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第04話 アシュタル……勇者アシュタルと、人は呼ぶ。


「うむ、いい風だな」


 屋上を吹き抜ける風が、魔王の長い髪をたなびかせる。

 魔王はその髪を手で整えて、機嫌良さそうに笑う。

 俺は、そんな魔王を、息を詰めて見つめていた。



「どうした? そんな怖い顔をして」

「い、ッ、いや、その……ッ」



 怖いのはお前だろうが! と言いたかったけど、もちろん言えない。

 下手に機嫌を損ねたら、速攻、殺される。



(ッ……ていうか、反則だよな、ホントに……)



 俺は、なるべく目を合わせないようにしながら、魔王の様子を観察する。



 ハッキリ言おう。

 美少女だ、と。



 TVで見る、その辺の芸能人よりずっと美人だと思う。

 そう、可愛いってより、美人。綺麗系。

 あと、魔王っていう性質? 人柄? のせいなのか、何かすごい大人びた印象もある。

 それがまた、その整った顔立ちにマッチしている。



(でも、魔王なんだよな……)



 問題は、正にそこだ。

 これが魔王でさえなければ、美人の転校生と二人っきりなんてシチュエーション、正直、そそるのにっ!



(でも、コイツは魔王なんだよッ……!)



 見ろ、この、堂々とした立ち姿!

 何かこう、屋上からの景色を楽しんでいる、とかじゃなしに、そう、睥睨しているってヤツなんだよ!

 そうやって見れば、口元の笑みも何かこう、企んでそうだし!

 絶対、どこから壊すのが面白いかな、とか考えてるって!


 見た目は超美人な女の子なのに、その立ち姿がもう完全に魔王!

 俺の記憶にも、バッチリ一致してるよ!




「さて、お前の名前は……今は、水嶋だったな?」

「ッッ!? なっ、何でそれをッ……!?」

「うん? 何でも何も、先生が初めにそう言っていたではないか」

「おッ、おう……ッ、そ、そう、だったな……ッ」



 魔王が“先生”とか言うと、メッチャ違和感あるけど……。

 確かに最初の時、俺の席の隣だからって言って、それで俺の名前を担任が言ってたと思う……。



「改めて名乗ろう。私の名前は、高城緋冴だ。もっとも、お前には“深淵の魔王ルグン”と言った方が馴染みがあるだろうがな。勇者アシュタルよ」

「ッッッッッ~~~~~~ッ!!!!????」



 俺の、声にならない悲鳴が青空に吸い込まれる。

 勇者アシュタル!

 そう! それは“俺”の名前!!!

 深淵の魔王ルグン!

 そう! それは正しく目の前にいる魔王のこと!!!



(マジかっ!? やっぱりコイツ、他人の空似とかじゃなしに、本物の魔王なのかっ!!??)



 いや、もちろん、そうだろうとは思ってた、けど!

 いざ、実際に本人の口からそう言われるとッ……!!



 ていうか、ちょっと待て……ッ!?

 てことは、あの夢ってやっぱり、前世の記憶……ッ!?



(いやいやいや、落ち着け、俺! 結論を出すのは、まだ早いぞ!)



 そうだとも。

 前世とか生まれ変わりとか、そんなのコロコロその辺に転がっているはずがない!

 これはきっとアレだ!

 集団的無意識な何かがシンクロして、夢を共有するにいたったに違いないんだよ!

 そうだよ! フロイト先生もそう言ってるよ!!



「どうした? 顔色が悪いぞ、アシュタル」

「待て~~いっ! 待て待て待て、待て~~~いっ!!」

「うん、何だ?」

「俺の名前は水嶋悟だ! アシュタルなんて呼ぶのは、止めてくれ!!」

「ふむ、なるほど。確かにそうだな。すまなかったな、悟よ」

「ッ、う、お、おう……?」



 何か、魔王のくせに以外に素直だな、コイツ?

 ていうか、クソッ!

 小学校以来、初めて下の名前で呼んでくれた女の子が、何で魔王なんだよッ!?

 俺の青春は、どうなってるんだっ!?



「それでは、悟よ。私のことも、これからは緋冴と呼んでくれ」


 そう言って魔王が、何かこう、「にこっ」みたいな感じで笑って……ッ!?



 ……い、いいい、いや、別に思ってないから!

 俺の青春始まったとか、別にそんな、全然思ってないから!




「それで? 悟よ。お前は相変わらず、生まれ変わったこの地でも、勇者をしているのか?」

「待て~~いっ! 待て待て待て待てちょっと待て!!」



 俺はもちろん、全力でその言葉をさえぎった。


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