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第14話 問1)休日に女の子と二人で買い物に出かけることを、何と言いますか?


(あぁ……俺は今、何をやってるんだろう……)



 駅前のロータリーにあるベンチに座って、俺はそんなことを考えていた。

 いや、もちろん何をやってるかは分かっている。

 人を待っているんだ。

 正確には、魔王を、だ。



 魔王が転校してきたのが月曜日で、今日はもう土曜日だ。

 その月曜から金曜まで、俺はそれこそ下僕のごとく魔王に仕えてきた。

 具体的には、朝の挨拶に始まり、休み時間の話相手、昼休みは昼食を一緒に取り、放課後は校門まで一緒に帰るという具合だ。



 確かに!

 確かにこれだけ見れば、どうってことはないだろう。

 むしろ何か、「お前ら、付き合ってんのかよ?」みたいな距離の近さなのは認めよう。


 けど、だから相手は魔王なんだってば!

 誰もが羨むような美少女なのも認めるとも!

 けど、魔王なんだぞ!?

 そこのところを、よ~~っく、考えてみてもらいたい。



(……でも、美少女なんだよなぁ……)



 おかげで、俺は何かクラスの男子たちの間で、微妙な立ち位置になってしまっている。

 理不尽な現実に、俺はまた溜息を零して、スマホで時間を確認する。

 9時50分。

 待ち合わせまで、まだ後10分はある。

 ちなみに、俺がここに座ってから、既に25分が経過している。

 これは断じて、俺が待ち切れずに早く来てしまったせいではない!

 万一にも、魔王が先に着てたらどうしようという恐怖が、俺の出発を早めさせたにすぎないのである、まる。





 さて。

 じゃあせっかくだし、魔王を待っている間に、何だって俺が魔王と待ち合わせをしているか、それをもう一度、思い出してみよう。



 俺たちの住んでいる羽多野市は、人口30万人を楽に超えるベッドタウンだ。

 俺は地元民で、市の北側にある古くからの住宅街に住んでる。

 魔王は、南側に開拓された新興住宅地の中の、大きなマンションに引っ越してきている。

 市の中心部を線路が東西に延びていて、駅はほぼ真ん中にあるといっていい。


 都心に出る方がもちろん遊び場や店は多いんだけど、ここ何年か、何でか若者向けの古着屋やラーメン屋なんかが増えてきてて、わざわざ市外から羽多野に遊びに来る人も多くなってたりする。


 そのせいで、ほら。

 今、俺の周りにも待ち合わせをしている大学生っぽいグループやら、駅から出てくるカップルやらがいくつも見える。

 そんな中で、俺は魔王を待っている。

 何故か?

 もちろん、魔王が言い出したからだ。

 ちなみに、こんな具合だ。



「悟、明日は何か予定があるのか?」

「え? 何で?」

「私はこの町に越してきたばかりだからな。案内をして欲しい」

「はっ? な、何で?」

「何でも何も、理由は今、言ったではないか」

「ッ、お、おう……」

「それで? 案内を頼めるか?」



 そう言われて、俺に「無理」とか言えるはずもないだろう?

 いや、改めて思えばだな、「予定があるか?」って聞かれた時に「ある」って答えるべきだったんだよな。

 それはホント、失敗だった。

 次からはちゃんと気を付けようと思う。



(だいたい、でも、何で休みの日にまで魔王と一緒にいなきゃなんないんだよ……?)



 俺はこの週末、引きこもるつもりだったのに!

 家でダラダラDVDを見て怠惰に過ごして、そうしてこの一週間で緊張しまくった精神のバランスを取ろうと思っていたのに!

 何でまた、休みの日まで魔王に付き合わなきゃならんのだっ!


 いや、もちろん分かってるよ。

 断れなかった俺が一番悪いのはさぁ。

 けどだから、どうやったら魔王の要求を却下できるのかってことだよ。



(そこはもっと、ちゃんと考えなきゃなぁ……)



 ただ、実は、最近ちょっと思っているのが、普通に断れるんじゃねーの? ってことだ。

 魔王って、自分でも言ってたけど、案外、普通なところっていうか、話の通じるところもあるんだよな。

 だから、「ちょっと用事があるから」とか言うと、普通に通用しそうな気も、してはいるんだよ。

 問題は、けっこう魔王って追及が鋭いっていうか……あいまいな言葉では許してくれないっていうか……。


 例えば、さっき思い出した昨日の会話をシミュレーションしてみよう。



「悟、明日は何か予定があるのか?」

「おう、あるぞ」

「それは、重要な用事か?」

「いや、重要って言うか……」

「具体的に聞いても問題ないか?」

「……いや、まあ、ただ、DVDのレンタルを返しに行こう的な?」

「ふむ。ならば基本、時間は空いているということだな?」

「ま、まあ、そう言えなくもないかな?」

「ならば明日、私に付き合ってもらいたい」

「は?」

「私はこの町に越してきたばかりだからな。案内をして欲しい」



(ッ……おぉう……我ながら、何という完璧なシミュレート……)



 逃げようとして、見事に失敗している様子が、ありありと目に浮かんでくる。

 ここはやはり、親戚の不幸なり何なり、もっと正当性の高い言い訳を用意しないとな。



(って、俺は会社をサボるサラリーマンかよっ!?)



 俺がそんなツッコミを自分に入れた時だった。

 俺にはもう、お馴染みとなった現象が向こうからやってきた。


 不規則に行き交っているはずの人の動きが、ある一点だけ、綺麗に揃う。

 ぶっちゃけ、モーゼ的な何かだ。

 あるいは、レッドカーペットって言ってもいい。

 実際、ヤツはその上を歩くにふさわしいしな。困ったことに。

 今だって、そうだ。



 顔を上げた俺は、見事に作られた人の通路の向こうに、その姿を簡単に見つけることができた。


 胸元に、ちょいV字に切り込みの入った、刺繍入りの白いチュニック。

 その裾とほとんと同じ位置までしかない、かなり短めのショートパンツ。

 おかげでまず、脚をガン見してしまった。

 いや、だって制服だと、ここまで脚を出してないしさぁ……!



 魔王も、すぐに俺に気付いたようで、パッと顔をほころばせる。

 その嬉しそうな顔が、もうどうしたらいいのか……。


 そんな風に気持ちを持て余す俺の方に、魔王が小走りに駆けてくる。

 俺の隣に座っていた大学生っぽい男の人が、慌てて逃げ出す。

 そんな様子に、俺はそっと溜息を零して魔王を待った。



「早めに来たつもりだったが、待たせてしまったか?」

「いいや、俺も、さっき来たばっかりだよ」

「そうか」



 俺の言葉に、魔王はちょっと、ホッとしたっぽく笑う。

 いや、そう言うしかないだろ?



「では、悟。今日はよろしく頼むぞ?」

「はいはい、任せとけって」



 魔王の、ちょっと期待してるような瞳に、俺はとりあえず、そう頷いたのだった。


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