第03話 地獄の門が開いていく……
「もう~~~~っ、無理無理無理無理! 絶ッッッッッッ対、無理ぃぃぃぃいいいいいいっっっっっっっっ!!!」
俺は、屋上に続くドアをガンガン叩きながら叫んでいた。
いや、ホントは屋上で叫びたかったんだけど、鍵かかってたし。
まあ、そんなことは置いといて!
「無理ッッッ! ホンっっっっト無理っ!! マジ勘弁してッッッ!!!!」
ガンッ! ともう一度強くドアを叩いて叫ぶ。
もうホントに、どうやっても無理だから!
何でお前、魔王と机を並べて授業を受けなきゃいけないんだよっ!?
よく一時間目は我慢できたよ、俺っ!
でも、もう無理だからッ!
あのね? ちょっと考えてみてよ?
俺は、夢の中ではあったけれども、ゲームなんかとは比較になんないくらいリアルに、剣と魔法の世界を体験してんの。
もう一個の現実っていうくらい、リアルにさ。
んで。
そこでの魔王って、ホンットにマジもんの魔王なんだよ。
今でもゾッとするくらい。
ホント、一撃でアイツ、城壁を粉砕したんだぜ?
やろうと思ったら、城そのものを壊せたって、絶対、そう思う。
おまけに、こっちの魔術師部隊の決死の一撃は、アッサリ受け止めてたしな!
とにかく、魔王ってのはそんくらい、マジ、レベルの違う存在なわけ。
それが隣にいて、授業受けてるんだよ?
考えられる?
「ありえねーだろっ!!!!」
いや、百歩譲って、魔王が授業を受けてるのは認めよう!
けど、だから魔王なんだってば!
アイツがちょっとでも、「あ~、学校ってめんどくせ~」って思った瞬間、すべては灰燼と化す! くらいの奴なんだよ!
その隣に、普通に座ってられるわけないって!!!
は? 何だって?
お前は“勇者”だろうって?
だ~か~ら~、それは“夢の中”で、なんだってば!
百歩譲って、それは“前世”の話なの!
そう、ソコなんだよ!!
大事なことだから、もう一回言うぞ?
俺が勇者だったのは、“前世”の話なの!
今の俺は、普通の高校生なの!
前世の記憶(?)を持ってるだけで、その能力は持ってないんだよ!!
そう!
俺は前世の勇者の記憶と能力を引き継いだ、スーパー・チート高校生!!!
ではなくて!!!
前世の記憶(?)だけを持った、わりかし普通の高校生なの!!!!
魔王と戦う力なんて、今の俺には全然ないのっ!!!!
OK、OK、分かってる。
俺が前世の記憶しか持ってないんだから、魔王だってそうだって、それは考えられるとも。
けどな?
どこの世界に、あんなオーラをまき散らす女子高生がいるってんだよ!!
そりゃあ、そりゃあな?
よくTVでも、芸能人にはオーラがある、とか言うよ?
けど、それってあくまで、存在感があるとかって、そういうレベルだろ?
せいぜい、下手に触ると斬られそうとか、そういうのじゃん?
まだ人間のレベルじゃんか。
でも、俺の隣にいるのは魔王なんだよ!!!!
一撃で、こっちの最強防壁をぶち破って、俺の腕を引き千切った魔王なんだよ!!!
アイツは、その魔王と同じオーラを放ってたんだよッ!!??
だから、俺に勇者の力があったら、ここまで焦らないさ!
でもな、例えそうであっても、やっぱり焦ったとも思うんだ。
何しろ、前世の俺には、勇者の能力だけじゃなしに、勇者に相応しい仲間がいた。
その仲間たちの力があってこそ、俺は魔王と戦えた。
でも、今はどうだ?
俺は一人だ。
おまけに、勇者の力なんて持っちゃいない。
だったら……だったら、もう……ッッッ。
「よし、今日は帰ろう!!」
「おや、それは残念だな。どこか具合いでも悪いのか?」
「は……?」
「どうした?」
「ッッッッッ!!!!!?????」
驚きすぎて、心臓がッ……ッ!?
いや、でもッ、そんな、ことより……ッ!!
「ていうかっ! ていうかていうかていうかっ! 何でッ、何でお前がココにっっっっっ!!!???」
俺は、その屋上のドアの手前の踊り場チックなそこの、その角に背中をつけながら悲鳴を上げる。
相手はもちろん、魔王だ。
そんな俺に、魔王はふって笑って……ッ。
「もちろん、お前の後を追いかけてきたからだ」
なんて軽く言ってきて……ッ!!
「いやっ、何でだよッ!? 何でそんなっ……ッ!!」
「昔馴染みと会えたのだから、語り合いたいと思ってはいかんのか?」
「ッッッッッ……ッ!!!!!」
魔王は、ちょっと不服そうに、そう言って。
それだけで俺はもう、それ以上の反論は、できなくって。
だってお前、魔王の機嫌を損ねたら、どうなることか……ッ!!
「まあ、そうは言っても今は休み時間の最中だ。あまり時間も取れんしな。手短に済まそうか」
そう言って魔王は、ガチャッと、ドアを開けた。
鍵のかかっていた、そのドアを。
「ッ……」
「どうした? せっかくだし、屋上の方が良いだろう?」
魔王は、そう言って、ドアの方から俺を誘う。
……文学的に言うなら。
それは間違いなく、俺にとっては地獄の入口に、他ならなかった。