第16話 問1の答え:デートです。
「……ちょっと待て。お前、今、何て言った?」
「うん? “今日のデートは幸先が良いぞ”と言ったが?」
「ッッッッッ!!!!????」
デート、だと……ッ!!??
待て待て待て待て待てッ、ちょ~~~っと、待て?
何でそんな、“デート”なんて言葉が出てくるんだ?
俺はただ、魔王を案内しているだけだぞ?
(休日に、二人でか?)
おぉおおおおっ!?
何だっ!? 何だ、今の心の声はッ!!??
いや、休日に二人での、何がおかしいんだ!?
(男と女で、か?)
いやいやいやいやッ! 変な誤解すんなよッ!!
仲良かったら、別に男と女でも普通に一緒に遊ぶだろッ!!??
(ほう……仲が良い、と?)
ぃひぃいいいいいいいっっっ!!!???
待て待て待て待てッ! 頼むからチョット待ってくれ!
仲が良いってのは、言葉のアヤだよッ!?
だいたいッ、お前ッ、俺の心の声だろっ!!??
なのに、何で本人を追い詰めにかかってんだよッ!!??
泣くぞッ、おいッ!!??
「どうした、悟?」
「おひょほほほうっ!!??」
いきなり、間近で魔王に声を掛けられて、俺は奇声を上げながら飛び退いた。
魔王が怪訝そうに、眉間にシワを寄せていたりする。
「大丈夫か?」
「おッ、おぉう! 俺は全然だいじょうぶッ、だぜッ!」
若干、呂律の回らない舌でそう、答えて……ッ。
俺の心臓はバックンバックン、言ってて……ッ。
俺は、それを上からギュゥッと押さえるみたいにしながら、肩を喘がせる。
(いやいやいや、落ち着け。大丈夫大丈夫、問題ない。落ち着いてよ~く考えれば、慌てるようなことは何もないぞ?)
自分を裏切った心の声を追いやって、自分にそう言い聞かせる。
そうだ、何の問題もない。
デートだなんて戯言に、惑わされる必要は何もない。
だって、相手は魔王なんだぞ、魔王?
ちょっと考えればってか、考えなくても分かるだろう?
どこの世界に、魔王とデートする馬鹿がいるってんだよ?
俺はただ、魔王に逆らえないから、魔王に言われるまま、街を案内してるだけなんだってば。
そう、デートなんかじゃ、断じてないぞ?
大丈夫だ。
お前の相手を、もう一度、よく確認してみろ。
俺に、一切の拒否を認めない極悪な魔王だろう? ホラ!
「……ッ!?」
「うん?」
「ッ、な、何でもないッ……!!」
「ふむ?」
って、だから何でお前は美少女なんだよぉおおおおおおおおっ!!??
そんな、可愛らしく小首を傾げんなよッ!!!
卑怯だッ! 絶対卑怯すぎるッ!
こんな女の子に“デート”なんて言われたら、そりゃ勘違いもするっちゅうねんっ!
ああ、そうともッ!
魔王オーラはもうOFFにされてなくて、何かこう、スポット的な空間が既に出来ているけれども!
通り過ぎる男も女も、魔王を恐れているけれどもッ!
恐れサークルから外に出れば、「すげぇ美少女を見たッ!」ていう感動サークルに入ってるのを、俺は知ってますッ!
クソッ! クソッ! クソッ!
だがッ! だが俺は騙されんぞッ!
ていうか、純粋にまだまだ余裕で怖いんだってば!
だって相手は魔王ッ、なんだからなッ!
「ふんぬぅううううっ!!!」
ゴツンッッッ!!
「おっ、おい、悟ッ?」
「ふ、ふへ、ふへへへへへ……いやいや、超余裕で大丈夫だぜ?」
「いや、どう見ても大丈夫だとは思えんのだが……」
魔王が、若干何か、目を見開くみたいにしている。
へへ、あの魔王を驚かせてやったぜ。
俺の勝ちだな!
………………。
……いや、ごめん、けっこうマジ痛いです。
妄念を追い払うために、壁に頭突きをしたわけだけど……。
割りかしズッキンズッキン、痛い。
魔王が驚いたのと差っ引いても、痛み分けか……。
「よし。まあでも、大丈夫なもんは大丈夫だ。次行くぞ、次」
「お前がそう言うなら構わんが……だが、少し待て」
「うん? 何だよ?」
「少し染みると思うが、我慢しろ」
「ヒグッッッ!!!???」
ビキッて! ビキッてデコに痛みがッ!!??
「チョッ! オマッ!? 何をッ!!??」
「勇者が、これくらいで情けない」
「前世の話を持ちだしてんじゃねーよッ! てか、痛いっつってんだろッ!」
「もう終わるから、動くな。動かれると、拭きにくい」
「うぐっ……ッッッ!!!」
バッグから、多分、ウェットティッシュか何かだと思う。
取り出した魔王が、俺のデコをチョイチョイと、軽く撫でるみたいに拭いてくる。
それがけっこうやっぱり、ズキッてきて、涙目になるくらいに痛い!
「よし、終わったぞ。除菌もできるタイプだからな。何もしないよりかはマシだろう」
「ッ……あ、ありがとよ」
魔王が、やっぱりウェットティッシュだったモノをバッグに仕舞って、そう言って。
しかも、俺のデコを拭いた分は、丸めて自分のポケットに入れてしまってて……。
(ていうか、だからお前は無駄に女子力を発揮すんなよッ! 俺はもう泣きそうだよッ!!!)
せっかく!
せっかく人が、コイツは魔王だって気合い入れて確認しなおしたのに!
そんなことをされたら、デコを痛め損じゃないかッ!!
俺はだから、姉ちゃん以外の女の子に優しくされた経験がそんなないんだから、もっと気を付けろよなッ!!!
自分で言ってて、ちょっと虚しいけどッ!!!
「まったく……いったい、何を考えて額を擦りむくくらい、壁に頭突きをしたりしたんだ?」
「……男には、いろいろあるんだよ」
「なるほど?」
魔王は、それ以上深く追求しないで。
ただ、俺を見て、ふって笑って。
「さあ、悟。デートは始まったばかりだ。次はどこへ行くんだ?」
「ッ……ま、まあ適当に、な」
魔王に、嬉しそうに、そう、言われて……ッ。
微妙に視線を逸らせながら答えた、けれど……ッ。
頬が熱いのが、自覚できてしまってて……。
(何かもう、色んな意味で泣きそうだよッ!!)
俺は心の中で、そう悲鳴を上げていた。