第27話 突撃! 魔王の晩御飯! いや、まだ昼間ですけど。
「悟。そろそろ、お茶にでもしないか?」
「ん~? そうだなぁ」
魔王が、そんなことを言い出したのは、3時を回った辺りだった。
確かに、昼食の後にバタバタがあったし。
それを済ませてからは、またブラブラと街を歩いたりで、休憩があってもいいかなぁとも思う。
ちなみに、今いるのは、商店街から南に進んだところにある、馬鹿デカいショッピングモール。
最上階はレストラン街だし、一階にはフードコートがある。
サイフに優しいのはもちろん、フードコートだ。
(最悪、それこそ100円で粘れるからな!)
とは言っても、魔王(女の子)のいる手前、あんまり貧乏ったらしいマネもしたくない。
そういう見栄が、財布にダメージを与えてくれるのだが、ばあちゃんが言っているのだから仕方がない。
“男は、女に見栄を張るくらいでちょうど良い”と。
「じゃあ、どうする? 下で、適当にポテトかアイスでも食べるか?」
「いや、どうせなら、ゆっくり寛げる場所が良い」
「う~ん……」
魔王の言うことも、まあ分かる。
フードコートは、割りに騒がしいからな。
かと言って、店に入ったにしても、モールの中の店って基本、何か騒がしいというか何と言うか。
(だとしたら、どっか適当な喫茶店か……)
幸いにして、心当たりはある。
ばあちゃんも姉ちゃんも、魔王と同じ考えをするタチだから。
座れればどこでもいい、というようには、あんまり考えない。
いや、姉ちゃんはけっこう妥協するけど。
ばあちゃんは、フードコートは論外派なのだ。
ていうか、ばあちゃんの知り合いの喫茶店も、メッチャ近くにあるし。
「それじゃあ――」
「ということで、悟よ」
「うん?」
「案内するから、付いて来い」
「お、おう?」
何か、魔王に心当たりがあるっぽい。
とりあえず俺は、魔王に付いて行くことにした。
「んで? どんくらい歩くんだ?」
「ものの10分もかからんぞ」
「さいですか」
ショッピングモールを出て、通りを歩いていく。
住宅街なので、車の交通もそんなにない。
ただ、こっち方面にはマンションの数が増えてくるので、そういう住民の車が通ったりはする。
「そういやあさぁ、お前ん家って、こっち方面だっけ?」
「うむ。もうすぐそこだ」
「へ~」
そうなのだ。
魔王も、最近できたマンションに住んでいるらしい。
基本、分譲のマンションなのだが、賃貸で出ていたとかなんとか。
賃貸とはいえ、新築のマンション。
魔王の親父さんは、けっこう稼いでいるとみた。
「こっちの方って、実はあんまりこないんだよな~」
「そうなのか?」
「俺の用事はだいたい、商店街か、せいぜいさっきのショッピングモールで済むからな」
「なるほど。確かにそうだな」
住宅街の中にあっても、ポツポツと、こじゃれた雰囲気の店があったりする。
カフェ的な何かとか、そういうような。
きっと、ハイソな奥様達の御用達なんだろう。
察するに魔王も、そういう店を見つけているとみた。
「さて、着いたぞ」
「うん?」
そう言って魔王が立ち止ったのは、五十階以上は確実にある、馬鹿デカすぎるマンションの前だった。
そこは普通にマンションで、一階にテナントが入っているとかも全然ない。
ていうか、入口というかゲートというか、そういうのもドーンとしっかりある、まるでホテルかと思うような、見るからにお高そうなマンションだ。
「……個人サロンか何かなのか? 会員制の」
「お前は何を言っているのだ?」
「何がだ?」
「ここは、私の家だ」
「……は?」
「ようこそ、悟。歓迎しよう」
「はぁああああああっ!!??」
いきなりの不意打ちに、俺が大声を上げたのは言うまでもない。