第41話 暗闇にベルが鳴る前の、とある童貞の考察。
「ぅぅ、堪らん……」
どうにか食事と風呂を終え、俺はベッドにまた突っ伏していた。
幸せなはずなのに……ッ!
他人が聞いたらっていうか、もし仮に俺が他人から聞かされたら「ふざけんなッ!!」て叫ぶようなシチュエーションなのに……ッ!
(なのにッ! なのに何で俺はこんなに消耗しきってるんだよッ!?)
美人の従姉のお姉さんと同居していてッ!
そのお姉さんから、好きだよって告白されてッ!
おまけにチューまでされちゃったりでッ!
しかもそれを、ばあちゃんに止められるどころか、けしかけられてッ!
(こんなッ! こんな完璧な据え膳状態なのにッ!!)
もし俺がッ!
もし俺が今夜ッ、姉ちゃんの部屋に行っちゃっちゃっちゃったたりした日にはッ!!
そりゃあもうッ、めくるめくムーランルージュ・アモーレがッ!!
(それがわかって、いるのにッ!!)
俺は何をそんな、焦ってる……みたいな気持ちになってるんだッ?
すっごい何か、落ち着かないっていうかッ……居心地が悪いっていうかッ……いっそ、逃げ出したいっていうか……ッ!
これがッ……これが、ばあちゃんの言う、俺のヘタレな面なのかッ?
いざ本番を前にして、俺がビビってるってのかッ?
(否ッ!! 断じて否であるッッッ!!!)
俺は断じて、ビビりでもヘタレでもないッ!!
何故なら俺は、メチャクチャ、セックスしたいと思っているからだ!
さあッ、テンション揚げて行くぞッ!
水嶋悟ッ、お前はッ、ヘタレかッ!?
Sir, No, Sir!
童貞を捨てる覚悟はあるかッ!?
Sir, Yes, Sir!!
姉ちゃんとセックスしたいかッ!?
ッッッ……ッ!!!
(ソコか~ッ、やっぱり、ソコか~~~……)
いや、うん。
何となくわかってた、ような気はしてたんだよな。
いや、俺はホント、ちゃんと姉ちゃんのことが好きだよ?
ただやっぱり、“姉ちゃん”フィルターを外せてないわけだよ。
その辺は多分、アレだ。アシュタルと同じ状態だな。
いや、だから俺はアシュタルみたいなもんなんだけどさ。
んで、姉ちゃんの方はとっとと、その身内フィルターを外してたっていうか……。
いや、違うな、きっと。
姉ちゃんは、身内だっていう偽装をしてたんだな。
その偽装を解いて、本来の感情を表に出してきている、と。
それに俺の方がついていけてないんだろうな、きっと。
うん、我ながら完璧な自己分析だぞ。
姉ちゃんのことは好き。
Hだってしたい。
でも何か、ソコに踏み出せない。
その理由は、俺がヘタレだからではない、ということが証明できたな!
いや~、めでたしめでたし。
と、俺が見事な解決を見た時だった。
「ッッッ!!??」
部屋の中にスマホの着信音が鳴り響く。
ビクッと、俺はベッドの上で飛び上がった。
「なッ、なッ、なッ……ッ!?」
俺はベッドの隅に飛びのいて、机の上のスマホを見る。
着信音を鳴らしながら、ヴーッヴーッと震えている。
俺は、ドキドキと激しく心臓を鳴らしながら、ゴクリと唾を呑んだ。
いやいやいや。
別に電話がかかってきたくらいで、ここまでビビる必要はどこにもない。
電話だメールだなんて、いつものことだ。
が、しかし。
「お、おぉう……」
パネルに表示されている名前に、思わず呻きが漏れてしまう。
それは、ある意味、予想どおりの相手ではあった。
出るべきか、出ざるべきか。
迷う俺をせかすように、コールは鳴り続ける。
このまま無視しようか……と、チラリと思う。
が。
何故、電話に出れなかったのかと、後で詰問されるのが目に見えている。
その時に、上手く誤魔化せる自信が……ない。
「ッ………………ふぅぅぅぅ……」
俺は大きく息を吐くと、手の汗をズボンで拭ってからスマホを手に取った。