第34話 ロゼッタ≠姉ちゃん≒おっぱい
“聖女”ロゼッタ。
その世界において、彼女の名は“勇者”アシュタルに並ぶ英雄として讃えられている。
もちろん、アシュタルの仲間は他にもいるのだが、中でもやはりロゼッタの名が、群を抜いて有名だ。
それはあるいは、彼女の出自にあるのかもしれない。
彼女もまた、孤児院の出だ。
それも、アシュタルと同じ。
年長だったロゼッタは、アシュタルのいたずらの後始末をよくこなし、そしていたずらをしたアシュタルを、よく叱っていた。
大人の言うことは聞かないアシュタルも、ロゼッタに叱られると、渋々ながらも反省の素振りくらいは見せたものだ。
長じて、相応の歳になった頃。
アシュタルが「俺は自分の腕で成り上がってやんよッ!」と気炎を揚げた時。
ロゼッタは「一人で行かせる訳にいかないよ」と、アシュタルの旅に同行することになる。
この時、既に彼女は、孤児院を運営していた司祭の手ほどきにより、初級の治癒魔術を習得していたのも大きい。
何かと面倒見の良いロゼッタだが、実は意外と頑固という一面も持ち合わせていて。
元より、ロゼッタには頭の上がらないアシュタル。
彼女の同行の申し出を断れるはずもなく。
すなわち。
勇者アシュタルの旅は、聖女ロゼッタとともに始まったのであった。
と、いうことですが?
現場の佐藤さんッ!?
はいッ、こちら現場の佐藤ですッ!
幼い頃から面倒を見てもらいまくっていた、そして自分もなつきまくっていた、実の姉のように思っていた従姉が!
前世でも、同じようなポジションにいたという事実にッ、水嶋悟(17才 童貞)は、まだ混乱の最中にいるようですッ!!
(やかましいわッ! いちいちいちいち、童貞童貞うるさいんじゃッ!)
俺は、自分の中で勝手に始まった実況中継を一蹴する。
けど……ッ!
(姉ちゃんが、“聖女”ロゼッタ? マジで? マジで? マジのマジのマジマジで???)
「ん?」
「あッ、いいいッ、いやッ、その……ッッッ」
つい、マジマジと姉ちゃんの顔を見ちゃってたりして……。
いや、でも……言われてみれば、確、かに……ッ!
何で気付かなかったんだろうっていうくらい、姉ちゃんとロゼッタは、よく似ている。
いや、もちろん、顔の造形なんかはけっこう違う。
髪の色だって、ロゼッタは割りに綺麗な金髪だったし、顔立ちだってだから、ヨーロッパ系だった訳だしな。
でも。
それでもやっぱり、全体的な印象は、良く似ている。
姉ちゃんもロゼッタも、ほんわかした印象の、かわいい系の美人だ。
(そして何より、乳がデカい!!)
「悟くん?」
「あっ、いえッ! 何でもないですッ!!」
もう一つ、最大の共通点があった……!
笑顔で怒る!
そして、その笑顔が何より怖いッ!!
(そんなッ……そんなわかりやすい共通点があったのにッ!)
俺は、ロゼッタと姉ちゃんを繋げることができていなかった。
何という浅はかさ……ッ。
いや、でもだからさぁ?
いくら雰囲気が似てるって言ったって、ヨーロッパ系とアジア系を同一人物とは見ないってば。
だいたい、俺にとって姉ちゃんは姉ちゃんだったんだからさ。
(ッ……いや、でも……)
そこで俺はまた、気が付いてしまった。
ロゼッタと、姉ちゃんとの共通点。
それは、姉ちゃん(ロゼッタ)側にあるのではなく、俺の側にある。
(姉ちゃんは、姉ちゃん……)
それは、勇者アシュタルと同じ考え方というか何というか……。
アシュタルはロゼッタのことを、最後のところでは絶対に逆らえない、逆らっちゃいけない相手、と認識していた。
何故ならば。
(姉ちゃんだから……)
何というインプリンティング。
いや、アシュタルはたいがい、ロゼッタにわがまま言い放題で、迷惑をかけまくってたんだけどな?
それでもっていうか、それだからこそ、かな?
ロゼッタが本気で嫌がるとか、悲しむようなことだけは、絶対にしなかった。
ある意味、行動の判断基準にロゼッタがいたと言っても良い。
で、俺だ。
姉ちゃんとの同居が始まったのは、この一年ちょっと。
それまでにももちろん、一緒に過ごすことは多々あって……。
俺の人生の中で、姉ちゃんの影響は計り知れない。
「……むぅ……」
「どうしたの、悟くん?」
「いや……うん……人生について考えてた」
「あはは、どうしたの、急に?」
「いや、そりゃ考えるでしょ? 自分の姉ちゃんが、前世でも姉ちゃんだった、とか言われたらさ」
「あ~、なるほど。そうかもねぇ」
そう言って姉ちゃんが、屈託なくって感じに笑う。
そんな程度でさえ、姉ちゃんの乳がたゆんってなる。
さすがだ。
「悟くんって、ホント、おっぱい好きだよね?」
「失敬なッ! 俺がおっぱいが好きなんじゃないッ! その大小を問わず、男はみんなおっぱいが好きなのッ! 俺がおっぱいを好きなのは、俺が男だからなのッ!」
「あはは、でも今、おっぱいが好きって言っちゃってるじゃない」
「はいッ! 大好きですッ!」
「じゃあ、触ってみる?」
「なんば言いよっとですかッ!!??」
姉ちゃんが、「どうぞ?」みたいに、おっぱいを下から持ち上げて……ッ!
クソッ! クソッ! クソッ!
超触りたいッッッ!!!!!!
あの、ふわっふわなましゅまろおっぱいをッ、むにゅってしたいわあぁああああああッッッ!!!
「くぅぅっ……ッ!! 鎮まれッ、俺の右手ッッ!!」
俺は、今にも暴走しそうになる右手を、左手で必死になって押さえ込む。
それでも右手は、その左手を引きずるようにしながら、姉ちゃんのおっぱいへ伸びかかる。
俺はそれを、左手で必死になって引き戻す。
「大丈夫、悟くん?」
「姉ちゃんのせいじゃんかッ!」
「え? 何で?」
「おっぱいを触ってみる? とか言うからだろッ!?」
「え? 駄目だった? でもホントに、触ってもいいよ? ホラ」
「タプタプは止めなさいッ! タプタプはッ!!!」
姉ちゃんが、下から持ち上げたおっぱいを、ホラホラと揺らしてみせる。
そのッ……!
その波打つ様に俺はッ!
俺はッッッ!!!
(姉ちゃんと、ロゼッタの違いを見つけたぞ……ッ!?)
クワッと目を見開き、おっぱいを凝視しながら心の中で叫ぶ。
そう。
姉ちゃんの方が、ロゼッタよりもおっぱいが大きいッ!!
いや、違う。
違わないけど、違う。
だから、そうじゃなくて。
ロゼッタは決して、こんな風にアシュタルをからかったりはしなかったってこと。
ていうことはやっぱり、前世の自分って、そのまま今の自分とは違うんでないの?
俺だって、=アシュタル、じゃあないしな。
そんなことを俺は、揺れ弾むおっぱいを見つめながら考えていた。