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第23話 女の買い物。その傾向と対策。


「お? お? おっ!? お~~~っ!!」

「ふふん、どうよ?」

「凄いではないか、悟!」

「はっはっは、もっと誉めていいぞ!」



 魔王の賞賛に、俺はドヤ顔で応える。

 いや、単にクレーンゲームで人形を取っただけなんだけどな?

 まあ、魔王とはいえ、しょせんは女。

 女が、人形のたぐいに弱いのは、姉ちゃんで実証済み!

 ありがとう、姉ちゃんッ!



(とりあえず、魔王を女の子と認めるところから始めたんですね?)



 ひぃっ!?

 また何か変な心の声がッ!!??

 何で今日はそんな、自分で自分を追い詰めにかかってんの、俺ッ!?

 いいじゃんっ、女の子とか置いといてさぁッ!

 楽しめればいいでしょッ!!



(それは否定しませんがね? ただ、クレーンゲームが得意になった理由が、お姉さんにお土産をGETするためだった、というのは、魔王さんには伏せておいた方が良いと思いますよ?)



 あぁッ!! もう黙れ、お前はッ!!

 って、お前は俺かッ!?

 クソッ!!



「どうした、悟?」

「えッ? あ、ああ、いや、何でもないよ」



 止まらないセルフツッコミに、ひとまず区切りをつける。

 魔王が、俺の取ってやったカピパラのぬいぐるみを抱いて笑う。



「それにしても、まさか本当に一度で取るとはな! 驚いたぞ、悟」

「いやまあ、これくらい普通だって」

「だが、私は5回も挑戦して取れなかったぞ?」

「そりゃ、お前、やりこみ回数が違うだけだ」

「悟は、そんなに回数をこなしているのか?」

「そりゃまあ……ッッッ」



 一時期、姉ちゃんにぬいぐるみをプレゼントするのが俺の中でハヤったから。

 いや、それは姉ちゃんがすごい喜んだからなんだけど……。

 その言葉を、もちろん俺は、飲み込んだ。

 ありがとうッ! さっきの俺ッ!!



「友達の練習に付き合ってやってた時期があったんだよ。ソイツが、彼女に“取って”って言われて、取れなかったのが悔しかったからって」

「なるほど。その経験が活きた訳だな!」



 魔王が、何とも嬉しそうに笑う。

 それがちょっともう、まともに見れないレベルで……ッ。

 クソッ、絶対、俺、顔が赤いって……ッ!



「ふふふ、よし。それでは悟よ、次は私がお前にプレゼントを進呈しようではないか」

「は? いや、いいってそんな」

「いいや、そうはいかん。これは、私たちの大切な初デートの記念だ。お前にも、そういう物をもっておいてもらいたい」

「ぅぐッッ」



 クッソッ!

 だからコイツ、そういうッ……ッ!!

 やっぱりッ……!!

 やっぱりコイツ、そうなのかッ!?

 脳内裁判でやったみたいな、コイツ、俺のこと……ッ!?


「何をしている、悟。次に行くぞ」

「ッ、お、おうッ」



 ということで、とりあえず俺と魔王はゲーセンを後にした。

 そうして、次に連れて行ったというか、連れて行かされたのが、何故か手芸店だったりする。

 いや、あるのは知っていたし、入ったこともありはするが、俺が進んで行こうと思うような店ではない。

 でも、魔王が行きたいと言えば、俺に否はないのだ。



「……」



 そして俺は今、暇を持て余していた。

 女の買い物が長いのは、もちろん、姉ちゃんで知っている。

 だからまあ、時には別行動をすることもある。

 あるけど、それをするとやっぱり、姉ちゃんはションボリする。

 大丈夫だよって、いいよ、行っておいでって笑うけど、どうしたって残念そうだ。

 だから、我慢して姉ちゃんの買い物に付き合う。

 俺が一緒にいて、何をするわけでもないけれど。

 いるだけで姉ちゃんは嬉しそうだから、俺もそれに付き合う。

 その経験が今、活きている……ッ!



(と言っても、暇なもんは暇だ)



 俺は、魔王からちょっと離れたところで溜息を漏らす。

 魔王は今、ビーズをアレコレと手に取ったりして選んでいる。

 正直、どれも同じ見えるんだが……。



(ふぅ……)



 俺はまた溜息をついた。

 スマホでゲームでもしてようかと思うんだが、それはそれで機嫌を損ねるのは想像に難くない。

 ちなみに、俺がスマホをいじりだした場合の姉ちゃんの反応は、ちょっと寂しそうに笑うとか、待たせててごめんねと、すごく申し訳なさそうにするのかの、どっちかだ。

 そのどっちも、ちょっと俺にはシンドい。


 では、魔王はそのどちらの反応を見せるのか?

 あるいは、そのどちらでもない反応になるのか?


 …………。

 試すには、ちょっと命がけになりそうだ。

 かといって、ボケーッとし続けるのも、やはりダルい。



「なあなあ、ちょっと俺、ジュース買ってくるな?」

「うむ。時間をかけていてすまないな。もう少しだから」

「いいっていいって、好きなだけ見てろよ」

「すまない」



 俺は、魔王にそうことわって、店の外にあった自販機に向かう。

 とりあえず、家ではあまり飲まない炭酸を買う。

 ガコンと落ちてきた、よく冷えた缶を取って、近くの縁石に座る。

 フタを開けると、プシュッと音がして、泡が弾ける。



「……ぁ~……」



 平和だなぁ……と、そんなことを思ったり。

 空は青く、雲がゆるやかに流れる。

 通りを行き交う人達も、みんな楽しそうだ。



(魔王がすぐそこにいるんだけどなッ!!)



 そんなツッコミも、あんまり意味をなしてないというか。

 ホント、つくづく信じられない。

 あの魔王が、手芸店でビーズを選んでるんだぞ?

 前世の魔王を知る身にすれば、ホント、ありえない事態だ。



「……ふぅ……」



 まあ、それは言っても仕方がない。

 俺はまた、炭酸ジュースを一口飲んだ。

 シュワッと、喉に弾ける。



「あ~っ、アンタッ!」

「うん?」



 俺のことか? と思って顔を上げたら、ホントに俺のことだった。

 さっきの姉ちゃんが、ちょっと向こうで俺のことを指さしていた。

 面倒くさいなって思ったのは、姉ちゃんの他にも人がいたから。

 男が一人に、女が二人。全部で四人。



 俺は、ちょっと首を伸ばして手芸店の様子を窺った。

 魔王の姿が、見え隠れしている。

 こちらにはもちろん、気づいていない。



 まあ最悪、魔王を召喚すれば良いか。

 俺はそう考えながら、立ち上がった。


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