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第31話 修羅場は続くよ、どこまでも!


「悟。今日は本当にありがとう。おかげで、とても楽しい一日だった」

「そうか。なら、俺も付き合った甲斐があるってもんだよ」



 魔王のマンションの、その前で。

 俺は魔王と、そんなやり取りをしていた。



「こっちこそ、お茶をご馳走様でした。それじゃあな」

「あ、悟ッ」

「うん?」



 手を振って、歩き出そうとした俺を、魔王が呼び止める。

 その顔は、何か……ッ。

 何でか……不安そうって、いうかで……?



「どうした?」

「……その……最後に言ったことを、覚えている……か?」

「最後って、どの?」

「お前が、玄関に向かう前の、だ」

「うん……? ああ、うん」



“次の時”のことだな。

 そりゃまあ、覚えているけど……。



「……次もまた……こうして、私とデート、してくれるか?」

「ッッ……!?」



 なッ、何という、破壊力……ッ!

 今、まさかまた“デート”という言葉で、これほど動揺させられるなんて……ッ!

 今日一日で、俺はリア充レベルが5は上がったはずなのに……ッ!

 こんなッ……こんなまるで、初めて実戦に投入された新人みたいに……ッ!?



「……駄目……か?」

「ぐふぅううッッ!!??」



 クソッ! クソッ! クソッ!

 この天然魔王めッ!!

 そんな上目遣いで見られて、断れる男がいたら連れて来いッ!

 小一時間、説教してやるッ!!



「いやいやいや、誰も駄目なんて言ってないだろ? OKOK、任せとけ。お前がお望みなら、いくらでも付き合ってやるよ」

「そうかッ!」



 うぐぉおおおおおッ!?

 なんちゅうセリフを吐いとるんじゃ、俺はぁああッ!!

 クセェぇえええッ!

 コイツは偽善者の匂いがプンプンするぜぇええッ!!



 けどッ! けどッ!

 だから、今の以外の答えの、何があるっていうんだよッ、ドチクショウがぁあああああッ!

 いいじゃんッ、いいじゃんッ、もうッ!

 女の子が嬉しそうに笑ってくれてるんだから、それでいいじゃんッ!!

 そうともッ! それが魔王であろうとも、可愛い女の子なんだからッ!!



「あ、でもそうだ。次の時は、お前ん家に来るってのは、なしにしようぜ」

「む、どうしてだ?」

「いや、お前の親父さんが、変な誤解とかしたら、嫌だろう?」

「……ふむ……?」



 俺の付け足した言葉に、魔王がちょっと首を傾げる。

 そうしながら、視線を上にやった魔王が、小さく頷いた。



「確かに、二人でいるところを父に見られるのは、少々、気恥ずかしいというのは分かる」

「おおッ、分かってくれたか? だろうだろうだろう? だよな? な? な? な? だから――」

「だから次の時は、私の部屋に行こう」

「…………………………はい?」



 今度は、俺が首を傾げる番だった。

 そんな俺に、魔王が少し恥ずかしそうに笑う。



「私の部屋に、父が入ってくることはないからな。安心だぞ?」



 何が安心なんじゃボケぇええええええええッ!!!

 入ったが最後ッ、出てこれねえじゃねえかッ!!!

 出た瞬間ッ、頭と胴体がサヨナラするよッ!!


 ていうかッ!

 それを言ったら、入ろうとした瞬間に殺されるわッ!!!!!



「だッ、大丈夫だ、部屋はいつも、キチンと片付けている。悟に見られて恥ずかしいものなど……ッ、い、いや、悟になら、見られても私は平気だぞッ?」



 アホーーーーーーーーッッッッッ!!!!

 何を部屋に置いてるんだよッ、お前はッッッ!!!??

 メッチャ気になりますやんッ!?

 そんな、ちょっと恥ずかしそうなッ、でも頑張ったような風に言われたら、気になりますやんッ!?

 見せてって言ったら、今、見せてくれたりしますんッ!?

 お兄ちゃん、ちょっと言いたくなってきてしもうたわッ!!



「ということだから、悟、次は私の部屋でデートだな!」

「は、はは、は……そう、だな……ッ」

「ふふふふふ……」



 俺の寿命は、今、決まった。

 あと、一週間だ。

 一週間後に、俺は、死ぬ。

 それまで悔いのないように、精一杯に、生きよう……。



「それでは悟、また来週と……それと、もちろん学校でも、よろしく頼むぞ」

「お、おう……任せとけって」

「ふふふ」



 俺は、どうにか笑顔を浮かべてそう言って。

 魔王も、嬉しそうに笑って……。


 そうして、俺は魔王と別れて……。

 角を曲がる前に、一応、マンションの方を振り返ってみたら……案の定、魔王がこっちをまだ見送っていて。

 俺が手を振ると、魔王は嬉しそうに、手を振ってくれて……。

 それに大きく手を振り返して、俺は角を曲がった。

 そして……。



「っっぷはぁぁぁ~~~……ッ……あ~~~~、疲れた~~……。マジ、寿命が五百年ほど縮んだわ……」



 俺は、ヨロヨロと足をふらつかせ、道路の端にへたり込んでしまう。

 いや、もうホント。

 シャレにならないくらい消耗してるのが分かる。

 魔王パパとのやり取りもキツかったけど、最後の魔王とのやりとりにも、ゴッソリ、精神力を削られていった。



「あ~……ホンットに……こういうのって、慣れるもんなのかぁ?」



 世のリア充は……こういうイベントをそつなくこなしているんだろうか。

 ……まあ、アシュタルの例は参考にならない。

 奴は、リア充っていうか……そういう面でも規格外だったしな。

 基本、来るものは拒まず……だったしさぁ……。

 そのくせ、自分からも追っかけるんだぜ?

 お前は、どんだけ女好きだっちゅうねん。

 いや、俺のことだけどさ?



「は~……まあいいや、そのことは。とりあえず、帰ろう」


 よっこらしょと、俺はどうにか立ち上がって。

 パンパンと、ズボンの尻を手で叩いて。

 そうしてまた、多少ヨロめきながらも、家に向かって歩き始めた。

 そうして……。






「ただい………………」

「お帰りなさい、悟くん♪」

「ッ………………た、ただいま、なさい……ッ」



 家に帰って、扉を開けたら。

 姉ちゃんが、すでにそこに立っていた。

 超にこにこの、笑顔で。



「は、はは、は……ッ」



 本当の修羅場は……ここからだった。


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