第39話 Love Me Tender
「とりあえず、ですね……?」
「うん」
「いや、その……自分も確証……が、あるわけじゃあ、ないんです、けど……」
「うん」
「だからその……魔王って、俺のこと好きなんじゃね? って思ったりは……その……」
「うん」
俺は、取り調べを受ける犯人さながらに、姉ちゃんに自白をする。
もちろん、カツ丼なんて出てこない。
姉ちゃんはただ、俺の言葉に頷いている。
そのプレッシャーに負けて、洗いざらいをまた、白状し終わって……。
それでようやく、解放されると思ったら……ッ!
「それで?」
「はい?」
「それで、悟くんは緋冴ちゃんのことが好きなの?」
「ッッッッッ!!!!!????」
それをッッ……それを聞くかッ!? 姉ちゃんッ!!!
いやッ、それッ、さっきも聞かれた質問だけどさッ!!!
今、この状況で、また投げてくるッ!!??
もう俺のライフはとっくにゼロなのにぃッ!!!!
いやッ、好きか嫌いかで言われたらッ、その……ッッッ!!
でもッ、でもでもでもッ!!
姉ちゃんにそんなッ、いえるはずないじゃんッ!
姉ちゃん、俺のことッ、その……ッ……だしッ!
それを言えば、俺だって、だからッ……ッ……だしッ!!
ぅおおおおおッ!?
何じゃこりゃぁああっ!?
自分でももう、わけがわかんねーよッ!!!!
「ん~……じゃあ、質問を変えよっか」
「う、うん……」
「お姉ちゃんと緋冴ちゃん、どっちの方が好き?」
「ッ……」
「あ、死んだ」
べシャッと潰れた俺の頭上から、姉ちゃんの言葉が降り注がれる。
もう、それに反応する余力もありゃしない。
何か……何か、もう……何なの、これ?
何で俺、こんな修羅場に放り込まれてんの?
これ、前世の報いなの?
そんなもんッ、アシュタル本人に食らわせとけやッ!?
俺はまだ童貞だっつってんだろーがッッッ!!!
「……あのね、悟くん?」
「んひょほうッ!!??」
「はいはい、逃げない逃げない」
姉ちゃんが、何でか俺にッ、向い合せで添い寝ッ、するみたいにしてきて……ッ!
それでとっさに逃げようとしたら、腕を捕まれて……ッ!
いやッ、だからあのッ、そのッ……さぁッ!
姉ちゃんが横になって寝たら、おっぱいがさぁッ!!!
「ふふふふふ、悟くんってホント、そういうところは正直だよね?」
「すみませんねぇッ! おっぱいが好きでッ!」
「いやいや、これはきっと私の教育の賜だよ、うん。隙あらば、おっぱいをアピールするっていうね!」
「何じゃそらッッ!!」
思わずツッコミを入れるけど、姉ちゃんはケラケラ笑ってて。
それがでも、何だかその……優しいって言うより、しんみり、みたいな微笑になって……。
「まあね? さっきの質問に、“お姉ちゃん”って即答してもらえなかったのは、ちょっと残念だったけどさ」
「ぅっ……ご、ごめん、なさい……」
「あはは、いいのいいの。とりあえず、悟くんの気持ちはわかったからさ」
「いや、その……」
何ていうか……姉ちゃんにその、すごい申し訳ないって、いうか……。
う、う~ん……。
何か俺、優柔不断っていうか……流れに流されてる感がすごいよなぁ……?
いかん。いかんぞ、これは。
「でもね、悟くん。一つ、聞いてもいいかな?」
「あ、うん。なに?」
「緋冴ちゃんは、自分のこと、どう思ってると思う?」
「え?」
「私や悟くんは、ロゼッタやアシュタルじゃなしに、奏で悟って思ってるでしょ?」
「あぁ、それね……」
それはちょっと、考えてみた……ことがある。
魔王の場合……多分、主人格が魔王なんだろう。
というか、生まれてきた時から魔王、だったはずなんだ。
でも……。
「高城緋冴として生きてきた、この17年っていうのも……嘘とか、演技とか……そういうんじゃない……と思うんだけど……」
そう。
そんな気が、俺はしている。
俺は、俺とアシュタルを分けて考えられる。
けど、魔王は。
魔王と緋冴は、分けられないんじゃないかなって。
魔王=緋冴ってなってるんじゃないかなって。
あるいは。
魔王は元々、あんな感じの“女の子”だったのかもしれない。
それが、この世界に転生して“高城緋冴”という名前を与えられた、というか……。
そういうような解釈を……俺はしてみたり、している今日この頃だ。
「ふ~ん……? けっこう、ちゃんと見てあげてるんだね、緋冴ちゃんのこと」
「いや、それはその……まあ、いろいろ……」
「まあでも、こっちはアレだよ。ぽっと出の小娘になんて、負けてらんないよってね」
「ぅっ、ぁ、ぃゃ、それは……ッ」
「だいたい、おっぱいでは勝ってるしね!」
「ぅにゅおうッ!? だからッ! だッ、からッ!!!」
「ふふふふふ……♪」
姉ちゃんが、いきなり俺に抱きついて……ッ!
おっぱいが、むにゅってなるのはいつものことッ、だけど……ッ!
何かッ、何か足まで絡められて、くるし……ッ!
それにすっごい、そのッ、いい匂いが……ッ!!!
「あ~あ、でも、“お姉ちゃん”から“愛人”にクラスチェンジか~。ま、お相手が“勇者”じゃ、しょうがないかなぁ? 独占は難しいもんね。しかもライバルが“魔王”だし」
「いやいやいやッ、何だよそれッ! だいたい俺、“勇者”じゃねーしッ!」
「え? まさか“魔法使い”になるつもり?」
「それッ、意味違ーだろッ! 絶対ッ!!!」
「あははははっ♪」
「ふぉおッ!?」
姉ちゃんにしがみつかれたまま、ゴロンって体勢を変えられて……ッ。
マウントを取られるって、いうか……ッ。
姉ちゃんが、上から俺に覆いかぶさるッ、みたいに……ッ。
近い近い近い近い近いッ!
顔も近いけどッ、この距離はだからッ!
だから下を向いたおっぱいがッ! おっぱいが触れてますよッ!? お姉さんッ!?
「ッッ、えッ、えっと、ッ、あッ、あのッ……ッ?」
「あのね、悟くん」
「はッ、はいッ……!」
「こういう聞き方は、卑怯だってわかってるんだけど……」
「はッ、はいッ、何でしょうかッ……!?」
「私のこと………………好き?」
「ッッッッッ!!!!????」
いやッ、だからッ!
だからそういう質問はッ!!!
しかもこの体勢でッ!!??
「駄~目。目を見て、ちゃんと言って」
「ッッッッッ!!!!」
つい、横を向いたら……ッ。
姉ちゃんの手が、俺の頬を挟んで、それで……ッ。
「ん?」
「ッ……い、いや、その、そんなッ……当、然ッ……」
「うん……」
「ッッ………………す、好き……ですッ」
「………………ぇへ、えへへ……えへへへへへへへ♪」
姉ちゃんが、にま~って……笑い、堪え切れないみたいに……ッ。
いやッ、だからッ!
だからそうやって笑うとッ、おっぱいがッ!
おっぱいが俺の胸の上で揺れてですねぇッ!?
「あの、ね? 悟くん」
「はッ、はひッ!!」
「最後に……もう一つだけ、お願い……」
「ッッッ、なッ、なななななッ、何ッ、でしょうッ!?」
姉ちゃんが、もっと身を乗り出すって、いうか……ッ!
俺の顔の、脇に肘を、ついて……ッ!
鼻と鼻がくっつくくらい、近くに……ッ!
いやッ、それでだからッ、おっぱいもいよいよッ……ッ!!
「名前を、ね……? 呼んで、欲しいな……」
「えッ……?」
「これからは私のこと……“お姉ちゃん”じゃなしに、名前で……ね?」
「ッッッッッ!!!!!」
何ッッッだ、この展開はッ!!!!
死ねるッ! これはもう死ねるッ!!!
俺にどこまで求めてんのよッ、姉ちゃんッ!!!
「さっきは……呼んでくれた、でしょ?」
「いやッ、それはッ、でも……ッ」
「……駄目?」
「ッッッ……ッ!」
姉ちゃんが、ちょっと悲しそうに、俺の瞳を覗き、こんで……ッ!
何かッ……何か何か何か何かッ、何かもうッッッ!!!
「ッ……か、かかッかッ、かかッ……」
「か……?」
「か……ッ……かな、で……さん……ッ!」
「……んふ♪」
「ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
姉ちゃんがッ!
姉ちゃんがッ、ギュッていうかッ、ギュゥウウウウウウッてしてきてッ!!
それで何かッ、何かもうッ!
いよいよわけッ、わかんなくなって、たら……ッ!
「ありがとう、悟くん……ン♪」
「ッッッッッ!!!????」
えッ!? 何ッ!? 何いまのッ!?
唇にッ!? 唇に何かこうッ!! 柔らか熱いのがッ!!??
えッ? えッ? えッ? とか思ってたら、姉ちゃんがパッと、俺の上から起き上がってて……ッ。
「えへへへっ、や~っ、何かやっぱり恥ずかしいなッ。でも、うんッ、ありがと、悟くん♪」
「ぇ、ぁ、ぇ……」
「うふふふふッ……大好きだよ♪」
「はうッッッッ!!!」
姉ちゃんは、メッチャはにかみ笑顔でそう言って……。
パタパタ……と小走りチックに居間から出て行って……。
後に残された俺は……俺は……。
真っ白に燃え尽きた灰となって……風にサラサラと消えていった……。