第24話 厨二バトルは突然に。……え? 厨二じゃなしに、異能者バトル?? しかもシリアス展開!?
「よう、お疲れ」
「“お疲れ”じゃないわよッ! アンタのせいで、こっちは死ぬかと思ったんだからねッ!」
「俺のせいじゃなしに、俺のツレのせいだろ?」
「彼女のヤったことは、彼氏の責任でしょッ!」
「ッ……い、いや、彼女じゃねーし」
「何、その嘘? そんなの通用する訳ないでしょッ!」
「……」
これは、俺はどう反応したらいいんだ?
魔王みたいな美少女の彼氏と思われることに、ニマニマすれば良いのか?
それとも、もっとこう、恐慌状態をきたすとか?
……何かよく、自分でも分からなくなってきたぞ?
最初に、コロッケのとこのおっちゃんに言われた時は、速攻で否定できたのに……。
(それはつまり、魔王さんが彼女だったらいいなぁと、貴方が思っているからですよッ!!)
ぅおッ!?
だから急に出てくんなよッ、お前(俺)はッ!!
いや、もう、はい、わかってる。わかってますとも。
俺も、「魔王が彼女だったら、案外、アリじゃね?」って思ってますッ!
そうだったらいいなって、思いますッ!
もうこの際、魔王でもいいじゃんって思ってますッ!
「ちょっとアンタっ、何をニヤニヤしてんのよッ! だからこっちは大変だったんだからねッ!」
「あ、ああ。でも、もう他の友達と合流できてんじゃん。ショボい男とのデートも切り上げられたんだし、結果オーライだろ?」
「いやぁ、その言い方はどうよ?」
「うん?」
その、妙にねちっこいというか、絡みたがり気質丸出しのセリフは、姉ちゃんが一緒にいた男のものだった。
……何だろう?
ガチガチのヤンキーではないけれど、ヤンキーっぽい。
前にニュースで見た、マイルドヤンキーってヤツだろうか?
ただ、何かこう、ニヤニヤ笑いがうっとうしい。
「俺の友達をさぁ? 酷い目に合わせておいたくせに、今のセリフはないって思うだろ、なぁ?」
「……」
俺は別に、沸点の低い人間じゃあない。
けど、コイツの言い方は、かなりイラッとさせられる。
正直、才能だと思う。
この、自信ありげにニヤけた顔も、ポイントが高い。
ここで唐突だが、正直に言おう。
俺は、ケンカはかなり強い方だ。
最初に、「趣味で格闘技をやってる」と魔王に言ったのを覚えてくれているだろうか?
あと、ばあちゃんの時の話。
ばあちゃんは、薙刀や合気道を人に教えられるレベルってヤツ。
それはつまり、そういうコトなわけで。
もちろん、魔王に勝てるなんてありえないけれども。
その辺のヤンキーもどきに負けることも、まずない。
「そう思うのは、そっちの勝手だけどな? それを俺に、押し付けんなや」
「……へぇ? そういうコト言うんだ?」
ヤンキーもどきが、いよいよニヤニヤしてくる。
さっきの姉ちゃんは、他の二人の女の子たちと一緒になって、ヤンキーを応援するみたいにしてる。
店では、マスターに食って掛かってた馬鹿を止めてたんだけどなぁ……。
そんなことを思いながら、こっちはちょっと、上から見下すような目でヤンキーもどきを見る。
こういうのは、気合いが肝心。眼力、大事。
お前も強いかもしれんが、こっちも強いんだぞ?
ケンカ? おう、やってやってもいいぞ?
ただし、お前も痛い目に合わせてやるからな。
その気持ちを乗せて、ヤンキーもどき見下ろす。
実は、これでけっこうケンカは回避できたりする。
勝てると分かりきってない勝負をする人間は、あんまりいない。
ところが。
「ッ!?」
俺はとっさに、パンチを避けるみたいに上体を右に倒した。
その、俺の髪をかすめて、“何か”が飛んでいく。
バンッと、“ソレ”が俺の後ろの自販機を叩いていた。
「……へぇ?」
ヤンキーもどきが、意外そうな顔をする。
よく避けたな、とでも言いそうだ。
けど、口元はまだまだ余裕でニヤニヤしている。
俺はけど、一歩下がってヤンキーもどきから距離を取った。
(ちょっと待て、コイツ、今、何をした?)
自慢するけど、俺の動体視力はちょっとしたもんだ。
おかげで、そこらの部員よりも野球は得意だし。
その俺が、何をされたか、見えてなかった。
いや、そもそもおかしい。
ヤンキーもどきは、何も予備動作を見せなかった。
パンチなんて、もってのほかで。
何かを投げるような素振りも、見せていない。
(指弾だっけ? 指でパチンコ球とか、硬貨を弾くのって)
どこの拳法マンガだよって気もするけど、ただ、それも違うと思う。
それならそれで、腕に力が入るのが見えたと思うし、何より、飛んでいった“ソレ”を、俺は見えたはずなんだ。
なのに、何も見えなかった。
「まさか、避けてくれるなんてなぁ? いいぜ? じゃあ、これでどうよッ?」
「ッッ!!??」
とっさに、上げた右足の、その地面でまたバンッと、叩くか弾けるかな音が鳴る。
間髪入れず、次は左。右、左、両足ジャンプッ。
その度に、俺の足元で“何か”が弾ける。
「……お前、どういうことだよ?」
「そりゃ、お前、コッチのセリフだろうが」
ヤンキーもどきが、ようやくニヤニヤ笑いを消して、苛立たしそうな顔になる。
ここまで避けられるとは、思ってなかったんだろう。
正直、俺もここまで上手く避けられるとは、思ってなかった。
多分というか、間違いなくというか。
普通の人間だったら、何をされたかわからないうちに、ノックアウトされているんだろう。
だが、腐っても元勇者!
その肩書きが、こんなに役立つとは思わなかったぜ!
(ていうか、コレ、ホントに何されてるんだろうな? 魔法とか? そういうのやっぱり、この世界にもあるのか?)
それか、コイツもどっかの世界からの転生者、とかね。
俺や魔王がそうなんだから、他にもそういうヤツがいたって、おかしくはない。
そんなふうに、俺が割り合い、冷静に分析している一方で。
ヤンキーもどきは、かなりご立腹なご様子だった。
「調子くれてんじゃねぇぞ、テメェ? ならッッ……これで、どうよッ!!??」
「ッッッ!!??」
避けッ……ッ!!??
「ぐぁッ!?」
「ハッハァッ! ざまぁっ!!」
今まで以上に大きな“ソレ”を、避けきれないで……ッ。
俺は腕を思い切りぶん殴られたような衝撃で、グルンッと身体を一回転させて倒れてしまう。
その時、「キャァっ」という悲鳴が聞こえた。
そりゃそうだ。
ここは、商店街の端の方、とはいえ、まだ中なわけで。
人通りだって、全然ある。
今さら気が付いたけど、ちょっと遠巻きにされてたりする。
いや、うん。
この状況は、最近、魔王のせいで慣れてたから、あんまり気になってなかったんだが。
「ねえ、もういいよ。ソイツも、わかったと思うし。そろそろ行こ?」
ヤンキー的姉ちゃんが、ヤンキーもどきの腕を引く。
そもそもの原因はお前だろうがッ、というツッコミを飲み込む。
ヤンキーもどきは、ふんっと鼻息を鳴らして、姉ちゃんの腕を振り払う。
ただ、でも。
その勝ち誇った顔を見るに、満足はしてるっぽい。
このまま負けるのは癪だけれども、まあまあ、俺も特にケンカがしたいわけでもないし。
「ふんっ、馬鹿が調子づきやがってッ。馬鹿は馬鹿らしく、次からは隅っこを歩いてろよ、わかったなッ?」
クッソ、コイツッ!
お前がその気なら、まだまだヤってやんよッ!?
と思ったけれども、口には出さなかった。
何故ならば。
何故なら、俺は平和主義者……だからではなくて。
「……お前、今、何と言った……?」
もちろん、買い物を終えた魔王が、店から出てくるのが見えたからだ。