第38話 VS おっぱい! (違
「………………」
「お~い?」
「返事がない。ただの屍のようだ」
「あはははは、してるじゃない」
「それくらいの気持ちだって言ってんだよッ!」
ちゃぶ台に突っ伏していた俺は、ガバッと顔を上げてそう叫んで。
そしてまた、べシャッとちゃぶ台に潰れた。
「さと~るくん」
「ふぎゅぉおッ!?」
姉ちゃんが、のしってッ!
のしって、俺の背中に覆いかぶさるみたいに、おっぱいをッッ!!??
(ぬふぅううううッ!! この程度でッ! この程度で負けてッ、堪るッッッくぁああああああッッッ!!!)
背中でむにゅむにゅしてる、その感触に俺は必死に抵抗する。
いくら俺がおっぱいが大好きとはいえッ、これ以上、恥辱を晒すわけにいかないッ!
去れよ煩悩ッ! 来たれよ解脱ッ!!
我ッ、円寂の悟道をゆきゆきて、彼岸の菩提を訪れんッ!
滅私滅却没我無心!
開けッ! Nirvana!!!!!!!!!!!!
「ん~……ちょっと、誤解させちゃったかもしれないけどね?」
「…………」
「さっき言ったことは、全部、本当なんだよ?」
「…………」
「だから……私が悟くんのこと……キスしたいとか、そういう意味でも好きだっていう……ね?」
「ぅぐッッッッッ!!!!」
第三艦橋大破ッッッ!!!
駄目ですッ!! 艦長ッッ!!! 敵の猛追を振りきれませんッッッ!!!
そんな馬鹿なッッ!!!
性欲すら浄化しきった涅槃空間なんだぞッ!?
奴らッ、どこから侵入してきたッッ!!!
こッ、これはッ……ッ!!!???
何があったぁッッ!!!!!
違いますッ、艦長ッ!!!
我々はッ、涅槃に入っていたのではありませんッ!!!
我々はッ……我々はッ!!
我々は最初からッ、おっぱいに包まれていたのですッ!!
何ッ、だとぉッ……ッ!!??
駄目ですッ!!
もはや、仮想領域も維持できませんッ!!
“無の境地”フィールドッ、崩壊しますッッッ!!!
なんてこったぁッッッ!!!!!
「……あれ? 悟く~ん?」
ぺしょ……と、完全に脱力しきった俺を、姉ちゃんがゆさゆさと揺さぶってくる。
もちろん、俺の背中に覆いかぶさったまま。
その、おっぱいで。
「だからッ、おっぱいは止めいっ、おっぱいはッ!」
「ひゃっ!?」
ガバッとまた、勢いよく起き上がって。
その勢いに驚いたのか、姉ちゃんは俺の背中からはがれて、尻もちをついた。
その隙に俺は、ササッと姉ちゃんから離れて向かい合った。
「ん?」
「いやッ、“ん?”じゃなしにさッ」
「ん~ん?」
「いやッ、だから……ッ!」
俺は、1mほどの距離を置いて、姉ちゃんと正座して向き合っている。
できるものなら、もうちょっと距離を取りたかった。
何ていうかもう、背中にはまだおっぱいの感触が生々しいし、目の前にはそのおっぱいが現在進行形で揺れてるし……ッ!
「ふ~ッ、ふ~ッ、ふ~ッ……ッ!」
「何か大変そうだね、悟くん?」
「姉ちゃんのせいじゃんかよッ!?」
「え? 何で?」
「えぇいッ、白々しいッッ!!」
このッ……この俺の心のモヤモヤを、上手く言葉にできればいいのにッ!
自分のボキャブラリーの貧困さが憎いぜッ!!!
「とッ、とりあえず、問題点をまずッ、整理しよう!」
「問題点?」
「そうッ! 姉ちゃんはッ、だからそのッ、ホントに俺のことッ……」
「ああ、うん。そうだよ? そういう対象として、異性として好きって思ってるよ?」
「ぐふッッッ!!!」
何ッッッで、サラッとこういうこと言えるかなぁ?
姉ちゃんこそ、実はアシュタルの生まれ変わりなんじゃないのッ?
アイツはホント、恥ずかしげもなく言いまくってたしな!
俺には無理だけどッ!
「で、ででッも、それっていつから、なのッ!? だ、だいたい、この一年半ほどッ、同居ッ……してたわけッ、でもあるしさッ?」
「ん~……いつからって言うと、けっこう曖昧なんだけど……。でも、実は割りに子供の頃から、ちゃんと好きだったんじゃないかなって思うよ?」
「ッ……な、なるッ、なるほど……ッ」
いかん……ッ。
めっちゃ動悸が激しいッ……!
これ以上は、俺の心臓がもたねーんじゃねーのッ?
ていうか、この問題の着地点はどこなんだッ?
えっと、何でこんな話になってたかって言ったら……ッ。
「あ、でもアレだよ? 何で急に、こんな告白したのかって言ったら、もちろん、悟くんがデートしちゃってたからだよ?」
「ッッッ!?」
「うん、そう。あの“魔王”と、ね?」
「ぅぐっ……くふぅぅぅぅっ……ッッッ!!」
そうだったッ、そうだったよッ!
何かつい、おっぱいのせいで忘れちゃってたけどッ!
そもそもの原因は、うん、それだったんだッ!
「悟くん?」
「あッ、いや、うッ、うん……ッ! でもッ、でもアレ、デートっていうか、いろいろアレだったんですだよッ!?」
「ですだよ?」
「いや、だからぁッ……ッ!」
それで、俺は姉ちゃんにとくとくと語った。
魔王が転校してきてからの、この一週間のアレコレを。
そして、いかにして魔王と今日、街に繰り出すに至ったか。
そして、その最中にいったい、何が起きたか。
もちろん、魔王が魔王としてヤンキーもどきを一蹴したことも含めて。
包み隠さず、ありのままに。
「ふ~ん……なるほどねぇ……」
「お分かりいただけましたでしょうか?」
「うん、もちろん。緋冴ちゃんが悟くんのこと好きなのが、よく分かったよ」
「ぅおおおいッ!? 聞いてたッ!? 俺の話、聞いてたッ!?」
「聞いてたから、そういう結論に至ったんじゃない」
「ぬぎゅぅっ……ッッ!!!」
やっぱりッ……やっぱりそうなのかッ!?
客観的に見ても、魔王って俺のこと、好きなのかッ!?
それはッ……それはそのッ、何ていうか……ッ!!!
「………………悟くん?」
「ッッッッッッッッ!!!!!!?????」
馬鹿馬鹿馬鹿ッ、俺の馬鹿ッ!!
なによっ、この節操なしッ!!
姉ちゃんの前で、他の女の子のこと考えてニマニマするなんて!
俺はもう、今日一日で何回目か分からない、死を覚悟した。