第35話 お姉ちゃんには敵わない!
「……ちなみにさぁ……ッッ!?」
「なぁに?」
何か俺は、いろいろ疲れてちゃぶ台に突っ伏したまま、首を曲げて姉ちゃんの方を見る。
姉ちゃんは……。
姉ちゃんは、「よいしょ」ってな感じに、ちゃぶ台に乳を乗せて、それでもって両肘をついて、そこにアゴを乗せるみたいにしていた。
いや、いいんだけど……いいんだけどさッ!
それだとだから、余計におっぱいがねッ!?
アンタ、絶対わざとやってるでしょッ、それッ!?
「ん?」
「えッ、あ~ッ、いやッ、アレだよッ……! 姉ちゃんはいつ、その、前世のことを思い出したの?」
「悟くんに会った時だよ」
「え?」
「悟くんが生まれた時、私も病院に会いに行ってたんだよね。その時にね、いっぺんに全部、思い出した感じかな?」
「ッ……そう、だったんだ……」
身体を起こした俺は、姉ちゃんの顔をジッと見つめていた。
姉ちゃんは、いつものようにニコニコしている。
「どうかしたの?」
「……いや、うん……」
ということは、姉ちゃんは、俺が生まれてこなければ、前世の記憶を思い出さなかったのかな……とか。
前世の記憶を思い出すことって、いいことだったのかな……とか。
そんなことをつい、考えてしまう。
「さと~るくん?」
「……ん?」
「えへへ~♪」
「ふぐッ!? 何するんだよッ?」
「いやいや、暗い顔してるからさ」
姉ちゃんに、いきなり“ふにっ”と頬を軽くつねられて。
俺はその頬を手で押さえて怒るけれども、姉ちゃんはケラケラと笑っていたりする。
「いや、俺だっていろいろ、考えたりはするんだよ」
「例えば、どんな?」
「それは、その……ッ」
「お姉ちゃんのおっぱいは、大きいなぁ、とか?」
「いやッ、それも考えてるけどさぁッ!!」
「あははははっ♪」
やっぱり姉ちゃんは屈託ないって感じで笑って。
俺はもう、怒りたいのに、顔が熱くなっちゃってて。
それで、「ぅ~っ」て唸るみたいにしながら、姉ちゃんを上目遣いに睨んだ。
「あはは、ごめんごめん。ホントは、何だったの?」
「………………いや、うん……」
それは、聞いてもいいことなのかが……分からない。
姉ちゃんは、俺のことを可愛がってくれる。
今もこうして、気にかけてくれている。
それは、でも……。
(俺が、勇者アシュタルの生まれ変わり……だから?)
それは正直、聞いていいかとかじゃなくて……聞くのが、怖い。
そうだよとか、普通に笑顔で言われたら……。
それは……それは、何て言うか、その……。
「ねぇ、悟くん」
「………………うん?」
「私はね? ロゼッタの記憶も能力も受け継いでるよ? だから、生まれ変わりって言ってもいいと思うんだ」
「………………うん」
「でもね? それでもやっぱり、私はロゼッタじゃないって、そう思うんだ」
「………………え……?」
ちゃぶ台を見つめていた視線を……姉ちゃんに、向け直す。
姉ちゃんは、いつもみたいに、にこにこ、笑ってて……。
それは、でも……。
それこそ、“聖女”っていうような、優しい……ッ。
「私はね、悟くん。私は、水嶋奏だよ? 悟くんの、お姉ちゃんの」
「ッッッ……!!」
息を、飲む……ッ。
頭が、ジーンッ……て、芯から痺れて、きて……ッ。
目を、パチパチさせて、姉ちゃんを、見て……。
姉ちゃんは、やっぱり優しく笑った、まま……ッ。
「私が悟くんを好きなのは、悟くんが、悟くんだからだよ?」
「ぅぐッッッ……ッ!!」
つい、我慢できず、声っていうか、息が……ッ。
目が何か、ホントに熱く、なってきてて……ッ。
込み上げてくるモノを押さえようと、頬の内側を、噛んで……ッ。
「ふふふ……いい子いい子」
「ッ、ちょっ……だから、そういうのは止めてくれって、言ってるだろ……ッ」
手を伸ばしてきた、姉ちゃんが……俺の頭を、撫でる。
俺は、そんな風に言いながらも、姉ちゃんの、されるままになっていて……。
何か、すごくホントに、頭が痺れてる、みたいで……。
そうし、たら……。
「頭を撫でられるの、イヤ? じゃあ、おっぱいでしてあげようか?」
「台無しだよッ!?」
「あはははは♪」
思わず、ガバッと勢い良く顔を上げて。
姉ちゃんは、それこそ、おっぱいを揺らして笑ってて……ッ。
何て言うか……何て言うか、もう……。
姉ちゃんには敵わないなぁって……言うしか、なかった。