻を塞がれてるからッ、酸素がぁああああッッッ!!!!
「むーっむーっむぅうううううッ!?」
「うん? あぁっと、ごめんごめん、ついうっかり。えへへ~♪」
「っぷはあっ、ハァッ、はッ、ハァッ、はッ、はぁっ……」
「えへへ~、ごめんね、悟くん」
「い、いや……ごめんって、その……ッ」
おっぱい窒息なんて、腹上死に匹敵するなッ!
絶対、ごめんだけれどもッ!!
「よしよし、じゃあ、こんな感じで」
「いや、あのッ……ぅ、ッ、ま、まあ……ッ」
姉ちゃんが、俺の首の下に腕を回してくる。
そうすると、姉ちゃんの肩に顔が来るっていうか、アゴの下っていうか微妙な位置に、おっぱいが……ッ。
(これはこれで、すっごい何かムズムズ、するし……ッ!)
マズい。
正直、緊急事態だッ。
俺の股間的な何かが、割りにこう、ね……ッ!
「ん? ひょっとして、おっきくなっちゃった?」
「おっきくなったとか言うなッ!」
「勃起した?」
「どこのばあちゃんだよッ!?」
「あははははっ♪」
「ぐぬぅぅぅ~~っ……ッ」
俺は姉ちゃんから微妙に下半身を遠ざけたものの、頭はしっかりとホールドされたままだった。
おかげでもう、ムズムズがちっとも冷めないッ。
そんな俺の頭を抱きかかえながら、姉ちゃんはやたらご機嫌だ。
「ん~、こうやって一緒に寝るのって久しぶりだねぇ。いつ以来かな?」
「ぁ~……小学校3年だったかなぁ、最後に一緒に寝たのって」
「てことは、私が6年生かぁ。もうちょっと一緒に寝てたような気がするけどなぁ?」
「いやいや、そんなもんっすよ」
「そっかぁ……そう考えると、けっこう前だねぇ」
「ま、まあね……」
まあ、だからアレですよ。
その時分から、姉ちゃんのおっぱいが、ね……ッ!
それが何か、俺の方が恥ずかしくってさッ!
もう自分一人で寝るって言った覚えがあります、はいッ!
(今、考えると、ちょっともったいなかったけどなッ!)
だからといって今ッ、こうして取り戻してるのを幸せといえるかどうかがまた……ッ!
いやッ、幸せなんだろうけどもさぁッ!
「あ、あの、さ……?」
「ブッブー、減点2」
「なッ、何でッ!?」
「今、名前を呼ぶのを避けたでしょ?」
「ッッッ!!??」
な、何という観察力……ッ。
今日の姉ちゃんは一味違うぜ……ッ。
「あの……ですね? その……ッ……か、奏、さん?」
「うん、なぁに?」
「な、何で……こん、な……ッ?」
「そりゃあ、ライバルに後れを取らないためには、自分のアドバンテージを活用しないとね!」
「ほあふぅッ!?」
ギュッて!
ギュッてまたおっぱいにッ!?
アドバンテージって、このおっぱいのことッ!?
てかッ、だからホント、なんでこんなに柔らかくってすべすべでッ、こんな心がウズウズするの、おっぱいってッ!?
これが人体の神秘ってヤツ!?
「いっそのこと、ホントに夜這いしちゃおうかな~とも思ったんだけどさ?」
「ほふぅッ!?」
「そこはまあ、女のプライド? みたいなね。最後の一戦は、悟くんから越えてもらいたいなって」
「ほッ、ほほうッッッ!!!」
今すぐにもッ……!
今すぐにも超えられそうな、この勢いッ……ッ!
すっごいッ……すっご姉ちゃんをギュッてしたい、けど……ッ!
(それをやったら、絶対……ッ!)
絶対、それだけでは終わらない自信がある……ッ!
だから俺は、その衝動と必死に戦っていた。
両腕に、指に不自然に力が入って、プルプルと震え出す。
「……悟くんがその気になったら、いつでもいいからね?」
「ッ、いやッ、そのッ、それはッ、だからッ……ッ」
「ふふふ、分かってるって♪ ただ、今もちょっとは、そういう気持ちになってるでしょ?」
「だッ、からそれはッ……ッッ!」
ちょっとどころか、とっくに臨戦態勢MAXだともッ!!
この荒ぶる炎は、素数を数えても消えないねッ!
「や~、でも嬉しいなぁ、悟くんがちゃんと、そういう気持ちになっててくれて」
「ッ……な、何、で……?」
「そりゃあ、ここまでしてるのに、うんともすんとも言われなかったら、女としたらやっぱり傷つくよ。私に魅力がないのかなぁって」
「そッ、そんなことはッ、全然ッ……!」
「ふふふ、ありがと♪」
「はうッ!?」
キュッて……ッ!
またキュッて姉ちゃんが、俺の頭をッ……ッ!
だからッ、だから何でおっぱいは、こんなに柔らかいんだよッ!
いったい何が詰まってるんだよッ、おっぱいにはッ!?
「あの、ね……? 私も、なんだよ……?」
「はふ……ッ!?」
俺の頭を抱いた姉ちゃんが、耳元に……ッ?
すごい、小さな声、なのに……ゾクゾクッて!?
何か、頭の奥にまで、響いてくるッ、みたな……ッ!?
「私も……ね? 悟くんを、こうしてキュッて、してると……お腹の奥が、すっごくすっごく、ムズムズ……するん、だよ?」
「ッッッッッ!!!???」
またッ、またおっぱいが俺の口と鼻を……ッ!!
これは危険ッ、だけど……ッ!!
何かッ……何か抵抗する、気力が……ッ!!
おっぱいが、柔らかすぎるのが悪い、のか……ッ!
それとも、姉ちゃんの甘い、匂いがッ……ちょっと泣きそうな声が悪い、のか……ッ!!
もうッ……もう身体が熱くてッ……熱くてッッッ!!
「悟、くん……」
「フーッフーッフーッ……ッ」
「ふふふ…………大好き♪」
「ッッッ!!!???」
おでこ、キス……ッ。
駄目だッ……頭、痺れて……ッ……。
「……悟くん……」
「ぁ……ッ」
姉ちゃんが、俺の顔を胸元から、放して……。
ただでも、真っ直ぐ目を、覗き込む、みたいに……。
それはまるで、吸い込まれる、みたいな……。