第29話 VS お義父様!
「ほう、そんなことが」
「そうなんだよ。正直、あの時は大変だった」
「ふふふ……」
何だかんだで、俺は今、魔王と談笑していた。
魔王は俺の隣で、ソファの上に女の子座りで座っている。
クッションを胸元に抱えて笑う姿が、あざとすぎて超カワイイ!!
俺は俺で、ソファに横向きに座って、背もたれに肘を付くみたいにして座って、身体ごと魔王の方を向いていたりする。
それで、時々、魔王の剥いてくれたフルーツなんかを食べちゃったりもして。
(何コレ? 俺、ハイソ系リア充???)
このマンションに通された時のビビりっぷりは、どこへやら。
俺は、自分の環境適応能力に、ちょっとビックリしていた。
何だよ、俺。やればできるじゃん。
その自信が、命取り。
「ただいま~」
「うん?」
「ああ、父だ」
「父ぃッ!?」
しまったぁあああッ!
その可能性は完ッッッ全に忘れてたぁッ!!!
魔王、父子家庭っていってたじゃんッ!!??
やっべぇっ!
いきなり部屋に上がってるって、けっこうマズくね??
「どうした? そんな急にバタバタと」
「馬っ鹿、お前、初めてお前の親父さんに会うってのに、下手な格好できるかッ」
慌てて居住まいを正した俺は、魔王に小声で強く、抗議をする。
魔王は、「あぁ」と頷いたのだが……。
「ふ、ふふ、ふふふふふふふふふ……」
「痛ッ!? 痛てててッ!? チョッ、マジ痛いだろッ、コラッ!?」
何かその指先で、グリグリグリグリ、俺の腕の筋肉をえぐってくるッ!!??
いやッ、だからお前は自分が魔王だって自覚をもっと持てッ!!!
筋肉の隙間に入らなくっても、マジ痛いからッ!!
秘孔を突かれてないのに、腕が吹き飛びそうだぞッ!?
「だから痛いっつってんだろッ!!??」
俺は魔王の手首を掴むと、ダンッとばかりの勢いで、ソファの座面に叩きつけた。
魔王が、不満そうに唇を尖らせる。
「辛抱が足りないぞ、悟。乙女の、ちょっとした照れ隠しではないか」
「誰が乙女だッ!? 仮にそこをスルースキル全力でスルーしても、今の流れで、どこに照れる要素があったよッ!?」
俺は、魔王の腕を押さえつけたまま、さっきの仕返しとばかりに、デコでグリグリグリグリ押し込んでやる。
もちろん、俺のデコの方が痛いッ!!
魔王はヤられても、平然としてるからなッ!!
だが、男にはヤらねばならん時があるッ!!
「それはもちろん――」
そうやって、魔王がやっぱり平然と答えてきた時だった。
ガチャっと、ドアが開いたのは。
「ただいまー、緋冴、パパ、帰った……ッッッッ!!!」
「ッッッ!!??」
「うむ。お帰り、父」
俺と、魔王パパとが凍りつく。
そんな中、魔王だけが平然とパパに挨拶を返している。
俺はもちろん、魔王パパの凍りついている理由を、瞬時に理解していた。
だが、今から飛び退いても、もう遅い。
バッチリ、見られている。
・男が。
・リビングのソファで。
・娘の腕を、押さえつけるように握りしめ。
・おデコをくっつけている。
ここで、「ごめんね~。うちの娘、意外に力が強いもんね。指で、腕をグリグリされてるだけなのに、千切れるッ!? って思うくらい痛いよね?」と、どこの父親が男の方を気遣うだろうかッ!?
もし、そんな気遣いを見せてくれたら、俺は一生ついていくねッ!!
ていうか、そんなの、エスパーじゃないと無理だよねッ!!
そして当然ながら、魔王パパはエスパーなんかじゃなかったッ!!
だってどう見てもッ!
客観的に見たらッ!
俺と魔王の今のこの体勢って、マズすぎるよねッ!!??
「は、はは、はっ、初め、まして……ッ……ひさ、緋冴ッ、さんの友達の、水嶋悟ッッ……と申しまヒュッ……!」
「あ~、キミが悟くんか~。キミのことは、緋冴からよく話に聞いてるよ~」
魔王パパは、爽やかなイケメンだった。
普通に考えたら、40半ばくらいだと思うんだけど、30前半で通りそうな若々しさだ。
服装も、シャツにチノパンと普通にラフっぽい格好なのに、すごい様になっている。
笑顔もチャーミングで、きっと会社で若いOLにモテモテに違いない。
ただし。
ただし、今はその笑顔が死ぬッッッほど、怖いです。
目が笑ってません。
姉ちゃんが怒ってる時の笑顔にソックリです。
「そうか~。キミが悟くんか~。いやいや、嬉しいよ。引っ越して一週間も経たないうちに、手を握り合い、名前で呼び合える“友達”が緋冴にできるなんてね」
「ッッッッッ!!!!????」
その一瞬。
その瞬間だけは、俺は勇者の身体能力を取り戻していた。
ソファに座った姿勢のまま、バンッと宙を飛び、5mは離れた床に正座して座っていた。