表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/74

第24話 厨二バトルは突然に。……え? 厨二じゃなしに、異能者バトル?? しかもシリアス展開!?


「よう、お疲れ」

「“お疲れ”じゃないわよッ! アンタのせいで、こっちは死ぬかと思ったんだからねッ!」

「俺のせいじゃなしに、俺のツレのせいだろ?」

「彼女のヤったことは、彼氏の責任でしょッ!」

「ッ……い、いや、彼女じゃねーし」

「何、その嘘? そんなの通用する訳ないでしょッ!」

「……」



 これは、俺はどう反応したらいいんだ?

 魔王みたいな美少女の彼氏と思われることに、ニマニマすれば良いのか?

 それとも、もっとこう、恐慌状態をきたすとか?

 ……何かよく、自分でも分からなくなってきたぞ?

 最初に、コロッケのとこのおっちゃんに言われた時は、速攻で否定できたのに……。



(それはつまり、魔王さんが彼女だったらいいなぁと、貴方が思っているからですよッ!!)



 ぅおッ!?

 だから急に出てくんなよッ、お前(俺)はッ!!

 いや、もう、はい、わかってる。わかってますとも。

 俺も、「魔王が彼女だったら、案外、アリじゃね?」って思ってますッ!

 そうだったらいいなって、思いますッ!

 もうこの際、魔王でもいいじゃんって思ってますッ!



「ちょっとアンタっ、何をニヤニヤしてんのよッ! だからこっちは大変だったんだからねッ!」

「あ、ああ。でも、もう他の友達と合流できてんじゃん。ショボい男とのデートも切り上げられたんだし、結果オーライだろ?」



「いやぁ、その言い方はどうよ?」

「うん?」



 その、妙にねちっこいというか、絡みたがり気質丸出しのセリフは、姉ちゃんが一緒にいた男のものだった。

 ……何だろう?

 ガチガチのヤンキーではないけれど、ヤンキーっぽい。

 前にニュースで見た、マイルドヤンキーってヤツだろうか?

 ただ、何かこう、ニヤニヤ笑いがうっとうしい。



「俺の友達をさぁ? 酷い目に合わせておいたくせに、今のセリフはないって思うだろ、なぁ?」

「……」



 俺は別に、沸点の低い人間じゃあない。

 けど、コイツの言い方は、かなりイラッとさせられる。

 正直、才能だと思う。

 この、自信ありげにニヤけた顔も、ポイントが高い。



 ここで唐突だが、正直に言おう。

 俺は、ケンカはかなり強い方だ。

 最初に、「趣味で格闘技をやってる」と魔王に言ったのを覚えてくれているだろうか?


 あと、ばあちゃんの時の話。

 ばあちゃんは、薙刀や合気道を人に教えられるレベルってヤツ。

 それはつまり、そういうコトなわけで。

 もちろん、魔王に勝てるなんてありえないけれども。

 その辺のヤンキーもどきに負けることも、まずない。



「そう思うのは、そっちの勝手だけどな? それを俺に、押し付けんなや」

「……へぇ? そういうコト言うんだ?」



 ヤンキーもどきが、いよいよニヤニヤしてくる。

 さっきの姉ちゃんは、他の二人の女の子たちと一緒になって、ヤンキーを応援するみたいにしてる。


 店では、マスターに食って掛かってた馬鹿を止めてたんだけどなぁ……。


 そんなことを思いながら、こっちはちょっと、上から見下すような目でヤンキーもどきを見る。

 こういうのは、気合いが肝心。眼力、大事。


 お前も強いかもしれんが、こっちも強いんだぞ?

 ケンカ? おう、やってやってもいいぞ?

 ただし、お前も痛い目に合わせてやるからな。


 その気持ちを乗せて、ヤンキーもどき見下ろす。

 実は、これでけっこうケンカは回避できたりする。

 勝てると分かりきってない勝負をする人間は、あんまりいない。



 ところが。



「ッ!?」



 俺はとっさに、パンチを避けるみたいに上体を右に倒した。

 その、俺の髪をかすめて、“何か”が飛んでいく。

 バンッと、“ソレ”が俺の後ろの自販機を叩いていた。



「……へぇ?」



 ヤンキーもどきが、意外そうな顔をする。

 よく避けたな、とでも言いそうだ。

 けど、口元はまだまだ余裕でニヤニヤしている。

 俺はけど、一歩下がってヤンキーもどきから距離を取った。



(ちょっと待て、コイツ、今、何をした?)



 自慢するけど、俺の動体視力はちょっとしたもんだ。

 おかげで、そこらの部員よりも野球は得意だし。

 その俺が、何をされたか、見えてなかった。


 いや、そもそもおかしい。


 ヤンキーもどきは、何も予備動作を見せなかった。

 パンチなんて、もってのほかで。

 何かを投げるような素振りも、見せていない。



(指弾だっけ? 指でパチンコ球とか、硬貨を弾くのって)



 どこの拳法マンガだよって気もするけど、ただ、それも違うと思う。

 それならそれで、腕に力が入るのが見えたと思うし、何より、飛んでいった“ソレ”を、俺は見えたはずなんだ。

 なのに、何も見えなかった。



「まさか、避けてくれるなんてなぁ? いいぜ? じゃあ、これでどうよッ?」

「ッッ!!??」



 とっさに、上げた右足の、その地面でまたバンッと、叩くか弾けるかな音が鳴る。

 間髪入れず、次は左。右、左、両足ジャンプッ。

 その度に、俺の足元で“何か”が弾ける。



「……お前、どういうことだよ?」

「そりゃ、お前、コッチのセリフだろうが」



 ヤンキーもどきが、ようやくニヤニヤ笑いを消して、苛立たしそうな顔になる。

 ここまで避けられるとは、思ってなかったんだろう。

 正直、俺もここまで上手く避けられるとは、思ってなかった。



 多分というか、間違いなくというか。

 普通の人間だったら、何をされたかわからないうちに、ノックアウトされているんだろう。

 だが、腐っても元勇者!

 その肩書きが、こんなに役立つとは思わなかったぜ!



(ていうか、コレ、ホントに何されてるんだろうな? 魔法とか? そういうのやっぱり、この世界にもあるのか?)



 それか、コイツもどっかの世界からの転生者、とかね。

 俺や魔王がそうなんだから、他にもそういうヤツがいたって、おかしくはない。


 そんなふうに、俺が割り合い、冷静に分析している一方で。

 ヤンキーもどきは、かなりご立腹なご様子だった。



「調子くれてんじゃねぇぞ、テメェ? ならッッ……これで、どうよッ!!??」

「ッッッ!!??」



 避けッ……ッ!!??



「ぐぁッ!?」

「ハッハァッ! ざまぁっ!!」



 今まで以上に大きな“ソレ”を、避けきれないで……ッ。

 俺は腕を思い切りぶん殴られたような衝撃で、グルンッと身体を一回転させて倒れてしまう。


 その時、「キャァっ」という悲鳴が聞こえた。

 そりゃそうだ。

 ここは、商店街の端の方、とはいえ、まだ中なわけで。

 人通りだって、全然ある。

 今さら気が付いたけど、ちょっと遠巻きにされてたりする。


 いや、うん。

 この状況は、最近、魔王のせいで慣れてたから、あんまり気になってなかったんだが。



「ねえ、もういいよ。ソイツも、わかったと思うし。そろそろ行こ?」



 ヤンキー的姉ちゃんが、ヤンキーもどきの腕を引く。

 そもそもの原因はお前だろうがッ、というツッコミを飲み込む。

 ヤンキーもどきは、ふんっと鼻息を鳴らして、姉ちゃんの腕を振り払う。


 ただ、でも。

 その勝ち誇った顔を見るに、満足はしてるっぽい。

 このまま負けるのは癪だけれども、まあまあ、俺も特にケンカがしたいわけでもないし。



「ふんっ、馬鹿が調子づきやがってッ。馬鹿は馬鹿らしく、次からは隅っこを歩いてろよ、わかったなッ?」



 クッソ、コイツッ!

 お前がその気なら、まだまだヤってやんよッ!?



 と思ったけれども、口には出さなかった。

 何故ならば。

 何故なら、俺は平和主義者……だからではなくて。



「……お前、今、何と言った……?」



 もちろん、買い物を終えた魔王が、店から出てくるのが見えたからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ