表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/74

第21話 これが、一般人の魔王に対する反応です。


「はぁ……それじゃあ、そろそろ出ようか?」

「そうだな。おかげでタップリ堪能させてもらった」



 何をだよ? というツッコミは、あえて入れまい。

 まあ、うん。

 時間的に、12時を回って、客の入りもそこそこになってきている。

 こっちは、お茶も済ませたんだし、コレ以上の長居は無用だろう。

 そう思って、席を立つ準備を始めた時だった。



「ハァッ!? ふざっけんなよッ!?」



 何か微妙に裏返りかかった怒声が、店内に響き渡った。

 俺と魔王は顔を見合わせ、そちらの様子を窺う。



「オマエッ、客に髪の毛入りの料理出しといて、取り替えますですませるツモリかよッ!?」

「申し訳ございません……ッ」

「ちょっ、もうやめなよ」



 何か、微妙にヤンキーの入った茶髪の兄ちゃんが、マスターを怒鳴り散らしている。

 兄ちゃんのツレらしい、やっぱりちょっとヤンキー系の女の子が、兄ちゃんの袖を引いて入るが、まるで効果がないようだ。



「何だ、アレは?」

「まあ、見たまんまだろうなぁ」



 料理に髪の毛が入っていた。

 それを指摘したら、マスターは交換しますと申し出た。


 兄ちゃんは激怒した。

 必ず、かのお人好しなマスターから慰謝料をせしめねばならぬと決意した。

 兄ちゃんに料理は分からぬ。

 兄ちゃんはヤンキーである(多分でも、にわか)。

 武勇伝をうそぶき、女と遊んで暮らすのを夢見てきた。

 それだけに、メンツに対しては、人一倍に敏感であった。


「まあ、とりあえず様子を見てるしかないな。大丈夫だろ? たまに、こういうのあるって言ってたし」

「そうはいかん」

「は?」



 魔王はいきなり、スックと立ち上がっていた。

 そのまま、正しく王のごとく堂々と、マスターっていうか、わめいている兄ちゃんの方へ歩いて行く。

 もちろん、俺は魔王を止めるなんて無謀なことはしない。

 この後の惨劇を予見して、目を覆う以外に何ができると?



「ンだよッ、ッッ……ッッッ!?」



 兄ちゃんの威嚇の声は、魔王の姿を認めただけで、途切れていた。

 かわいそうに、いきなり顔面蒼白で、ブルブル震え出している。

 兄ちゃんのツレの女の子やマスターは、けっこうキョトンとしている。

 ということは、魔王は“魔王オーラ”を兄ちゃんにだけ絞り込んでいると見た。



「貴様は、私の食後の一時の邪魔をした」

「ッッッッッ!!!??」

「だが、私は慈悲深い。死ぬか去ぬか、選ばせてやろう」

「ッッッッッ!!!??」



 Oh……。

 兄ちゃんは腰が抜けたのか、ストンッとその場にへたり込む。

 そればかりか……ご愁傷さまです。

 いや、でも、飲食店でおもらしすんなよな……。

 俺たちはもう、食事を済ませてるからいいけどさ。



「どうした? 選べぬのなら、私が選んでやろうか?」

「ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ……ッ!!??」



 ……ぅっわ~~~……何か、エグいなぁ……。

 てか、そういうのって、ありえるんだなぁ……。

 過呼吸を起こしてる兄ちゃんの茶髪が、みるみる白髪になっていくぞ?

 どんだけの恐怖を与えてんだよ、魔王。

 そろそろ止めたがいいかなぁ……?

 とか思ったけど、ちょっと手遅れだった。



「ッッッ、ィヒッ……ッ!?」

「うん?」



 変な呻き声を漏らしたかと思うと、兄ちゃんはパタッと倒れてしまった。

 いや、死んでないだろうな、おい?



「え、えっと……?」

「ちょっと、大丈夫?」



 取り残されていたマスターと姉ちゃんが、兄ちゃんの様子を窺う。

 他の客たちも、なんだなんだとザワザワしだす。

 ちょっと、マズい。

 このまま救急車、なんて騒ぎになったら、マスターにとっちゃあいい迷惑だろう。

 ああ、もう仕方ないッ!



「おいおいっ、どうしたよ、タクヤっ? 持病の癪かぁ?」

「うん?」



 俺は、わざと大きな声を上げながら、魔王にっていうか、兄ちゃんの方に歩いて行く。

 店内の視線が集まってきて、かなり恥ずい。

 けど、俺はそれを無視して、兄ちゃんの傍に膝をついた。

 とりあえず、呼吸はしてるっぽい。



「あ~あ~、だからいつも言ってんだろ? 興奮し過ぎると、心臓に悪いってさぁ」

「ちょっとアンタ、何よいきなり?」

「知り合いだったのか、悟?」



 姉ちゃんと魔王が口を挟んでくるけど、それも華麗にスルー。

 いや、実際は心臓バクバクですけどね?

 声だって、ちょっと震えかかってるし。

 けどまあ、やりかけたんだから、最後までやらにゃあな。



「しょうがねぇなぁ。ほら、外に連れてってやるから、風を浴びようぜ」



 うっ、重いッ!!

 よいしょっと兄ちゃんに肩を貸すようにして立ち上がったけど、メッチャ重い。

 これは、アレだな。

 寝た子は重いってのと同じ理屈だな、うん。



「そこのアンタ、自分たちの分、払っといてね? マスター、うちらの分、後で払いに来るから」

「え? あ、うん?」



 俺の言葉に、マスターがとりあえずといったように頷いて。

 姉ちゃんは……頷いたかちょっとわかんない。

 まあ、しょうがない。

 今は退散するのが先だ。



「ほら、ちょっとドア開けてくれよ」

「うん? ああ、分かった」



 俺がアゴで示すと、魔王が案外素直にドアを開けてくれた。

 俺は、兄ちゃんを担ぐというか、引きずるようにしながら、えっちらおっちら、店から出て行った。






「ちょっと! 何なのよ、アンタ達ッ!!」



 兄ちゃんを、隣の隣のビルの階段に座らせたというか、寝かせたところで。

 遅れて出てきた姉ちゃんが、俺というか、俺たちに噛み付いてくる。

 俺は、汗を拭って姉ちゃんを見た。

 年は、大して変わんないっぽい。



「アンタのツレがアホなことしてたから、フォローしてやったんだろ? それより、金は払ってきたのか?」

「払ってきたわよッ」



 姉ちゃんはそう言うと、まだグッタリしたままの兄ちゃんのズボンのポケットを漁る。

 そうして財布を取り出すと、千円札を二枚抜き出してから、その財布をポンっと兄ちゃんの上に放り投げる。

 ……ちなみに。

 あの店だと二人でも二千円はいかないんだけどな?

 まあ、おつり分は迷惑料なんだろう、きっと。



「まったくもうッ! せっかくデートに付き合ってやったってのに、わけわかんないッ!」

「そいつはご愁傷さまで」

「だいたいッ、アンタの彼女がッ……ッッッ!!??」



 姉ちゃんが、硬直する。

 ニヤッ……と笑う魔王と目が合ったからだ。

 ホント、ご愁傷さまです。



「……貴様、今、何と言った?」

「ッ、ッ、ッッッッ、っぃやぁああああああああああっ!!!!」



 姉ちゃんは悲鳴を上げて、一目散に逃げ出した。

 何だなんだと、周囲の視線が姉ちゃんの方に向いて、それから、走り出したこっちに向く。

 まったくもって、やれやれだ。

 下手に注目を集めて、コレ以上の面倒に巻き込まれるのは勘弁願いたい。



「とりあえず、お前さ。魔王オーラを一般人に向けるのは、やめてやれよな?」

「今のは……そんなつもりは、なかったのだが……」



 魔王はちょっと、ションボリしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ